第25話 ただのお茶会? ○アリス&イリス▼



週末

ベルトハイド公爵邸・お茶会・続

アリス&イリス




 お茶会は順調に進んでいる。



 各パーティが謎解きの為に席を立ったり、話し合いのために、互いのヒント覗き込んだり、互いの思考を聞き合ったりしている。


 そんな事をしていると、何の関わりも無かったはずの男女は、徐々に打ち解け、距離が縮まり始める。


 そして、気が付いた時には、そこかしこから楽しそうな笑い声が、聞こえはじめた。



 皆が楽しそうに、時間を忘れて謎解きに取り組んでいる。

微笑ましい空気が蔓延し、楽しげな空間になっていた。




▼△▼



 けれど、このお茶会はベルトハイドが企画し、主催したものだ。


 だから、今日のお茶会も、アリスのお楽しみだけでなく、本計画の一部でもあるので、当然ながら目的も存在している。


 1つはイリスが令息達に説明していた通りで、この茶会で貴族の令息達に【自由恋愛】を理解させる。という、目的がある。



 そして、この目的を達成させる為に、ベルトハイドによる綿密な計算に基づいた、幾つもの仕掛けが施してあった。



 例えば、席割り。無作為に決められたように見えて、全てを計算しつくして、割り振られている。



 令嬢と令息の家格と爵位。仮に結びついた時の、利点と欠点。資産と領地の関係や、業務の繋がり。その他、様々な事項を考慮した上で、将来望める利益。全てを、計算し尽くした上で、決定されている。



 【自由恋愛】を理解させると言っても、別に今回のお茶会で、男女が恋愛的に結びつかなくても構わない。交流して友人関係になる機会とするだけでも、未来の可能性が広がるだろう。



 それに、人の心がどう動くかまでは、誰にもわからない。



 けれど、もし結びつくのであれば、得が多い方が良い。

 


 そんな事を考えて、決められている。



 続いて、渡される課題。


 これに関しても、仕掛けがある。


 本来、競争と謳うのであれば、課題は同じもの、もしくは、同じ難易度のものを配るべきだが、この茶会で各テーブルに割り振られる課題は、均等のように見えて、まったく均等では無い。



 今回配られる課題は、参加した男性陣の資質が、存分に活かされるような課題となっている。



 運動が得意な者には、身体を動かす課題を。

 考える事が得意な者には、頭を使わせる課題を。

 1人で何でも出来る者には、他を引っ張って1人で進められるような課題を。

 逆に協調する事が得意な者には、皆で考えるような課題を。



 それぞれの得意な分野を活かせるように、課題を割り振っている。


 この様な課題配分をする事により、解答者たちは、ある種の快感を覚えながら、積極的に課題に取り組める…そんな状況を、作り出している。



 そして、課題がスルスルと解ければ、自ずと心には余裕と自信が生まれる。



 結果的に、例え競い合いの最中でも、本人達の自尊心を傷付けない中で、心に余裕を持ち、周囲と良好な関係を築きやすくなるだろう。





 そして、様々な事を考えて整えた状況を存分に活かせるように、各グループをベルトハイド家の使用人達が、万全の体制でフォローアップしている。


 今日の彼等は、給仕を行うだけではない。


 適切なタイミングで、曖昧なヒントを提供したり、時には一緒に悩んでみせたり、ぎこちない会話のキャッチボールを手伝ったり、とベルトハイド家の使用人の中でも、コミュニケーション能力に長けた選ばれし精鋭達が、各テーブルを全力でサポートしている。



 彼等のサポートは、気付かれる事はない。


 けれど、確かにそこに存在している。



 後はもう1つだけ、ベルトハイドが用意した仕掛けがあるが、それは全ての謎解きが終わるときに、明らかになるだろう。



▼△▼



 そして、最後の鍵となるのは、アリス自身が令嬢達に施した仕掛けであった。



 アリスはお茶会に参加する令嬢達に、事前にある提案をしていた。



 アリスは令嬢達に対して、楽しいことをしようと誘いをかけ、『ミーナ嬢に惚れた男共を、自分達に惚れさせてみようではないか』と、悪魔のような提案をしているのだ。


 つまり、令嬢達に、私達も束の間の【自由恋愛】を楽しんでみようじゃないか。と、持ちかけていたのだ。




 令息は、自由恋愛を理解する。


 令嬢は、自由恋愛を実行し楽しむ。


 たとえ同じテーブルに座っていても、それぞれ達成する目的が違っているのだ。



 令息は受動的で、令嬢は能動的。



 どちらも似ているようで、確かな差があった。



 運を天に任せて、恋愛関係や友好関係等の縁が生まれるのを待つよりも、どちらか片方が明確な目的を持ち、策略的に縁を結びに行く方が、成功率は格段に上がるだろう。



▼△▼



 令息達を落としてみようだなんて、真面目に貞淑に生きている令嬢達には、思いも至らないようなこの提案を、彼女達は目の色を変えて喜んだ。



 彼女達の反応は、ある意味当然だった。



 その理由は、ミーナ嬢が、何故あれほど疎まれていたのかを考えれば、自ずと答えは見えてくる。



 もちろん、ジーク殿下に近づくから、腹が立つという理由もあるだろう。



 だが、決してそれだけではない。



 多くの貴族の令嬢達は、自分の未来を自分で決める事は出来ない。家の為、政治の為、利益だけを考えて、売られるように嫁に出される。


 そして、それが貴族令嬢の役割だと、小さな頃から言い聞かされる。


 物のようにやり取りされる事が、当然だと受け入れられるように、育てられるのだ。



 そんな風にお利口に育った令嬢達にとって、自由に生きるミーナ嬢は、些か眩しすぎるのだ。



 お利口な令嬢達は、自由に生きている彼女を見ると、自分達が如何に不自由なのかを、考えずにはいられないのだ。



 アリス自身はベルトハイド公爵家で、割と自由に過ごしている。だから、自分の境遇をそこまで思い詰めてはいない。



 けれど、同じ貴族の令嬢として、一緒の時間を過ごす友として、アリスは令嬢達の気持ちを、痛い程理解していた。



 全ての人が満足し、恵まれた嫁ぎ先に行く事は、あり得ない。



 そもそも令嬢達には、選択権も決定権もない。その上、各々の問題だから、他者の介入も難しい。



 貴族である限り、女である限り、逃れられない運命を持つ令嬢達の、やり切れない気持ちを、少しだけでも晴らしてやる事が出来るかもしれない…。



 そんな風に友達思いな事を、少しだけ考えて、アリスは今回のお茶会を計画したのであった。



▼△▼



 けれど、そんな友達思いの部分が少しだけだとすると、アリスの中では、それよりも大きな部分を占めている目的が、別にある事になる。


 それは何かというと、アリスが『その方が面白くなりそうだ』と、判断したからだった。


 アリスは、どこまで行ってもベルトハイドらしい、ベルトハイドであった。



▼△▼



 そんなアリスの自分勝手で、享楽的理由から決められた計画は、アリスが想像していたよりも、上手く転がっていく。


 


 たかが男爵令嬢に出来る事が、小さな頃から貴族社会で揉まれて育った、頭も顔も良い、選ばれし令嬢達に、出来ないはずが無かったのだ。



 もちろんミーナのような、度を過ぎた失礼な態度は、彼女達には取れないだろう。



 けれど、ミーナ如きに惚れるような男達は、彼女達の敵では無かった。




 そして、ベルトハイドに仕組まれた課題は、それぞれの令息達が確実に活躍出来るチャンスを齎す。




 これは同時に、令嬢達が令息を自然に褒めるチャンスを作り出す。



 案の定、そこかしこで、顔を赤らめたり、緊張して声が大きくなってしまったり、照れて喋れなくなってしまっていたり、もしくは早口で喋り倒すような令息達が、見受けられる。



 令嬢達が今回参加している令息達を惚れさせたとして、将来的に彼等と結ばれる確率は高くはない。



 婚約は家同士が決める事を考慮すると、むしろ、その確率は限りなく低いと言える。



 未来がどう転ぶのか、人の心がどう動くのか、これは誰にもわからない。



 けれど、今後、彼等が引き起こすであろう混乱は、巡り巡って、ベルトハイドを楽しませる事だけは、確かに約束されていた。





 王位奪取計画・第三段階・種蒔き。

・令嬢達と令息達が、ベルトハイドの手の上で、艶やかに舞い踊る。



……………………………………………………


お読み頂き、ありがとうございます(*⁰▿⁰*)/



※本計画では、令息達を罠に嵌めて、貶める事が目的ではありません。


 ですので、令嬢達の人選はしっかりと行い、その上で、本人の希望と了承があれば、その令嬢が計画に参戦する。という行程を、踏んでおります。 


 道徳的に外れた行為をしよう!というわけではなく【貞節を守り、清く正しく、男友達を作ろう!】的なニュアンスです。


 令息達は元々顔が良く、人気な面々ですので、計画に参加する令嬢達もノリノリです。


 文中では、雰囲気重視で敢えて言葉足らずで、過激な表現となっておりますが、ご理解頂けると幸いです。


 また、令嬢達のお茶会の様子は、完結後に番外編としてお届け出来ればと思っております。


 今後とも、よろしくお願い致します(^^)


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