第20話 最終確認。 ▼イリス▼
計画調整・数日後
アカデミー・ランチ・展望テラス
兄・イリス
「みんなぁー!ジーク知らなぁいー?ミーナのところに来てないんだけどぉー!」
そう言って、テラスの扉を開け放ち、ミーナ嬢が勢いよく入ってくる。
どうやらジークが来なくて、少しご立腹な様だ。
だが、勢い勇んで入ったテラスにも、ジークは居ない。
それどころか、ミーナ嬢を待っているはずだった、令息達も予想に反してまばらであった。
ジークも令息達も、治癒ポーションにて治療中なので、アカデミーには来ていない。
ジークは外聞を考慮して、ベルトハイド公爵領で公務とされているが、実際には秘密裏にベルトハイド領内で療養中だ。
王族達が束の間の休暇を取る際に、良く使われる手段なので、違和感は少ないはずだ。
令息達も、外聞を考慮し、無理してでもアカデミーに顔を出す者以外は、治療に専念するはずだ。1〜2週間は出て来ないだろう。
「…あれ?みんなどこ!?」
ミーナ嬢が状況を見て、なにか異変を感じ取ったのか、慌て出した。
…そろそろ放置も限界か…。
「…やぁ、ミーナ嬢。ご機嫌よう?」
そう言ってミーナに声をかける。
「あぁ!イリスぅ!良かったぁー!イリスは居たんだ!!
ねぇ!ジークもみんなも居ないの!!どうして!?何処に行っちゃったの??」
「…うん。大丈夫だから、とりあえず落ち着いて?」
そう言って、近くに座る様に促す。
ミーナ嬢は、覚えの悪い小型犬の様に、促されるまま席に着く。
「ジーク殿下は、急な公務…仕事が入ったと聞いているよ…。
たぶん、しばらくはアカデミーに来ないんじゃないかな?他の人達に関しては…ちょっとわからないかな…ごめんね?」
敢えて、曖昧に状況を伝える。
「えぇー!そうなの!?ミーナ聞いてないぃ〜!
いきなりそんなの…寂しいよぉ…。
学生なのにお仕事なんて、間違ってるよぉ!学生はお勉強するのがお仕事なのにぃ!」
彼女の展開する理論でいくと、
『成績が落第スレスレで、講義への参加率も、参加態度も良くない彼女は、職務放棄に該当しているのではないか?』
と、思わず無駄な考察をしてしまう…。
…無駄な考察は忘れて、気持ちを切り替え、彼女に返答する。
「…そうだね。その通りだと思うよ。
けれど、王子のジーク殿下にしか、出来ない仕事なのかも知れないよ?
例えば、他国のお姫様の接待だったり、王国内の貴族の不正調査だったり、密輸の取り締まりだったり…
こういう対応は、ジーク殿下にしか…とまでは言わないけれど、少なくとも王族でなくては、難しいだろうからね…」
適当な仮定を提示した会話の中に、本当に聞きたい事を混ぜ込んで、相手の回答を待つ。
「えぇ!?お姫様!?ジークは他国のお姫様と結婚するの!?嘘っ!!ミーナは!?ミーナはどうなるの!?」
…色々と揺さぶりをかけてみたものの、どうやら徒労に終わったらしい。
彼女が1番気になるのは、不正でも密輸でもなく"お姫様"という単語のようだ。
「…落ち着いて?…お姫様といきなり結婚したりはしないよ。
それに、お姫様がジーク殿下と結婚しに来たのかどうかは…わからないからね?」
「え?どうゆうこと?ミーナわかんない!お姫様は王子様と結婚するんじゃないの?
だって、ミーナがジークと結婚したら、ミーナがお姫様になれるって!
…ミーナがお姫様になるのにぃ!」
「……確かに、お姫様が来たのなら、結婚とか婚約とか、そう言った話になるのかもしれないね。
けれど、必ずしもジーク殿下が相手とは、限らないよ?
ジーク殿下には、お兄さんが居るからね。
…もちろん、ジーク殿下のお兄さんも、王子様だよ。
…アレクシス殿下と言うんだけどね、性格も良くて、頭も良い。
それにジーク殿下とは方向性が違うけれど、アレクシス殿下も"格好良い"と女性達から凄く人気だよ…。
…だから、お姫様は、お兄さん王子様のアレクシス殿下と、結婚するのかもしれないね?」
彼女の耳には、彼女が気になった事が、僅かに…それも断片的にしか、入らないらしい。
他国の姫など、ただの可能性を提示しただけなので、実際には来て居ない。
けれど、訂正するのも面倒なので、そのまま話を推し進める。
「…ジークのお兄さん?…アレクシスでんか…格好良いんだ…」
ミーナ嬢は、今までの元気な様子とは一変して、うわ言のように呟いていた。
そして、ミーナ嬢が浮かべた表情は、今まで彼女が見せたどの表情とも違っていた。
周りの声なんて、聞こえていないようだ。
そんないつもと様子の違う彼女の耳元で
「…今日の講義が終わったら、…誰にも内緒で、会いに行ってみようか?」
と、怪しく囁く。
「…約束出来る?」
それを聞いた彼女は、目を輝かせて、コクコクと嬉しそうに頷いた。
王位奪取計画・第三段階・始動。
・ミーナ事件関与の最終確認。
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