第16話 第二の目的in王宮内 ○アリス○


計画実行

王宮・王妃殿下に謁見後

引き続きアリス視点




 王宮内。

 

 とある部屋まで移動する。



「貴女は!?…ジリアン・カルフル伯爵令嬢では、御座いませんよね!?」



「…ええ。アリス・ベルトハイドですわ。ご機嫌よう。アレクシス殿下にお会いしに参りましたの。本日この時間に、お会いする約束を頂いておりますわ」



 笑顔をのせて、言ってのける。



「貴女がなぜ!?何をしにこちらにいらしたのですか!?この時間はジリアン令嬢の…まさか!!別の令嬢の名を使い、王族を謀るなんて、これは立派な偽証罪ですよ!!」



 と、侍従が慌てた様に述べてくる。




 そう。



 私は、アレクシス殿下に会う為に、アレクシス殿下の執務室を訪問していた。



 第一王子派閥の適当な令嬢の名前を借りたものの、正規の手順を踏んで約束を取り付け、約束の時間に訪問したのだ。




 先程大騒ぎしていた、侍従の彼が言うように、別の貴族令嬢の名前を借りて、王族を欺く行為は、立派な偽証罪だ。

 


 当然そんな事は、わかった上でやっている。



 敵対派閥であるベルトハイドの名前を使い、殿下に約束を取り付けて会おうとすれば、大いに警戒されてしまうだろう。私なら警戒する。



 そのせいで、アレクシス殿下に会えない可能性が高まったり、会えたとしても不特定多数に囲まれた状況を、整えられてしまうかもしれない。


 今回の目的を達成する為に、そんな状況は回避したかった。



 因みに令嬢は、名前しか知らない。



 しかし、侍従の反応から、私とは容姿が全く似てなかったのか、殿下とよく会う顔の知れた人物だったのかもしれない。



 残念。



 もし顔が似ていたり、親交が無いのなら、そのまま通れたかもしれないのに…。



 バレてしまったものは仕方が無いので、目の前で騒ぐ侍従をやり過ごすため、目の前の状況に集中する。




「まぁ!犯罪だなんて!

 何か手違いがあったのかしら…不思議ねぇ?


 …けれど私のせいで、ほんの少しだけ、驚かせてしまったかしら…ごめんあそばせ?


 …それで、…アレクシス殿下にお会いしたくて、正規の手順で約束を取り付けて、約束の時間にお伺いしたのですけれど…本日は、お会い頂けるのかしら?


 …もしも、急な体調不良に襲われるご予定でしたら、お早めにお教えくださいませ?」




 と、爽やかに自分の言いたい事だけ述べて、有無を言わせない様な、朗らかな笑みを浮かべる。




「…!?無理に決まっているでしょ!?何を考えているのですか!?即刻お帰りくださいませ!!」



 アレクシス殿下の侍従と思しき彼は、声を荒げ顔を真っ赤にして、帰れと言ってくる。



 きっと正義感が強く、忠誠心の熱い、良い侍従なのだろう…。



 だが、せっかく来たのだ。



 ここで帰るわけがない。



「左様ですか。仕方がありませんわね…。

 殿下にお会いしたくて来たのに…残念ですわ。


 …けれど、よろしいのかしら?


 仮にも公爵令嬢を、主人に確認もせずに、独断で突き返した…とあれば、確実に責任問題になりますわ。


 貴方の為にも、確認だけはしておいた方が、よろしいのではなくて?」



 顔を傾けて、無邪気な笑顔で問う。



「…そ、それは…」


 動揺する侍従に、更に追い込みをかける。




「私はお会い出来なくても構いませんわ。

 もちろん残念ではありますけれど…。


 アレクシス殿下に、正式な手順で約束を取り付けたにも関わらず、無碍に追い返された。


 …という、確かな事実を手に入れる事が出来ますもの。


 その確かな事実を元に、被害者面して誰かに泣きついて、殿下を責め立てる予定ですから…あまり問題はないのだけれど…」




「…でも、もしかしたら、貴方が責められてしまうかもしれませんわね…私のせいで…。


 私は予定を変えるつもりはありませんし…困まりましたわ。


 …本当にお気の毒だわ…。下手したら、職や爵位を失ってしまうかもしれませんもの…私のせいで…」



 顔に手を当て、相手を慮り、思案するような表情を整える。



 そして、しばらく悩んだ素振りをしてから、手を合わせ閃いたかのような仕草を挟み、無邪気に述べる。




「…そうだわ!


 折角の機会ですもの、一緒に楽しみましょ?


 貴方は、私が、誰に、どうやって泣きつくのか、そして、その結果がどうなるのか…。


 存分に予想して、お楽しみくださいませ。

 

 私は貴方に楽しみを提供して、

 貴方は私が提供した状況を楽しむ。


 そうなれば、楽しめた貴方が、私を責める理由は、なくなりますわ。ね、そうでしょ?


 それが良いわぁ!そうしましょう?」




 そう告げて、にこやかに微笑む。


 ポカンと呆けている侍従を前に、更に畳かける。



「泣きつくのは誰がいいかしら?

 お母様?お父様?伯母様?それとも伯父様かしら?

 それに泣きつく理由も重要ね。

 楽しみだわぁ!どんなことが起こるのかしら?」

 



「っ!!!…ぁあ!もー!分かりましたよ!お待ちくださいませ!確認して参ります。期待せずにお待ちくださいませ!」



 そう言って、侍従の彼は、プリプリと怒りながら、主人の元へと確認に向かった。




 …可愛い人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る