第11話 被害状況の確認。 ▼イリス視点▼


計画実行2日目

アカデミー・ランチ

展望テラス

イリス視点



 午前の講義が終わり、ランチタイム。


 最近、意図して避けていた、展望テラスへと向かう。


 そこは、特別なことがない限り、ジーク殿下と令息達が多数集まって、ミーナ嬢を囲み、皆で食事を摂っている場所だ。



 展望テラスに入り、普段彼らが座る位置から少しだけ距離を置いて、近くで食事をする手配をする。



 …今日はまだ、ミーナ嬢は来ていないようだ。



 ちらほらと、先に着いて集まっている令息達は、料理には手をつけておらず、肘を突き頭を抑えていたり、机にうつ伏せている者までいた…。



 平民ならまだしも、貴族教育をきちんと受けている令息達の間では、決して見ることのない光景であった。



 その中には、ミーナ嬢が好きだと言っていた令息達も、何人か居た。



 今日ここに来た目的は、令息達がジーク殿下と同じように、体調を崩していたり、情緒が不安定かどうかを調べる為だった。



 ミーナ嬢が、手作り菓子に何かしらの細工をしているのであれば、ジークと同じ焼き菓子を食べている令息達にも、何かしら影響が出ているはずだ。


 

 静かにあたりを注意深く観察する。



 そして、しばらく観察した結果、令息達の様子も異様であった。



 …該当する令息達と、普段から交流があるわけでは無いので気が付かなかったが、やはりジークと同様に、様子がおかしかった。



 状況を把握し、原因を検討していると、ジークのエスコートでミーナ嬢がやってきた。



 ジークは笑顔ではあったが、目元には濃い隈が浮かんでいる。対してミーナ嬢は、何が楽しいのかはわからないが、今日もとても元気だった。

 


 テラスにやってきたミーナ嬢の姿を目にしたと途端、虚だった令息達が、一気に色めき出した。



「みんなぁー!今日もミーナの事待っててくれたのぉ?嬉しぃー!」

 と、ミーナ嬢が全身で、喜びを表現する。



 そして、そんなミーナ嬢の傍で、色めきだつ令息達を、ジークが愚かにも、睨み付けて牽制している。



 ジークは令息達の事を、ミーナ嬢を取り合うライバルのように感じているのかもしれないが、実際はジークを後援する貴族達だ。



 ジークもそんな事は、理解している。



 平常時であれば、このような対応は絶対にしないはずだ。



 やはり何かがおかしい。と、思わずにはいられなかった。




 …だが今は、正確に状況を把握する事が先決だ。



 再び目の前で繰り広げられる、おかしな光景に意識を戻す。



「今日はねぇ…ビスケット焼いてきたよー!みんなが喜んでくれるから、今日もミーナ忘れずに持って来たよぉー!褒めて褒めてぇー!」



 令息達から、うぉおお!と黄土色の歓声が上がる。



 …何処に盛り上がる要素があるのだろうか?


 …理解出来る範疇を超えている…。



 歓声に気を取られていたが、状況把握に意識を戻す。




 すると、ミーナ嬢がカゴから小袋を取り出して、順番に配っていた。



 令息達が並び、ミーナ嬢が小袋を差し出す。



 その光景はまるで、ミーナ嬢が高位貴族の令息達に、施しを授けているようだった。あまりの異様さに眩暈がする。



 ビスケットを貰った令息達は、急いで席に戻り、我先にとビスケットを食べ始める。



 そして、食べ終えた後に、恍惚とした表情を浮かべ、放心する…。



 これは、絶対に可笑しい…。




 何が入っているのか、どんな作り方をされたのかわからない、素人が作ったビスケットより、アカデミーに所属するプロの一流シェフが作った料理の方が、比べるまでもなく美味だろう。



 その料理には一切手を付けずに、ビスケットを貪り食う令息達…。



 違和感しかない…。



 ジークもビスケットを食べ、紅茶を飲んだ後すぐに、項垂れるような姿勢を取っていた。



 そして、ジークは食事の用意すら、拒否している始末だ。



 具合の悪そうなジーク。


 恍惚として放心した令息達。


 無邪気に楽しむミーナ嬢。



 異様な空間だと、言わざるを得ない。



「あぁ!イリスもいるぅー!ミーナに会いに来てくれたのぉー?嬉しぃなぁー!」



「…ご機嫌よう、ミーナ嬢」

 意外に目敏いな。見つかってしまった…。



「うふふー!ご機嫌ようイリスぅ。はい!イリスにもあげるぅー!ミーナが作ったビスケットだよぉ?一生懸命作ったから食べてねぇ?」



「…ありがとう。大切に食べさせて貰うよ」


 そう答えると、彼女は嬉しそうに笑って、自らの席へと戻っていった。



 自分が許容出来るか、好きか嫌いかは別として考えた時に、ミーナ嬢はいつだって純粋で、彼女からは悪意を感じられない…。



 幼い頃から、貴族社会で色々な悪意を目にして来たからこそ、自分の判断にはそれなりに自信がある。

 


 だからこそ、この状況が、不思議でならなかった。



 彼女から受け取った小袋を、丁寧にハンカチで包んでから懐に入れ、そのまま静かに退席した。




 王位奪取計画・第ニ段階。序章。

・ジーク殿下と高位令息達の被害状況の確認。

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