第10話 認識の変換はお茶会で ○アリス視点○



計画実行2日目

アカデミー・午後

貸切ティー・サロン

アリス視点



「皆様、本日はお忙しい中お集まり頂き、ありがとうございます。

 急な呼び出しにも関わらず、こうして集まって頂けたこと、心より感謝申し上げますわ」



 そう言って、王妃・第二王子殿下派閥のご令嬢達を集めたお茶会の場で、口火を切る。



「アリス様。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう。こちらこそ、お声がけ頂き、感謝いたしますわ」


 等と、同じ派閥の令嬢達が集まれば、お淑やかで、仲が良く、和気藹々とした雰囲気で、お茶会は和やかに始まる。



「皆様、ありがとう。


 本日お集まり頂いた理由は…


 既に、お聞き及びかもしれませんが、この度、私もジーク殿下の婚約者候補として、皆様とご一緒させて頂くことになりましたの。


 その事を、私の口から、直接皆様にお伝えしたかくて、お集まり頂きましたの」



 公爵夫人であるお母様が事前に宣言しているから、よっぽど耳が悪くない限り、婚約者候補の件は、既に周知の事実だ。



 その為、令嬢達の反応も内心はどうあれ、比較的穏やかなものだった。




「まぁ。丁寧なお心遣い、感謝致しますわ」


「ええ。これからよろしくお願い致します」


 と、内心はわからないが、肯定的な反応をする令嬢達と





「…婚約者候補が既にこんなにもいらっしゃるのに…まだお増えになるのね…」


「…アリス嬢が候補になると…私達にはチャンスも御座いませんわね…」


「…家格的にも、殿下との接点も、何もかも敵いませんものね…」


 と、否定的だったり、悲観的な反応をする令嬢達が居た。





 令嬢達の反応は様々だ。





 婚約者候補の令嬢達は大きく分けると、2つに分けられる。



 親族の推薦で、政略的な観点から婚約者候補になり、【ジーク殿下には興味のない令嬢】と、淡い恋心を抱き【本気でジーク殿下をお慕いしている令嬢】この2つだ。



 今回の発言への反応から、皆様の本心はわからないけれど、政略的対応だと割り切っている令嬢と、単純に恋敵が増えて困惑している令嬢が居た。


 

 私自身は、あくまで婚約者候補になるだけで、ジーク殿下の婚約者の座に座る気も無ければ、ここに居る彼女達と争う気も無い。



 その事実を明かしてしまっても良いけれど、今はまだその時では無いだろう。



「皆様。私が婚約者候補になることで、不安を覚える方も、いらっしゃるかもしれませんわ。


 けれど、私達…ベルトハイド公爵家及び、今日ここに集まってくれた皆様は、【同じ目的】を持っている事を、思い出して頂きたいのです。


 私は、自分が婚約者となれなくても、【目的の達成】さえ出来れば、ここに居るどなたが婚約者となろうとも、一向に構いませんの」




「「「「「「……」」」」」」


 私の発言に、皆が息をのみ沈黙する。




「…【ジーク殿下に王位を捧げる。】その目的さえ達成出来れば、どなたがジーク殿下の妃に決まろうと、私としても、ベルトハイド公爵家としても、一向に構わないのですわ。


 私がこの度、ジーク殿下の婚約者候補になったのは、【ジーク殿下に王位を捧げる】という、大きな目的を達成するための、手段の1つを取っただけですわ。


 その事を皆様、ご理解くださいませ?」



 そう述べると、令嬢達は非常に前向きな視線を、私に対して向けてくれた。



「承知致しましたわ!」


「そうですわね!まずは、ジーク殿下に王位を捧げなければ、なりませんわね!」


「ジーク殿下のお望みですもの…私たちがジーク殿下のお力になれるのであれば、とても光栄ですわね」


「ええ。皆様で頑張りましょう!」




 令嬢達が内心でどのような思いを抱えて、何を考えているのか等、わからない。



 けれど、そんな事は、こちらの知った事ではない。



 存分に、各々が勝手に、色々な事を思い、考えて貰って構わない。




 それでも、共通の目的を意識させる事で、

【同じ目的を持った仲間同士だ】と各々に認識してもらう。



 これが今回、皆を集めた理由だった。





「ご理解頂けたようで、嬉しいですわ。

 それでは、ここから、本題に入らせて頂きますね」



 有無を言わさぬ笑顔で、話をまとめ上げ、本題へと話題を移す。




「現在、私達が持つ、大きな目的【ジーク殿下に王位を捧げる】この目的を達成するにあたり、邪魔が入っている事は…


 皆様、既にご存知かと思います。


 …ミーナ・マーテル男爵令嬢。


 彼女に対して、皆様それぞれ、お思いの所があるのではないかと推察致しますわ…。


 何かしら行動された方も、いらっしゃるとか…?」




 ミーナ嬢の名前を出しただけで、皆様から穏やかな様相が消え失せ、一気に殺伐とした空気が漂う。



 そして、皆が口々にミーナ嬢を責め立てる。


 そのせいで、場が異様に姦しくなる。



 そんな空気を割るように、口を開く。




「…皆様、落ち着いてくださいませ。


 私とて、皆様のお気持ちは、重々承知しているつもりですわ。


 …だからまずは、彼女にご退場頂きましょう?


 その為に皆様、"手出しをしない"事を、お約束くださいませ。


 あれは既に、ベルトハイドの獲物ですわ」


 

 これから訪れる楽しい未来を想像して、自然に笑みが溢れ落ちた。




 そんなアリスの綺麗な笑みを見て、令嬢達は、訪れるであろう未来に期待を抱くと共に、薄寒い恐怖を覚えたのであった。



 王位奪取計画・第ニ段階。序章。

・派閥内お茶会にて、令嬢達を纏め上げ、協力者とする。

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