第8話 優雅で雅な恐怖お茶会。 ☆公爵夫人視点☆



計画実行1日目・第二王子派閥邸宅

お茶会参加・午後

ベルトハイド公爵夫人視点



「皆様、ご機嫌よう」


「まぁ、ベルトハイド公爵夫人。今日もお美しいですわぁ」

「ご一緒出来て、光栄ですわぁ」

「こちらにお座りくださいませ」


 優雅で美しいご婦人たちが、次々に会話の花を咲かせる。



「皆様ありがとうございます。けれど、おやめくださいませ?照れてしまいますわぁ」

 と、艶やかに微笑む。



 穏やかな雰囲気の中、女達のお茶会は幕を開ける。



「今日は夫人からご報告があると伺って、みんな気になって、楽しみにしておりましたのよ?」


「ええ。最近は色んな事が起こっておりますもの。気にならない人など1人も居りませんわ」


「そうですわ!今日が楽しみで、眠れませんでしたもの!」



「フフフ、そうでしたの?でも、ごめんなさいね。本当に私事の発表なの。皆様に期待させてしまったのなら、なんだか申し訳ないわ」



「もう!早く教えてくださいませ!」

「そうですわぁ!意地悪しないでくださいませ!」

「気になって仕方がないのですわっ!」


 そう言って集まった夫人達が、可愛い小鳥の様に囀った。


 ベルトハイド公爵夫人は、穏やかに微笑んで口を開く。




「…実は、我が家のアリスがこの度、ジーク殿下の婚約者候補に、名乗りを挙げる事が決まりましたの。


 今日は皆様にその事を、お伝えしたかったのですわ。


 つまらない私事のご報告で、ごめんあそばせ?」



 


「…まぁ」


「…でも、それは、」


「…そんな…」



 公爵夫人の言葉を受けて、会場が騒めく。



「…まぁ。喜んでは頂けませんの?」

 公爵夫人は小首を傾け、不思議そうに問う。



「…お、お言葉ですが夫人。そ、それはされないお約束では…御座いませんでしたか?」


「そ、そうですわ!アリス嬢が婚約者候補になんて…聞いておりませんわ」


 何人かが、意を決して不満を口にする。




「ええ。そうだと思いますわ。

 今、初めてお伝えしましたもの…。

 知らなくて当然ですわ。


 約束に関しては、交わした覚えは御座いませんけれど…。


 もしも、ご不満がお有りなら、書面にて正式に、ご抗議くださいませ。…真摯にお答えさせて頂きますわ」


 公爵夫人は飄々と答える。




「…けれど納得出来ませんわ!

 確かに夫人は仰いましたわ!


【アリス嬢を、殿下に嫁がせるつもりは無い】と!


 皆様も覚えておりますよね!?」




 何人かが頷き、何人かが目を逸らす。





「…ええ。確かにそのように、過去にはお伝えしましたわ。

 本当にそう考えておりましたもの…当然ですわね?


 けれど…、


ジーク殿下が王位に就けないような、あり得ない事態に陥るのなら、……話は別ですわ」 



 公爵夫人は言葉を切り、フッと笑顔を消し去り、静かに再度口を開く。




「今まで、ジーク殿下の婚約者に関しては、候補を挙げていない我が家は、不干渉を貫いて参りました。


 その結果が、どうでしょう?


 今現在、呆れてものも言えないくらい、不甲斐ない状況になっている事を……ここに居る皆様の中で、ご存知無い方は…おりませんわよねぇ?」




 綺麗な笑みに乗せた言葉は、鋭利にその場に突き付けられる。




「「「「「「………」」」」」」

 一同が顔色を悪くし、押し黙る。背筋には嫌な汗が伝う。




 逆らう様な意見を述べて来た者も、一様に戦意を喪失した様子で、顔を青く染めている。





 参加した貴族達は、強烈な叱責を受けたような気持ちになっていた。




 けれど、当の公爵夫人は、ただの本心を語っただけに過ぎなかった。




 ベルトハイド公爵家にとって、本当にジーク殿下の婚約者は、余程の問題がない限り、婚約者候補者であれば誰でも良かった。


 婚約者候補に選ばれている時点で、ある程度の基準は、満たしている。将来的に誰が選ばれるにしても、優秀な人材であれば、"家格や身分が低い"という問題があったとしても、養子縁組を駆使して嫁がせれば良いと、至極楽観的であった。


 けれど、今回、数いる婚約者候補者達を抑えて、ジーク殿下に選ばれてしまったのは、派閥に所属しても居ない、平民と大差のない…たかが男爵家の小娘であった。



 しかも、頭の中でお花畑が咲き乱れるような、可笑しな子。とあれば、許容など出来るはずも無かった。




 そんな女に一国の王妃は、とてもでは無いが務まらない。




 結果的に、その女のせいで、ジーク殿下が取れるはずだった王位は、永遠に手が届かない物になってしまう。




 そんな結末は、絶対に許されない。





▼△▼





 公爵夫人の言葉のせいで、会場では誰もが口を開く事が出来ず、静かになってしまっていた。




 そんな空気が気に入らなくて、公爵夫人は再び口を開く。




「…皆様、何だか元気が無くなってしまったわね?

 私事のご報告をしただけですのに…もしかしたら、気分を害してしまったのかしら?」



 と、更に圧をかける。




 公爵夫人の言葉の裏に、"早くこの茶会を盛り上げろ"という秘められた指示を察した貴族達が、重い口を次々に開く。




「い、いえ、その様なことは…驚いてしまっただけですわ…」


「そ、そうですわ。戸惑ってしまっただけで、アリス嬢も同じ派閥ですもの…何の問題も御座いませんわ」


「きょ、今日は新しくオープンしたカフェのケーキを仕入れましたの。…よろしければ、皆様お召し上がりくださいませ…」




 皆が空気を読み、話題を変えて、空気を変えようと試みる。



 しかし、残念ながら、お茶会は重たい空気のまま続いてゆく。




 この場を盛り上げる事が出来なければ、それは公爵夫人が茶会の空気を台無しにしたと、認める事になる。



 現実の状況は、全くもってその通りだなのだが、その動かぬ事実を貴族達が認め、空気を変えられなかった時には、公爵夫人が空気を盛り下げた事を自らで肯定し、公爵夫人を暗に批判してしまう。



 そんな事は許されない。



 だから貴族達は、何が何でも空気を変えなければならなかった。



 けれど、事態は言うほど簡単ではない。



 場の空気感を制御し、作り出し、醸し出すのは、いつだって1番発言力を持つ人間だ。



 つまり公爵夫人自身なのだ。



 だから、公爵夫人が空気を変えなければ、場の空気が変わる事はない。





 公爵夫人は、綺麗な笑みを浮かべている。





 その笑顔は、綺麗な笑顔の筈なのに、周囲の者達を不安で、落ち着かない気持ちにさせた。






 お茶会は、まだ始まったばかり。


 



 王位奪取計画・第一段階 準備

・アリスがジーク殿下の婚約者候補になる事を、派閥の人々に周知する。

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