第5話 地獄のランチ・前編 ▼イリス視点▼


計画実行1日目

アカデミー・昼・1学年教室

兄・イリス視点



 同刻。ランチの時間。すぐさま1学年の教室へと向かう。



 そして、今日の目的である、ミーナ嬢の元へと訪れる。



 見つけたミーナ嬢は、講義中に寝ていたらしく、ピンク色の髪の毛には寝癖がつき、顔には涎の跡まで付いていた。



 湧き上がる嫌悪感を、無理やり抑えつけ、寝惚けた彼女を呼び止める。



「ミーナ嬢。少し良いだろうか?」



「…イリスぅ!?珍しいねぇ!どうしたのぉー?」



「…2人だけで"特別に話したい事"があるんだ。ランチでも一緒に…如何だろうか?」



「うん良いよぉー!楽しみぃー!」



「…ああ。応じてくれてありがとう。今日はミーナ嬢の為に、特別なランチを用意させたんだ」



「わぁーい!うれしぃー!あっ!でも、ちょっとだけ待っててぇ!…ねぇ!ステラー!」




 媚びた声が耳に入るたびに、頭が痛くなり、吐き気が込み上げる。


 想像していたよりもキツいが、計画のために何とか吐かずに耐える。



 ミーナ嬢は、ステラと呼んだ女生徒に、何やらバスケット?(カゴ)を渡してから、小走りでやってきた。



 なおも襲いくる嫌悪感に耐えながら、ミーナ嬢を腕に巻き付けて、貸切のガゼボまで、笑顔でエスコートをする。




▼△▼



「わぁー凄い豪華ー!美味しそうっ!」



 ミーナ嬢は用意されたランチに、目を輝かせて喜んでいた。


 計画に万が一の事があってはいけないので、王都一のシェフに用意させたのだが…


 どうやら正解だったらしい。



「まずは、心いくまで味わって?話はその後にしよう」



「わーい!いただきまーす!」



 そして、ミーナ嬢が食べるのを、笑顔で見守る。



 …そんなフリをしていたが、ここでもまた、ミーナ嬢のマナーがまるでなっていない、酷く汚い食べ方に、心の底から嫌悪する。



 当然食欲など湧くはずもなく、食事には殆ど手を付けられなかった。



 いつまでも減らないこちらの料理を、羨ましそうに見つめるミーナ嬢の視線に気が付いてからは、料理の殆ど全てを譲ってやった。



 2人分の食事を食らう、彼女の豪快な食いっぷりを見て、更に胃がもたれた気がした。




 既に、体調に異常をきたしているが、なんとか気力で持ち堪える。



 気取られぬように、笑みを絶やさない。




 そんな中、不意にミーナ嬢を見やると、何かの食いカスが頬の高い位置…口よりも目に近い位置についていた。



 目に入る光景が信じられなくて、思わず二度見する。



 どうやったら、そんな所に食いカスが付くというのだ…。



 幼い子供だって、そんな所に食いカスが付くことはないだろう…。



 どんな原理で、どう食べれば、そんな所に食いカスが付くというのだ?



 …ダメだ。本当に理解が出来ない…。



 だが運悪く、困惑した視線を辿ったミーナ嬢に、食べカスが付いている事を気付かれてしまう。



「やーん!イリスぅー!とってぇー?」



 すぐさま彼女は、渾身の甘え声をあげた。



 思わず全身が震え上がる。




 今すぐにでも、逃げ出したい気持ちになったが、何とか耐える。




 何の問題もないかのように、笑顔を携えたまま、ナプキンを用いて、彼女に着いた謎の食べカスを、丁寧に優しく拭き取った。




 込み上げる嫌悪感に耐え、極めて紳士的な対応をしたつもりであった。



 しかし、残念な事に、彼女は不満だったらしい…。




「むー。キスしてとってくれれば、良かったのにぃー!」


 と、言ってのけたのだ。



 この発言を受けて、湧き上がる嫌悪感への我慢が、ついに限界に達っしてしまった。



「…ハハハ。あまり意地悪を言わないでくれ?」



 と、困った顔をしながら絞り出す。



 その後すぐに、先程彼女を拭ったナプキンを、取り替える風を装って、食事に夢中な彼女を1人残し、静かに退席した。



 そして、十分に離れたところまで行って、盛大に吐いた。



 胃の中の物を全て吐き出すと、僅かに体調と気分が良くなったので、少しだけ安心する。




 込み上げる嫌悪感で、実際に吐いたのは、初めての経験だった。



 既に限界を感じているが、計画はまだ始まったばかりだ。と、なんとか自分を鼓舞した。



 

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