第4話 ジーク殿下にお会いする。 ○アリス視点○



計画実行1日目

アカデミー・昼・展望テラス。

妹・アリス視点



 ランチの時間。


 私、アリス・ベルトハイドは、計画の第1歩を推し進める。



 第二王子・ジーク殿下達が、いつも噂の男爵令嬢・ミーナ嬢を囲みながらランチを取っている、展望テラスへと顔を出す。



 展望テラスへ行き、わざとらしく兄のイリスを探すふりをする。



 もちろん、兄のイリスは見当たらない。



 兄が計画通りに動いていれば、今日はここに居るはずがない。



 辺りを見渡しても、兄が見当たらず、困った様なふりをして、従兄弟であるジーク殿下に声をかける。




「ジーク殿下…ご無沙汰しております。あの…兄のイリスが、どちらに居るかご存知ですか?」



「……ああ。…アリスか。久しぶりだな。イリスは…今日は…来ていないな…」



 久しぶりに話しかけたジーク殿下は、以前までの覇気はなく、酷く疲れた様子であった。



 兄のイリスに事前に聞いてはいたが、実際に見たジーク殿下は、別人の様に変わってしまっていた。



「左様ですか…。お教え頂き、ありがとうございます。…それと殿下、少しお話したい事があるのですが…今、お時間よろしいでしょうか…」



「…ああ。良いだろう…だが、急いでくれ……なんだか気分が優れない…」



「…承知致しました」



 そう返事をして、テラスの一団から少しだけ距離を取り、ジーク殿下に再び話しかける。



「お話しというのは、ジーク殿下…最近、ミーナ嬢と仲良くされて…」



 そこまで述べた所で、ジーク殿下が私をギッと睨み、口を開く。



「…お前もなのか…?お前も俺に説教でもする気なのか!?この俺に向かって!!!」



 いきなり人が変わったかの様に、ジーク殿下が声を張り上げる。



 …これは予想外だ。



「いえ、誤解です!私は、ミーナ嬢のおっしゃる自由恋愛は、"とても素敵な考え"だと思っておりますわ。

 ですので、ジーク殿下とミーナ嬢の関係を、私自身は応援しておりますの」



 ジーク殿下が突然怒り出した事に、少々驚いたが、毅然として、優しい口調で否定する。



「……そうか。…声を荒げて悪かった…何だか気が立ってしまって……」



 そう言って答えた殿下は、痛みに耐える様に、頭を抱え俯いてしまった。



「…いえ。ですが、殿下?…皆が同じ様に、彼女が言う"自由恋愛"という新しい考え方に、すぐに恭順出来るわけでは御座いませんわ…」



「ああ!!!そんな事は、わかってる!!!」



 再び殿下が声を荒げた。



 …殿下の様子は本当に可笑しい。だが、幸いにも話しは通じているので、構わず対話を試みる。



「では、…それが理由でミーナ嬢が、嫌がらせや虐めを受けているのはご存知ですか?」




「…ああ。…ミーナを虐めるなんて!!本当に腹立たしいっ!皆、消えれば良い!!」




 …情緒がかなり不安定。とても正気だとは思えない。




「…ええ、私もそう思いますわ。ですので私は、愛し合うお2人が結ばれるように、そういった卑劣な行為をする者達を、粛清しようと思っておりますの…」



 そう伝えるとジーク殿下は、眉間に皺を寄せ、頭を抱える。



「…そうか。それは良い。助かる…ありがとうアリス…」


 そう静かに返された。



「…いえ、けれど、粛清をするには、大義名分が必要ですわ。

 相手には高位貴族も含まれておりますし、男爵令嬢を虐めた程度の理由での粛清は、とてもでは無いですけれど、不可能ですわ」




「あぁっ!クソッ!なら、どうしたら良いと言うのだ!!!」




「…ご安心ください。この、アリスにお任せくださいませ。

 

 ですが、その為に、ジーク殿下の婚約者候補の座に、私も座らせて頂きます。


 もちろん、ジーク殿下のことは、"優しい従兄弟のお兄さま"としてしか見ておらず、恋愛感情は一切御座いませんわ。それに、血が近すぎるので、婚姻は事実上、無理に近いです。


 お従兄さまの"自由恋愛"をお助けしたい。そのただ一心で、婚約者候補となりたいのです。


 そして、婚約者候補の座に座り、無事に大義名分を得た暁には、ジーク従兄様とミーナ嬢にとっての脅威を、全て私が御してみせますわ」





 頭を抱え、微かなうめき声を上げながら、ジーク殿下が静かに答える。




「……そうか…お前っ…アリスにとって…メリットが無いように…思うが…」




「そんな事は御座いません。…ジーク殿下が王位に就く事こそが、私にとって最大のメリットですわ。ご存じでしょう?」




「…ああ。そうだったな…婚約者の件…分かった。…よろしく頼む…ミーナを…幸せにしてやりたいんだ…」




「ありがとうございます。このアリスがお手伝いさせて頂きますわ」




「…ああ。…ありがとうアリス…」




「では、お時間とらせてしまい、申し訳御座いませんでした。今日は失礼させて頂きます。

 今後進捗があったら、お知らせさせて頂きます」




「ああ…ありがとう…」




「いえ。ジーク殿下…お身体お大事になさってくださいませ。失礼致します」




 優しくて紳士的で理知的。

 そんな自慢のお従兄様だったのに…。




 王位奪取計画・第一段階。準備。

・アリスがジーク殿下の婚約者候補になる。

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