塩味を混じらせてしまったご褒美

 「じゃあ、話すね……」

私が泣きながら一生懸命、言葉を発しても。

「分かったから、話しなさい」

母はこれだけ。




「私、高校時代に、ある男子にすごく付き纏われていて」

勇気を出して第一声を発したのに。

「はいはい、先生に聞いたよ。イケメンの子でしょ?」

「うん……」


「倉橋君って言う、三年間同じクラスだった女子人気が高かった人に……」

「分かってる、あの目の保養になる子ね」

目の保養、何それ。

「付き纏われて、嫌だった、本当に嫌だった」

やっと、嫌だって話できた。


「あんた、贅沢ね」

母が冷たく言うが。

「でも、好きでもなかったし、下手に女子人気高いから……」

母が睨んだ。

「女子グループにも入れて貰えないし、意地悪とかいじめとかされるし」


「それがどうしたの? あのイケメンの子に言い寄られてたんなら良いじゃない」

母が同意できないと言った感じで言い放つ。

「でも、興味ない人から言い寄られて嬉しいものなの? いじめられて平気なものなの? 私、なんか昔からずっと、イケメンの子に話しかけられて、女の子から嫌われて、すっごく辛かった!」

母の表情が固まった。そして、言いながら、自分がなぜか昔からイケメンが嫌いな理由を初めて理解した。


「それから三年間、高校卒業だけはしなきゃって我慢して卒業したけど……」

私の目から再び涙が溢れた。

「ずっと気持ち悪かったし、ずっと辛かったし!!!」

そして続けた。


「イケメンってもてはやされている人、みんな嫌いだし!!!」

私はつい怒鳴ってしまった。

「病気になったほど辛かったんだよ!!? 分からない!!!?」

母がびっくりしたように固まっている。




「……ごめん、今まで聴いてあげなくて」

母がぼそっと言った。そして、立ち上がって棚の方に行き、何やら取り出すと何かを調理し始めた。

「分かってくれたんなら良い」

と言って椅子から立ち上がろうと思ったところで。


「歩ちゃん、でも紡君はそんな子じゃないって分かるでしょ?」

おばあちゃんが、穏やかな口調で言った。

「……うん」

10年前に会った時から、本当に気持ちの優しい子だって分かってた。


「あの子は、みんなに対して本当に優しい……」

「そうだね」

「何事にも一生懸命で、かっこいい……」

「そうだよね」

おばあちゃんは、私の言葉に相槌を打ってくれる。


「私なんかが親族だって名乗ったら迷惑だなって思うくらい。ほら、私って美人じゃないし……」

「それは違うよ、歩ちゃん」

おばあちゃんんが一呼吸置いてから話す。


「歩ちゃんは本当にい良い子だよ。その優しさを貫いているのは本当に凄いことなんだよ」

「……」

「強い子だよ」

「……うん、ありがとう」


「それに歩ちゃんは本当に可憐で儚げな雰囲気で、綺麗で可愛い子なんだよ」

「……それは嘘でしょ?」

そこで、母が何やら大きめの白いカップを持ってきてやってきた。

「ホントだよ。歩ちゃんは外見はお姫様なんだから。中身強すぎるところあるけど」


「だから卑下しないで、自分のこと」

と言いながら母は、カップを私の前に差し出す。続いてスプーンも。

「ごめんね、歩ちゃん。これからは私も素直になって、あなたの話を聞くね」

お母さんが私を抱きしめてくれた。


 それから、母が作ってくれたカップケーキをスプーンですくいながら食べる。

とても、甘くて美味しくて、大好きなチョコレート風味だし、なんだか心が解けていくようで。




「私が、可憐? 儚げ? お姫様?」

自室に戻り、化粧鏡で自分の顔をまじまじと見る。

「そうなんだろうか。まあ、おばあちゃんも、お母さんも若い頃はお姫様って言われてたみたいだけど……?」

白い肌に黒い髪と瞳でブルー系ピンクの唇の、まさにパーソナルカラーのウィンター顔の自分が写っている。


 20歳の頃の姿位まで魔法の影響で若返って、それからはその年齢の姿をキープしているようだ。

元々童顔だったせいか、最近は高校生にも間違われることも出てきた。


 そう思いを巡らせているところで、自室の戸がトントンと鳴る。

「歩ちゃん、ドア、開けて良い?」

お母さんがいつもの調子で、尋ねる。

「うん、いいよ」


「紡君がね、今度、梅の花を見に行かないかって、私たちを誘ってくれたのよ」

「へー」

「でも、おばあちゃんも私も用事……」

と、お母さんが何かを言いかけたタイミングで、ふと思ったことを口に出す。


「でも、紡君って、好きな人いるんじゃなかったっけ? 私達とばかり出かけてて良いのかなー? それとも、その好きな子も誘うのかなー? そもそもその子はどこに住んでいるのかなー?」

と矢継ぎ早に言っていると。

「……あなたって本当に鈍い」

「へ? あ!話遮ってごめん!」


「じゃあ、紡君にライン、返信しておくね」

とお母さんが言ったので、

「楽しみだねー、みんなでお出かけするの」

と言うと、お母さんんが少し悩んだようにして。


「……じゃあ、私たち三人とも行けるって返信しておくね」

と残念そうな感じで言う。

「? うん、ありがとう」

疑問ばかりが残る会話だった。

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