何も変わったことしてないよ

 今日は名古屋市内でウキウキショッピング!

まず、私だけが用がある店で買い物してから、後で遊びにくる、おばあちゃんと母と合流する予定だ。

そんな私は商店街を歩いていた。


 何やらボランティアらしき人達がゴミ拾いをしている。

「すごいなあ、立派だなあ」

素直に感心しながら、その人達を眺めながら、商店街を歩いていた。

「こう言うことをできる人って、心が清いなあ」


 と、思いながら歩いていると、見覚えのある人物がいた。

その人物、『紡君』はジャージ姿もカッコ良いので思わず嫉妬した。

しかも人を子分扱いするし、ろくでもない男だ。

そう思ったら、いつの間にか、紡君に見つからないように、ちょっとした小道に行って隠れている自分がいた。


「平森(ひらもり)君、そろそろ休憩だよ〜」

平森とは、紡君のことだ。いろんな年代の女性ボランティアが紡君を囲んでいる。

「分かりました、教えてくれて、ありがとう」

紡君の言葉に休憩時間を教えた女性が卒倒しそうになったのを見た。




「そこのベンチに座ってお話ししましょ〜」

と私が隠れている小道の、すぐそばのベンチに促されるまま座る、紡君たち。

「ね〜、平森君って、好きな人とかいる〜?」

女性たちが直球な話題を紡君に振ってきている。

「好きな人? いるよ」

「え、誰のこと?」女性たちの声に期待と不安が入り混じるのが分かった。


「従姉のお姉さん」とあっさり答える紡君に、なんだ従姉妹かと安堵する女性たちの感じが伝わった。

「え? え? そのお姉さんのどこが好きなの〜?」

血縁者だと分かると、女性たちから心穏やかになった感じがすごい。

「特に好きなところは優しいところかな」


「10年前に初めて会ったんだけど、すごく尊敬しているんだ」

空を仰いだかと思うと、紡君の視線は少し下に落とされた。

「10年前の夏休みに祖父の家に遊びに行くと、僕の祖父から悪臭がしていた時だったんだけど……」

してたなあ、と昔を懐かしむ私。


「そんな祖父に、親戚一同は臭いからと近づかなかったんだ」

「うんうん」女性たちが真剣に話を聞いているようだ。

「でもその時遊びに来てた、10歳年上の従姉のお姉さんが、普通に祖父に近づいて、楽しそうにお話をしたり、食事も一緒にしたりしていて、すごいなって思って」

それって私じゃないか、と驚いた。

こいつ、私のこと子分だと思っているくせに、尊敬してるだと?


「僕も祖父のこと臭いなって思ったけど、勇気を出して、一緒にいることにしたんだ」

こいつ、勇気振り絞ってたんかい、と思った。当時、涼しい顔をしていたから意外だった。


「そうしたら、お姉さんの家族も、僕の家族も加わって、楽しく祖父と一緒に過ごすことができて……」


「一週間経つ頃には、祖父の悪臭もすっかりなくなって、あれって最初に悪臭がした時に、誰も近づかなかったストレスが続いてたんだなって」

それは私も思ったなって話の続きを聞く。

「それからは、他の7人の従兄弟たちが祖父に、おもちゃとかお小遣いとかをねだったりとかする為に近づいてきてたんだけど、そのお姉さんは特別なにかをねだることもなく」

紡君の顔が少し赤くなった。顔を赤くした紡君の顔を見て、顔を赤くする女性もいた。紡君の顔が見える位置にいる女性たちだ。

「僕が何かねだらないのかと訊くと、『おじいちゃんとお話ししたりして、一緒に楽しく過ごせれば良いから』って言って、またずっと一緒にいるんだ」




『なんだ、普通じゃん』と私は思った。

おじいちゃんのことを大事にするのも、一緒にお話をしたりするのも、大好きなおじいちゃんの為なら、至って普通だよ、と思った。


大したことない話だったなと思いながら、紡君たちがベンチから離れるのを暇だと思いながら少し待って、見つからないように他のルートから店に向かうことにした。

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