私はあなたの手駒じゃない

 なぜ、なぜこんな寒い中、無意味に散歩してるんだ、私。

そして、なぜ紡君まで、私と一緒に散歩してるんだ?

頭の中で疑問が駆け巡っていた。


 風が吹いて、思わず「寒っ!」と言ってしまった。

紡君が、自分のマフラーを私の首にそっと巻いてくれた。

「……、ありがとう、紡君」

そう言う私の声は明らかに不機嫌なのに。


「歩姉さん、気にしないで」

満面の笑顔で応える、紡君。

なんなんだ、こいつ、何を企んでやがる。

私はそんなことを考えていた。


 いつもなら、私はちゃんと自分のマフラーを巻いて外出する。

でも、あまりにも頭の中の嫌悪感が邪魔をして、私はそれを忘れてしまっていた。


「歩姉さん、何か話そう?」

紡君は私の中で明らかに気乗りしない提案をする。

「紡君が変顔したらね」

突いで出た自分の言葉に驚いた。


 紡君は、こんなに優しい子なのに、私は何を言っているんだ。

「ごめん、紡君……」

パッと、俯いていた顔を紡君の方へ向けた。紡君が高身長だから、首が疲れる。

「良いよ、それで話してくれるんなら、変顔くらい……」

と紡君が言いかけたところで。




「あー、キモいやつ発見!!!」

後ろから声がした。

二人で振り返ると、そこにいたのは近所の同級生だった、私のことを嫌っている女性だった。

名前は確か、と思っていると。


「それはこの人のこと?」

と紡君は、怒りを見せながら、私の肩を抱いた。

「えっ!?そうそう、この人、性格悪いんだよ……」

同級生が紡君を見ながら、顔を赤くしている。


「だからやめなよ、こんな奴……。それより、私と……」

女性が紡君になぜか媚びてきているようだった。


 私は、至近距離で高身長の紡君の顔をみるのは辛いな、と思いつつ、紡君の顔を見ている。

紡君の女性を見る表情は冷たく、怒りも見せていて、妙な表情だった。そんな表情の顔すら綺麗なのが腹が立つような気がする。

「僕のものに酷いことを言うな」

紡君は冷たく女性に言い放つ。


「私はあんたの子分じゃない!!!」

私は紡君の発言に、はらわたが煮えくりかえり、怒鳴った。

「もう帰る!!!マフラー、返すね!!!」

紡君に巻いていたマフラーを突き返すと、わざと紡君も置いて、帰路に着く。


「え? 待って……!」

紡君がきょとんとした声を発して、私に駆け寄る。

「紡君って私のこと、子分なんて思ってたんだ!!!」

怒鳴る私に対して、困ったように紡君は言う。

「誤解だよ! ……待って!」




「なんだか紡君が辛そうな顔してるけど、なんかあった?」

家に着いてくつろぐ私に、小声で母が問う。紡君は台所の椅子に座って、無言のままでいる。

「あいつ、最低なんだよ!!!あー、腹が立つ!!!」

「ちょっと、紡君に話聞いてみるね」

母は私の返事に取り合わず、紡君と客室に入っていった。


 しばらくすると、客室から母と紡君が出てきて、

「では、もう時間なので……」

と紡君が帰り支度を済ませ、帰ろうとしているところだ。

「歩ちゃんも紡君を見送りなさい。あなたが思っているような子じゃないよ」

と言われたので、仕方なく玄関に向かう。


「また来てね」

私は紡君に、声を絞り出して言う。明らかに不機嫌な言い方をしてしまうが、紡君が悪い。

「また、来るよ……!」

少し暗いような、でも明るい気もする、紡君の声。ちなみに私は紡君の顔は俯いていて見てない。


「またね」

「また、いらっしゃい。紡君」

母とおばあちゃんが弾んだ声で言う。

「はい、また来ます!!!」

紡君の声が少し明るくなったような気がする。


 紡君が帰ってから、私とおばあちゃんと母とで、台所の椅子に座っていた。

おばあちゃんがトイレで席を外している間を見計らって、母が言う。


「歩ちゃん、あなた相当、鈍いよ……」

「?」

私には母の言葉の意味が分からなかった。

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