美青年はお嫌いです。

 今日も洗顔をする。

そして、自分の顔を鏡で見る。


 深い色の黒髪、深い黒色の黒目、肌は白く、唇はブルー系ピンクの色。

いわゆるパーソナルカラーのウィンター。

目は大きめで、額は広く、顔は小さく、鼻は高く鼻筋は通っていると、よく言われている。

よく分からないと言うか、どうでも良いが。


 そう言えば、父方の従弟の紡君が遊びに来ると言っていた。

なんだか楽しみだ。

10年前、当時18歳の私と紡君は8歳くらいに会って以来だ。

どんな子に育ったのだろう? ワクワクする。




 家のチャイムがピンポーンと鳴った。

身支度を終え半纏を羽織り、すっかりリビングで少年誌を読んでいた私は、インターホンを取りに立ち上がった。

が、母が先にインターホンを取って、来客と少し話をしていたかと思うと、

「紡君、来たよー」と言った。


 おばあちゃんと母が玄関に向かった。

ガラガラと引き戸が開く音がしたら、少し間を置いて、

「お久しぶりです、伯母さん、時子(ときこ)さん」

と声がした。時子とはおばあちゃんの名前。おばあちゃんは母方の祖母で、紡君は父方の従弟だから遠い親戚にあたる。

穏やかで心地よい口調と声、かつての声とは違い、紡君はすっかり男性の声をしていた。


 私も遅れて、玄関に向かった。

「久しぶり、紡君……」

と言って、紡君を見ると。

スラッとした180センチ台くらいの高身長、綺麗な優男風の顔立ち、品性まで漂っている。なんかお土産らしき紙袋を持っていて。

私は、「敵襲だ」と思った。


 紡君は、私の顔を見るなり、驚いて、挙動が少しおかしくなったかと思うと、落ち着いてから、笑顔を浮かべた。

「久しぶり、歩姉さん。変わってない、ね」

「久しぶりだね、紡君。紡君は変わったね」

そう声をかける自分の顔がしかめっ面になったのが分かった。


「玄関で話すのもなんだし、入って入って」

と母が言うと、

「じゃあ、お邪魔します」と言った紡君に対して、

「帰れ」と言いかけたが、そこは少なくとも昔は優しくて性格のいい従弟、外見で判断してはいけない、と口から出そうだった言葉を引っ込めた。




 私とおばあちゃんと紡君は、台所の長いテーブルにこしらえてある椅子に座った。

母が来客用の菓子を用意しているようだ。

それに気付いた紡君は「伯母さん、お構いなく」と言う。


「こいつは敵だ」と私は思った。私の嫌いなタイプの人間、いわゆる美青年、イケメンが来訪してきたからだ。

私はなぜか、美青年とかが昔から大嫌いだった。可愛い女の人や美女は好きなのだが、目の保養になるし。

そんなことを思いながら、おばあちゃんと、美青年になった紡君が話しているのを、嫌な気持ちで聞いていた。


 すると、話題が転々としながらも、ついに私の話題になったようだった。

「歩姉さんは、その結婚とか、好きな人、いないの?」

なぜか意を決して、私に話かけたようだ。

「いないよ。結婚とやらも興味ないし、そもそも恋愛自体が……」

興味がない、と言おうとしたら、紡君が話を遮り出した。


「僕はいるんだ、昔から好きな人が……」

あっそ、と心の中では思ったが、性格の良い従弟を外見で嫌うのも違うような。

「へー、どんな人?」

興味はないが聞いてみる。


「スノーホワイト……、白雪姫がいたとしたらこんな人だろうなって人」

顔を少し赤くしながら話したのをチラッとみると、

「へー、外見で判断するの?」と自分のことを棚に上げた。

「歩ちゃん、さっきから……」

おばあちゃんが私に何かを言おうとしたタイミングで。




「どうしたの? 伯母さん」

紡君が立ち上がって、母の元に行く。

「紡君はお客様なんだから、座ってて、自分でなんとか……」

「いえ、そう言うことなら僕がなんとかします」

何かを見た、紡君がそう言うと、なんか視界の隅で何かが輝いた。


「ありがとう、助かったよ、紡君。紡君って光の……」

と母が言うと、紡君が、

「はい、光の魔法使いです。光は明るく軽いもの。ですから……」

あー、はいはい、光の魔法使いねー、それがどうした。


私はなぜか更に機嫌が悪くなって、散歩に行ってくる、と言ってしまった。

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