礼儀知らずだし冷静さもないけど

 ふと、ショッピング中の束の間のイートインスペースでの食事中に、ここへ来る途中に乗ったバスで会った二人組、お婆さんとミツルちゃんと呼ばれていた男性のことを思い出す。

ガヤガヤと騒がしい店内のせいか、つい、ほんの少しだけ大きな声で話したくなった。


「なんだか、これからはお婆さんに優しくしようって、思ったみたいだよ、少しは」

私は本当に唐突に話出してしまった。ラーメン旨しと思いながら。

二人とも、少しの間だけきょとんとして、話を聞いてくれた。


「そう言う感覚を感じたのね、歩ちゃん」

おばあちゃんが、一口ドーナツを食べながら、穏やかに話に乗ってくれる。

「そう言えば、そんな感じだったね。良かったね〜」

焼きそばを食べながら言った、母の言葉にも裏を感じなかった。


「そうそう、今日は紡君に就職祝いを買うんだったね」

私は話題を変える。

「紡君は凄いな〜。あんな大企業に就職決まるなんて。高校でも学年トップの成績だったみたいだし」

と感心していると。

「でも、歩ちゃんはあそこまでの規模の会社ではなくても、そこで一生懸命働いているお父さんのこと、すごいと思うでしょ?」

とおばあちゃんが、尋ねる。


「そうだね。ずっと一生懸命家族を養ってくれているお父さんも、家事を一生懸命なお母さんも、もちろん今まで頑張ってきた、おばあちゃんも……」

ちょっとだけ間をおいて

「すごいと思う!」


「みんなね、それぞれすごいと思うんだよ! でも、私はダメだな。でも、みんなは……!」

私が嬉しく話していると、おばあちゃんは話を遮る。

「そんなことないんだよ、歩ちゃん、あのね……」




「大丈夫!?」

急に私のすぐ後ろから、女性の大声が聞こえた。


 ふとそれがなんなのか感じながら見ると、男性が喉を詰まらせて俯きながら苦しんでいた。50代か60代くらいの男性。

「おとうさん、大丈夫ですか!?」

男性の、娘なのか、息子さんの嫁なのかは分からないが声をかけていて、私は咄嗟に、男性の元に駆け寄り、男性の背中に手を当てていた。

特に緊急の場合は、触れられるなら、相手に触れた方が治癒するには良いから、と言う理由で。


 私の体から、ピンク色の優しい光が溢れる。

すると、男性の喉がどんどん楽になっていき、私は安心した。


「あの、大丈夫ですか?」

と声をかけると、背中に当てていた手を払われた。

「なんだお前、失敬だな!」

男性の罵声。


「親父に何したんだ!?」

と息子らしき男性。

「おとうさんに他人が勝手に触らないで!!!」

女性も憤っているようだった。

「あなた、大丈夫? 何ともない?」

男性と同年代くらいの女性が、私をチラッと見た後、男性の元へ駆け寄る。


 よく、その男性のご家族を見る。男性、男性の奥さん?、息子さん、大きな子供も二人いて、そして娘さん? 息子さんのお嫁さんかな? 

全員がこちらを睨む。


 イートインスペースにいる多くの人たちは、私たちを取り囲みながら、

「すげー! 魔法使いだ!」とか、

「そうよね、失礼よね」とか、

「魔法使いだって、自慢したかったんだ!」とか、

「助けてもらって、それはないでしょ」とか、

様々な感想を漏らしていた。


「そうですよね、すみません。勝手なことして」

私はそそくさとその場を去った。




「ごめんね、二人とも」

私はとにかく、しょんぼりした。おばあちゃんと母に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そのせいか頭を垂れながら、ショッピングモールの廊下を歩いていた。涙まで溢れそう。

あの騒ぎを起こしたせいで、イートインスペースでゆっくり食事ができなくなったからだ。

「本当にごめん、私ってダメ……」


と言いかけたところで、隣を歩いているおばあちゃんは、私の背中を優しくぽんぽんと叩いた。

「確かに歩ちゃんは、失礼だったかもしれないし、お節介も過ぎるところがあるけど」

うんうん、分かってる。私も自分のことそう思っている、と思いながら聞いていると。

「でも、とっても優しい子だよ」


私はなんだかすごく驚いた。

「いやいや、私なんて、本当に……」

「それ以上は言わせない。ほっとけなかったんでしょ? もっと自分のことを認めてあげなさい!」

母も優しく、そして明るく言った。


「ありがとうね……」

二人の言葉が心に染みる。少し元気になれたみたい。

そして、二人とも優しいな、と思った。

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