好きと言う気持ち自体に罪はなく

 今日も母とおばあちゃんとショッピングに行くことになった。

私とおばあちゃんは、ショッピングが大好き。

母は私達の付き添いで来てくれることになったのだ。


 自家用車もあるけれど母は、今日は運転する気分じゃない、と謝罪した。

私も自動車運転免許証を持っているけど、右に同じ。

気持ちが参っていて、ドクターストップがかかっている。

 

 それを聞いたおばあちゃんは、

「良いのよ、良いのよ、バスで行きましょ」

と言ってくれた。




 家から少しだけ歩いて、バス停に着くと。

「おい、ババア!! ちゃんとプチキュアのフィギュア買ってこいよ!!!」

と怒鳴り散らす、30代か40代くらいの男性がいた。

男性は、停留所前のベンチ、二人くらい座れそうなスペースに一人で座って、怒鳴り散らされたお婆さんは、その男性の前で立っている。

 

 何あれ。

私がそんなふうに見ていたのを察知したのか、おばあちゃんは、

「歩ちゃん」

とだけ静かに言った。

 

 母は、

「おばあちゃん、歩ちゃん、バス来たよ。おばあちゃん、大丈夫? 」

と、おばあちゃんの体を支えながらバスに乗った。

私はその後に続く。


 バスの中に入ると席が空いていたので、二人掛けの席に、母とおばあちゃん、隣の一人掛けの席に私が座った。


 その後に、先ほどの騒いでいた男性と、おばあさんが続けて乗った。

男性は私達のすぐ前の一人掛けの席が一席だけ空いていたので、そこにどかっと勢いよく座った。

おばあさんは、他に空いている席が無かったので、男性の席の前で静かに立っていた。


 すると廊下側に座っていた母は、どうぞ、とお婆さんに席を譲った。

お婆さんは申し訳なさそうに、

「おや、まあ、ありがとう」

と、おばあちゃんの隣に座る。 

 

「ババア、良かったな!」

と男性が大声を発する。

私はなんだか嫌な感じだなと思った。


なんだか車内が気まずい雰囲気に包まれたまま、しばらくバスに乗っていた。


「ミツルちゃん、なんだっけ? 買ってきてって言ってた、あれ……」

と、ふと、お婆さんは、男性に話しかけた。


「ババア、何度も言わせてんじゃねーよ!!! しかもこんなところで出す話題か!? 少しは考えろよな!!!」

と言いながら、男性の頭越しに、足を上げようとしたのが見えた。

私の座っている席は男性が座っている席より、高い位置に設けられているから、それらが見えた。

前の席の座席を蹴るつもりだ。

私はそう察知した。


 その瞬間だった。

男性が上げようとした足を、黒いモヤ―闇―が包み込む。

「なっ、なんだ?」

男性が驚いた様子を見せたことに構わず、男性の足は、静かに床に降りていった。

私は何が起こったか分かっていた。

『闇は重い』、おばあちゃんと一緒にいるうちに身についていた知識。


そしておばあちゃんは男性の方を見て、静かに、しかし、しっかりとした声でこう言った。


「恥を知りなさい」


「お婆さん、大丈夫よ、大丈夫」

今度は優しくお婆さんに声をかけて、おばあちゃんは、自分より老齢なお婆さんの手に自分の手で包んだ。

そして、手を闇で包み、そのまるでブラックホールのような闇で、お婆さんの緊張を吸い込んで行くのが分かった。

私の治癒の魔法使いの力で、人の感覚を感じ取ることもできるから、それらを理解した。


 お婆さんの表情が緩んでゆく。

「ばあちゃん、ごめん」

男性は、静かに俯きながら、小さい声で、お婆さんに謝った。




 

 その後のショッピングは楽しかった。


「実は私、プチキュアが好きで。なんか可愛くて感動するから……」

と、プチキュアのグッズを手に取った私を見て、


「そんなの昔から分かってるよ!」

と明るくきっぱりと言う母と、

「あの、いつも見ているアニメね」

と微笑むおばあちゃん。


 本当に楽しく、ショッピングを満喫していた。

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