私の自由はフェアドレーツェ第二王女により著しく削られていた。だが、それ程不憫を感じるものでは無かった。なんとこの第二王女、女性王族だと言うのに剣を嗜んでいたのだ。いや寧ろ、本気で学ぶ姿勢を見せていた。

「私の組み手の相手をしなさい」

 剣術の授業の際の言葉である。

「畏まりました」

 剣を合わせる事数合、殿下の大凡の力量を知る事が出来たので、それに併せて指導するかの様な手合わせへと動きを移行する。

「はー…はー、貴方…強かったのね」

「有り難きお言葉。これでも栄えある王国の貴族。貴族の名に恥じぬ様鍛錬をしてまいりましたので」

「…率直な意見を聞かせて貰えるかしら。私の剣の腕はどうですか?」

「そうですね。基本も修め、魔力もちゃんとコントロール出来ています。嗜みとしての剣術としては十分かと思います」

「そう…なのね」


 私フェアドレーツェは昔から剣術というものに憧れていた。何が切欠で、なんて忘れてしまう程の昔から、この思いを募らせて来た。子供の頃から城で剣術指南役に無理を言って剣術を教わり、指南役に持て囃されてきましたが実際はこの程度。「嗜み」の剣術でしか無かった訳か…


「ディートリヒ卿、私に剣を教えない」

「私が殿下にですか?」

「そうよ」

「恐れながら、殿下には指南役が着いて居られるのではないでしょうか?」

「それで、この程度なのよ。だから、貴方が私の剣の腕を上げなさい」

「畏まりました。私が出来得る限りで御座いますが、指南を致します」

「二度と嗜み剣術なんて言われない様に私に教えない」

「…解りました」

 どうやら、殿下は本気で剣術を学びたい様だ。


 フェアドレーツェ・ベーエアデ第二王女。

 王城ではお転婆姫とも呼ばれる活発な女性である。

 その手は女性の王族とは思えない程に剣ダコが出来ており、全身にも傷の跡が所々残ってしまっていた。

 昔から、剣術を辞める様にと言われて来たが、それに逆らい稽古に励み続けていた結果、国王を含めだれも女性王族としての価値をフェアドレーツェに求めなくなった。

 そういった感情は本人に直接伝えられなくとも行動の端々に現れるもので、子供だったフェアドレーツェにとってそれは多分に辛いものだった。

 それ故か、フェアドレーツェはより剣術へとのめり混んでいく事になるが、彼女に剣を教えていた剣術指南役は、彼女に本物の剣というものを教えなかった。

 王城という限られた空間内で育った彼女はそれに気付かず成長し、自分の魔剣士としての腕が良いものだと錯覚した。

 だが、現実は違った。

 田舎の男爵家の嫡男であるヘェッツ・ディートリヒにあしらわれる始末であったのだ。そして、そのヘェッツに嗜み剣術と言われ、彼女の心は折れるどころか克己心に満ちる事になった。

 フェアドレーツェは歓喜していたのだろう。自らの剣の腕前がさらに高まる事に。

「では、先生お願いします」

「殿下…人目のある所では、私の事を先生と呼ばない様に御願い致します」

「解っているわそんな事」

 フェアドレーツェの表情はその日からどこか明るく見えるのだった。

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