第26話:みんなで遊園地!ー春の陣ー ②

◇ ◆ ◇ ◆ ◇


――凛音・翔チーム――。


「皆いなくなっちゃったね…連絡もつかない…」

 凛音が不安そうに周りを見ながら言っている。探している内に着いてしまったのは寝転がれる広い芝生のエリアだった。


「(カップルばっか…)」

 翔は心の中でそう思うと、まじまじと凛音を見つめた。そう、凛音は女の子の様な見た目をしているが男の子だからだ。

「(これ…俺らもカップルに見えるんじゃ……?)」

 嬉しいような良くないことを考えている様な複雑な気持ちが入り混じっている翔に凛音は顔を覗き込みながら話しかける。

「翔君っ?どうしたの?」

「(か、可愛い…本当に男の子か……?」

「(1年ずっと一緒に居るけど、凛音がトイレに行ってるところ1度も見たことないな)」


 心の中で翔がそう考えると、凛音に言ってみた。

「あ、ちょっと俺お手洗いに………凛音も行く?」


「……………………し……翔君…………もう……」

 顔を真っ赤にして顔を逸らした凛音に翔は驚いた。

「(え…何その反応…?男だよね?男って聞いてるし、男と思って接してたよ1年も!怖いんですけど)」

「い、いや1人で行ってくるわ!待ってて!あ…はは…」

 翔は凛音をベンチに座らせて荷物を横に置くと、ダッシュでお手洗いに駆け込んだ。



――茜・詩花チーム――。

 『森の中』がテーマのカフェに来ている2人は窓側の席で外の生い茂った木々を眺めながらお茶をしていた。

「ここ来たかったんだーっ!」

 茜がパンプキンケーキを頬張りながら笑顔で言った。口の横にはクリームがついている。詩花はそのクリームを人差し指で取って言った。

「ねねって子供っぽいよね。妹みたい」


 フォークを握りしめながら首を傾げて茜は聞き返した。

「それって褒めてるのー??」

「褒めてるよ」

 詩花は茜の頭を撫でながらそう答えた。


「でもやっぱさー」

 何かを考えるように上を少し見て茜は言った。

「ゆうなんと翔君って良い感じなのかなーー?」


「……」

 詩花はそれを聞いて少しモヤモヤとした。

「(……確かに翔は…私のものじゃないけど…なんか引っかかる…)」

「ねねは良い感じの人いないの?」

 話を逸らすように詩花はコーヒーの入ったカップを片手に聞いた。


「んーーーーー」

 2個目のケーキに手を付けながら少し考えている茜はいつもと違う表情をしている。詩花にはそれが照れているように見えた。

「あんまりその感覚が分かんないけどねーっ…」

「強いて言うなら……翔君…」


 詩花は驚きのあまり顔を真っ白にしてぷるぷると震えた。

「(ラ…ライバルが多い……)」

 

「し、しうたん?どったの??」

「翔君はお兄ちゃんみたいだねー、面倒見がいいとことかーー」


「(あ、そういうことか……)」

 安堵したように胸を撫でおろす詩花は茜の頭を優しく撫でながらこう呟いた。

「優しいよね、翔って」


「………?」

 茜は詩花の表情の変化を読み取ると何かに気が付いたような顔をした。

「(え、ばれた……?)」

「しょうだねーーっ!!そうだねとかけてみたよーーっ!」

「ごちそうさまーっ!」

 元気よく挨拶をして立ち上がる茜を詩花は笑顔で見つめながら心で思った。

「(ほんと…妹みたい…)」



――夕菜・赤弥チーム――。

 急に2人きりになって恥ずかしい夕菜は緊張していた。逆に、2人きりでも慣れてきた赤弥は特に気負わず園内を歩いていた。

「(…今日なんか…全然喋れない…。嫌われないかな……)」

 不安そうに心の中で思うと、ついさっきまで横に居た赤弥がいなくなっているのに気が付いた。

「あ…あれ、赤弥くん…」

 キョロキョロと辺りを見渡すが、赤弥の姿はない。ベンチに座り下を向いて、落ち込んでいると赤弥が目の前に現れた。

「はい、これ。さっき食べたいって言ってたろ?」

 赤弥がチョコレート味のチュロスを夕菜の目の前に笑顔で差し出した。

「あ、ありがと」

「(急に優しくするやつやめてよ…!照れちゃうじゃないっ!)」

 夕菜は貰ったチュロスを両手でもぐもぐと食べながらそんなことを考えていた。そんな彼女の頭を赤弥は優しく撫でた。

「…な…っ……なにすんのよっ!」

 食べかけのチュロスを赤弥の口に押し込んだ。押し込んで気が付いた夕菜だが時は既に遅し。それがいわゆる、間接キス的なあれだと気が付くには時間という概念は不要だった。

「おっ。美味しいな」

 そもそも間接キスに気が付かない鈍感な赤弥に軽い蹴りをお見舞いしたのは言うまでもない。

 

 夕菜と赤弥がベンチに座ってチュロスを食べているところにニヤニヤと視線を送る人物がいた。それは翔だった。凛音・翔チームは赤弥がチュロスを購入している場面を目撃し、あのチュロスを夕菜にあげるものだと確信した為、後を付けていたのだった。


 夕菜のスマホに通知が入った。

「(…他の人かしら…?)」

 慌ててスマホを開くとそこには翔からのメッセージが入っていた。


12:07 Soramoto[ (*'∀'人)]

12:07 Soramoto[ 画像 ]


 夕菜が赤弥の口に食べかけのチュロスを突っ込んでいるときの盗撮写真だ。

「(………)」

「ん?どうした?」

 赤弥が夕菜のスマホの画面を覗き込もうとした。

「い、いいいいいいいいいやなんでもないわよ!!」

 間一髪のところで見られずに済んだ夕菜は盗撮したであろう場所に目をやったがそこには誰もいなかった。

「(あたしが空本おまえを見つけた時が空本おまえ寿命リミットだ)」

 夕菜が心でそう思った時、同じ時刻に翔には悪寒が走った。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 こそこそと夕菜から逃げる翔の後ろをついて行く凛音はとある店の前で立ち止まった。

「美味しそうだなぁ」

 メニューの前に張り付いている凛音は呟いた。そこはクレープ屋さんで女の子が列を作っていた。

「ねーねー、翔君っ!ぼくクレープ食べたいっ!」

 少し遠くを歩く翔に、凛音は手をぶんぶんと振りながら大きな声で言った。


「え、あの子超可愛くない~?(小声)」

「モデルかな…?(小声)」

「雑誌で見たことあるかも~!(小声)」

「お、俺声かけてみようかな…(小声)」

「ぼくっかわいいい(小声)」


 周囲の客は凛音の顔面偏差値の高さにコソコソと話をしていた。それを聞いていた翔は慌てながら凛音に近づいた。

「う、うん並ぼうか」

 翔の中に新たな嗜好が芽生えようとしていた。が、結局芽生えることは無かった。


「(本当に男なのか……思い出せ俺……凛音は体育の時どこで着替えてたんだ…)」

 そんなことを考えていると翔たちの順番が回ってきた。

「抹茶クレープ1つ下さいっ!…あ、翔君クレープ好き?」

「あ、じゃあ…イチゴ入ったやつ」

 それを聞いた凛音は了承しイチゴクレープも追加した。そして翔に向かって呟いた。

「翔君イチゴ好きなんだね、可愛いねっ」

 笑顔で言う凛音に翔は心の中でイチゴよりも君が好き的な事を言おうとしたが友情の超えてはならない線を超える気がした為思いとどまった。

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