第21話:少しの勇気と大きな愛情
2月末 某日―。
翔は休日の朝にきた詩花からのLINEでパッチリと目を覚ました。
10:37 Utaka.H[ 買っちゃった ]
10:38 Utaka.H [ 画像 ]
一緒に送られてきた写真を見ると、新品の一眼レフを持って恥ずかし気にピースをする詩花の自撮りだった。
「はい天使」
そう呟くと自室の扉越しに姉である舞の声が聞こえた。
「え、あたしのこと?」
「い、いつからいたの!?」
翔はツッコミを入れた。
10:40 Soramoto[ 良いカメラだね!写真始めるの? ]
翔はそう返信をして、1階へ下りた。
パジャマ姿で朝ごはんのパンをもそもそと食べていると通知が入った。
10:51 Utaka.H[ 翔と同じ写真部に入ろうと思って ]
「え!?」
10:52 Utaka.H [ もし今日時間あったら、ちょっと教えてくれない? ]
「え!?!?」
「うるさーい」
電話中の舞に怒られた。
爆速でパンを貪り、歯を磨いて顔を洗って着替えた翔は詩花に返信をした。
11:00 Soramoto[ 良いよ!何を撮りたいとかある? ]
一瞬で既読が付くと、返事もすぐに来た。
11:01 Utaka.H[ お花! ]
翔はそれを見て嬉しそうに顔を明るくして、良いよと返事をした。返事をした後に、部室にカメラを置いてるのを思い出した為、詩花のカメラを借りつつ教える旨も伝えた。
昼過ぎに2人は、駅前にある花屋へ向かった。なぜなら夕菜がそこでバイトをしているからだ。
「夕菜ー」
バイト中の夕菜に詩花は手を振りながら声をかけた。
「え、詩花どしたの?」
不思議そうに尋ねる夕菜が、詩花の後ろにいた翔に気が付いて冷めた目をした。
「あんたもいるのね」
「働け」
そうボソッと呟いた翔を夕菜は剪定ばさみを持ち、追いかけた。
「で、どうしたの?」
夕菜は詩花たちに聞いた。
「今から写真を撮りにいくんだけど、今ってどんな花が咲いてるかなって。何か知ってるかなと…」
詩花がそう聞くと夕菜は頭を悩ませた。
「あたしもそこまで詳しい訳じゃないからなぁ……」
「あ、
夕菜はそう名前を呼びながら裏へ消えた。
少ししてここの店長である
「こんにちはー」
三畑は30代でこの店を開業している、花に詳しい人だ。三畑と翔、詩花は今咲いている花について色々話した。
ツバキやアネモネ、フクジュソウ、ミモザやミスミソウなどを教えてくれた。ついでにそれらの花言葉も教えて貰った。
2人は三畑から話を聞くとお礼を言い店を出た。
「色々あるんだねぇ」
何気ない会話をしながら駅へ向かった。
喫茶ブローディアのある
「こっち行くの初めてじゃない?」
翔がそう問いかけると嬉しそうに詩花は頷いた。
「色んなところ行ってみたいね」
ボソッと翔が呟いたその一言で詩花は心臓の音が速くなる感じがした。
「(……な、なんか…)」
そこまで思ったところで電車が来た、席に座って少しして詩花は眠たかったのか眠りについてしまった。頭を翔の肩に預けてすーすーと眠る詩花に翔は顔を赤くしてドキドキした。翔は一瞬詩花の寝顔を見て目を逸らした。
「…寝顔初めて見た……」
駅に着くと、翔は詩花を起こすと慌てた様子で電車を真っ先に降りて翔に背中を向けた状態で何かをしていた。
「(よ…よだれとか大丈夫だよね……)」
「(もー、なんで寝ちゃうの私……)」
「詩花?」
後ろから声をかける翔の方を振り向くと、顔を赤くしてカメラで口元を隠していた。
「…ごめん、肩借りて…痛くなかった?」
そう尋ねる詩花に翔はこう言って歩き出した。
「痛くは無かったけど……」
「(え、よだれ…!?翔、引いてない…?)」
不安そうに後ろを歩く詩花に翔はクルッと振り返り言った。
「寝顔…見れた」
笑顔でそう言う翔の背中を詩花は恥ずかしそうにペチッと叩いて一緒に歩いた。
少し暖かくなってきていて、気持ちの良い風が吹いていた。
空は晴天で、絶好のカメラ日和だ。
翔はベンチに座りながら詩花に一眼レフの設定の基礎を教えてあげた。ISO感度や絞り値、シャッタースピードなどは被写体によって微妙に数値を変えていく。その辺は難しいので翔がやってあげた。
撮影時の角度やどこからどこを画角に収めるかなどもざっくりと教えた。
真剣に教えてくれる翔の話を詩花は一生懸命に聞いた。
少し専門用語を交えて説明してしまっていた翔は、すぐに詩花に謝り分かりやすく説明をしたりなどもした。
詩花はある程度話を聞いてこう言った。
「とりえず、1枚撮ってみようかな?」
「うん!最初は色々試しに撮ってみよ!」
そう会話をすると詩花は立ち上がって歩きだした。
するとクルッと振り返って翔の名前を呼んだ。
シャッター音が響いた。
「…え…?」
翔が不思議そうな顔をしていると、詩花は言った。
「初めて撮る写真は翔が良かった」
顔を赤くして照れながらそういう詩花は笑顔だった。
2人はその後も日が暮れるまで花の写真を撮ったり、お互いを撮り合ったりした。
次の日―。
学校で翔が昼休みに自分の席に着いていると周りから妙な視線を感じていた。
「……?」
不思議そうにジュースを飲んでいると凛音が席に来て小さい声で話した。
「…なんか休日、林さんと一緒にいたのを見たって言う噂が出回ってるみたいだよ。違うなら違うって……」
そこまで凛音が言いかけたところで翔は手をパタパタとさせて言った。
「いや、違うくないけど」
「……それなら良いんだけど…大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込む凛音に翔は普通に返した。
「え、何が?」
凛音はその返事に一瞬驚いたが、すぐに平静を装い言った。
「なんか翔君ってこういうの気にするタイプだったからさ」
確かにそうだ。凛音の言うことはもっともで、事実だ。いや、事実だったと言い直す方が正しいかもしれない。翔は詩花との再会から多方面で成長していた。
「俺は……昔はそうだったけど、今は気にしないかな。遊びたい人と遊ぶし、言いたかったらどうぞご自由にっていう感じ。噂ばかり言う人とは遊ぶことなんてないんだし」
凛音はそれを聞くと笑顔になりこう言い返した。
「翔君、変わったね」
「そう?凛音は俺にいつも構ってくれてありがとう」
翔が両手を合わせながらそう言うと凛音は女の子のように顔を赤くしはずかしそうに照れていた。
「(しかし、詩花は大丈夫かな…)」
昼休みになった途端教室から出て行った詩花に翔は連絡を入れた。
12:57 Soramoto[ 大丈夫? ]
数分で返信が返ってきた。
13:00 Utaka.H[ ちょっと……ね ]
13:01 Soramoto[ どこいるの?今 ]
13:04 Utaka.H [ 図書室の奥の階段のとこ ]
翔はそれを見て急いで教室を出た。
言われた場所に行くと階段に
夕菜は翔が来た事に気が付くと、立ち上がり小さく呟いた。
「……別にあんたの為じゃないから」
そう言い残すと立ち去って行った。
「(……何が……?)」
不思議そうな顔をした翔は、詩花に声をかけた。
「…う、詩花?大丈夫?」
詩花は蹲りながら泣いていた。
「ご、ごめんね、私のせいで迷惑かけて」
「え、何でそんな…迷惑なんて…」
そこまで翔が言い返しそうになったところで、詩花は口を開いた。
「迷惑なの…!多分今からもっと迷惑かける…!!」
いつもとは違う少し強い口調でそう言った。
「……クラスの1部の女子が…翔の事を馬鹿にして…」
「私…怒ったの……そしたら……そしたら…」
そこまで言って詩花は喋れないくらいに泣いてしまった。
「い、いや別に俺は……」
翔は言いかけて一旦言うのをやめた。
「(ここで俺が、気にしないからと言ってもそれは優しさなのだろうか……。それは本当に詩花を助ける言葉になるのだろうか。逆に負担をかけないかな…)」
「(確かに俺は大した取り柄もないし何も凄くないけど……周りの大切な人が居てくれればいいや…)」
そう決意した翔の脳裏には、詩花をはじめ、凛音、赤弥、夕菜、茜、晴太、青葉、茶緑、家族の事、バイト先の人を思い出し、クラスの女子に正論をぶつける決意をした。
「(別に…嫌われてもいい…)」
そう思いながら教室へ向かった。
教室まで近付いた時、中から夕菜の叫ぶ声が聞こえた。
「詩花に謝ってよ!!!!」
翔がそれを聞いて中に入ると、恐らく言いふらしたり馬鹿にしたりしたであろう女子に夕菜が怒っていた。
夕菜の後ろの机には赤弥が足を組んで座っており、その横で
青葉が翔に気が付いてこう言った。
「おい翔!こいつらなんなんだよ!」
女子を指差し訴えた。教室内からは音が消えている。
「あ、あのさ…これは俺の問題だし…」
翔がそこまで言うと、赤弥が座っていた机から立ち上がると食い気味で背中を向けたまま言った。
「お前は優しすぎる」
赤弥が怒っているのを見た事の無い翔や夕菜たちは驚いた。
「(…赤弥…?)」
「友達が馬鹿にされて怒るなって方が無理だろ」
「お前はお前だろ!堂々としろよ!」
「クリスマスん時俺に言ってくれただろ!」
赤弥は振り向くと、翔に強く説得した。
「1人で抱え込むなよ、たまには俺らに助けられろ」
そう言って赤弥は女子の方を見ると言った。
「楽しいか?人が楽しんでるところに水を差して」
「くだらないこと言う暇があったらもっと素直に生きれる努力でもしたらどうだよ」
「ガキじゃねえんだから」
そう言い残し赤弥は女子を睨みつけると去っていった。
「なんか幼稚だね」
「そうやって窮屈な世界で生きてたらいいよ、ずっと」
青葉もそう言い、風船ガムを膨らませながら机から飛び降りると教室へ戻った。
「ここまで
茶緑は眼鏡をクイッとやってそう言い残すと帰っていった。
晴太は特に喋らず翔の後ろに下がった。翔はそれを(あれ?)といった感じで見つめた。
そして残された夕菜は強い口調で言い放った。
「詩花と空本君に謝って!!!」
翔はその言葉を聞いて驚いて顔をあげた。必死に言う夕菜の横顔を見て、いつもは自分の事を「蹴る!」だのいじってくる夕菜は友達としての愛があってのことなんだと気付いてハッとした。
「別に俺は馬鹿にされようが構わないよ。人間だからそういう事もあるだろうし万人から好かれる人なんていないし…」
「でもさ、せめて心に留めておくべきだと思う。それが傷つく人も…当たり前だけどいるんだよ」
「その当たり前が分からないんだとは思うけど……これで分かってくれたらいいかな。だから俺には謝らなくては良いけど」
本心を述べている時、教室の中は静寂に包まれていた。そして首を横に振ると、翔は最後に睨みながら言った。
「詩花には謝って」
林さんと呼ぶべきか迷っていたが、それは違う気がした。何か大切な気持ちに否定をしていることになってしまいそうだったからだ。
反省しきった4名の女子は詩花や翔、その場に居合わせていた全員に謝罪して回った。
教室の外で皆の言葉を聞いた詩花はしゃがみこみ目に涙を浮かべていた。その周りに翔や夕菜、赤弥、青葉、茶緑、晴太、凛音がしゃがんでいた。
すると茜が駆け寄って抱きしめながら声をかけた。
「しうたんーー!!!」
「委員会で遅くなってごめんね!!よく我慢したね!!」
「うん……ありがとう」
茜の腕の中で詩花は涙を流していた。
「皆も…ありがとう」
そして続けてそう呟いた。
翔からも皆にお礼を伝えた。
「皆ごめん…俺のせいで」
「翔は甘えベタだからな~」
赤弥が笑いながらそういうと、青葉が頭の後ろに両手をやりながら風船ガムを膨らませて続けた。
「そうそう、もっと頼ってよ〜。仲良しこよしじゃんか〜」
それを聞いて凛音も伝えた。
「けど、変わってきてるところももあるよね翔君っ」
茶緑はも続けて眼鏡をクイッとしながら言った。
「今回のは悪質ですよ、何事もなく終えれて良かった」
「………」
晴太は喋らなかった。
「………」
そんな晴太を翔は見つめていた。
夕菜は翔にだけに聞こえる声で呟いた。
「詩花のこと大事にしてくれてありがと……」
「白沙流さんも守ってくれてありがとう」
小さい声で翔が言うと、夕菜は照れて言い返した。
「い、いやっ…別にだから…あんたを守った訳じゃないしっ」
「じゃ、あとはお2人さんで」
そう赤弥が言うと皆それぞれの教室へ戻っていった。
「え、えっと…」
翔が詩花に話しかけようとすると昼休み終了のチャイムが鳴った。
「いやタイミング悪っ!」
チャイムにすらツッコミを入れるようになった翔に詩花は笑った。
「今日シフト一緒だから一緒に行こう」
席に着く前に小さい声で翔は詩花に伝えた。
詩花は笑顔で頷いた。
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