第19話:GCW(Game Center War)
帰宅後、翔は年末詣の話をするために詩花に電話をかけた。
「もしもし…」
「あ、もしもし…」
ついさっき、かっこつけたセリフをたくさん吐いた為、お互いが恥ずかしく会話が一向に進まない。
先に切り出したのは翔だった。
「あ、あのさ…年内こっちにいるの明日で最後なんだけど…」
「年末詣行かない…?」
「ご、ごめん明日は用事があって……」
翔はしっかりと断られた。
「まあ来年一緒に行こうか」
翔が呟くと、ドキッとした詩花はいじった。
「来年もー?それまで仲良くしてくれるんだ」
「…え、当たり前じゃん」
いじろうとした詩花は失敗し、顔を真っ赤にした。
2人は来年もよろしくとお互い言い合い、電話を切った。
12月31日 深夜―。
翔は母の実家で1ヶ月遅れて入学した高校生活に不安を感じながらもここまで何とか生きてこられた現状に感謝をしていた。
「詩花をはじめ、凛音、赤弥……一応、茜…」
「皆のおかげだなぁ」
そう呟いたところでスマホに一件の通知が入った。
23:55 夕菜[ 私は? ]
「ひっ」
翔は怖がりスマホを放り投げた。
「な、何で聞こえてんだ…この人怖い…怖い…」
布団にくるまってぷるぷると震えているとスマホに着信が入った。
「ひぇっ」
そう言い震えていると、スマホは鳴り続けている。
「…早く切れろ早く切れろ」
念じていると、着信は切れた。
「ふう」
そう言いながらもぞもぞと布団から出ると着信履歴は詩花からだったのに気が付いた。急いで折り返すと詩花が電話に出た。
「ごめん、遅くなって」
「全然遅くないよ?」
「(確かに…)」
少し恥ずかしくなった翔は詩花に尋ねた。
「で、何か急ぎの用事だった?」
そう聞くと少しだけ間を置いて、詩花は答えた。
「……あ、えっと…新年になる瞬間、電話繋いどきたくて」
「め、迷惑だったかな…」
「(がわ゛い゛い゛。なにこの尊い生き物は。通話なのに顔がそこに見えてくる。幻覚か?じゃあ今聞こえたのも幻聴?)」
脳内に何とか留めて返事をした。
「全然迷惑じゃないよ」
すると時計の時間が0:00に変わった。なった瞬間に詩花は言った。
「今年も一年よろしくね、翔」
「何卒、宜しくお願い致します」
「かたいなーもー」
笑いながら詩花がそう言い、その後少しだけ喋って電話は切った。
「…良い新年の幕開けだ……」
翔は呟いた。
その後は、帰省先で初詣に行ったり親戚に会ったりして時間を過ごし、翔の通う高校のある街へ戻った。
3学期が始まり1月某日―。
放課後 写真部の部室に、翔・詩花・赤弥・夕菜が集まって座っていた。
そして、赤弥が話を切り出した。
「今日…集まってもらったのは、とあるミッションの為だ…」
その場にいた赤弥以外のメンバーが固唾をのんで話の行く末を見守った。
「……ゲーセンに行こう。皆で」
「ほう」
翔の返事に続くように赤弥は言った。
「どうしても欲しいものがあるんだよ…」
「ごめん今日バイト」
「あたしもバイトよ」
夕菜と翔はバイトがあるため即答で断りを入れた。
「え、白沙流さんバイトしてたの?」
翔はそれが気になり聞いた。
「失礼ね、花屋で働いてるのよ」
「はぇ~」
「何そのマヌケな返事」
翔の気の抜けた反応に夕菜はツッコミを入れた。
「っちぇ~、じゃあ一人でいくか~」
赤弥は背伸びをしながらそう言った。
「あ、じゃあ」
詩花がそう切り出すと、こう続けた。
「私、ついて行こうか?」
「(私も今年は、翔みたいに人に優しくできるようになりたいし)」
翔と夕菜はそれぞれ嫉妬の目で詩花を見た。
「(断りなさいよ赤弥くん…蹴るわよ)」
「(断れ赤弥…それがこの世の
「助かるよ~林さん」
翔と夕菜は顔を真っ白にしてフリーズした。
「じ、じゃあ…俺…バイトだから……」
翔がそう言い立ち上がると、夕菜も続いた。
「あ、あたしも…」
「おう!頑張れよ!」
2人は部室から出ると目を合わせ、静かに扉に近づき聞き耳を立てた。
「…………………」
「……………………」
「………」
「……………」
何やら話しているが、扉一枚分の壁は分厚く聞こえにくかった。もっと扉に接近して聞き耳を立ててみた。
「実は…(夕菜にプレゼント)……シたくて……」
「…私も…………(翔に)キ(-ホルダーとかあげ)て(みようかな)………」
2人はそれを聞いてわなわなと顔を見合わせていると扉がガラッと開いた。
「びゃっ」
尻尾を踏まれた猫の様な声を出し、2人は逃げ出した。
「…?」
赤弥と詩花は顔を見合わせた。
「(シたいって何がよ!)」
「(な゛っ……キてって…詩花……何を望んでるの…)」
普通に生きていたらあり得ない勘違いが生まれ、2人は悶々としながら下駄箱まで行ったが、引き返し2人を見つけた翔はこう伝えた。
「ま、みんなバイト休みの時に4人で行こうよ」
焦りながらそう伝えると、その場にいた皆了承した。
16:44 夕菜[ ナイス ]
電車に乗ってる時に夕菜からメッセージが送られてきた。
16:45 Soramoto[ 白沙流さんが嫌そうだったからね。ジュース奢ってくれたらそれでいいよ]
16:45 夕菜 [ 蹴る ]
16:45 夕菜 [ 蹴る ]
16:45 夕菜 [ 蹴る ]
16:45 夕菜 [ 蹴る ]
16:46 夕菜 [ 蹴る ]
翔は子羊のようにぷるぷると震えながらバイトへ向かった。
喫茶ブローディアに入ると、今日のシフトは糸上と2人だった。
「空本君、バレンタインは貰えるあてあるの?」
ニヤニヤとしながら聞く糸上に即答した。
「……ま、まあ1つくらいは…」
ほっぺたを人差し指で掻きながら言うと、糸上は顔を覗き込んで更にニヤニヤしながら言った。
「……林ちゃん」
そう言われた瞬間に心音が早くなった。真顔のままスタッフルームに駆け込み座り込むと少し考えた。
「(…も、もらえる……よな…いや、まさか……)」
モヤモヤとしたままバイトの時間を過ごした。
業務中のチラチラと糸上は翔の方を見ていた。
「(なんなんだ…あの人…)」
早くバイトの時間が終わってほしいと思う翔だった。
そしてようやくバイトが終わりLINEを見ると通知が入っていた。
19:33 夕菜 [ 蹴 蹴 ]
19:33 夕菜 [ 蹴 蹴蹴蹴蹴蹴蹴蹴蹴蹴蹴蹴]
19:33 夕菜 [ 蹴 蹴 ]
19:33 夕菜 [ 蹴 蹴 ]
19:33 夕菜 [ 蹴 蹴 ]
19:34 夕菜 [ 蹴 蹴 ]
19:34 夕菜 [ 蹴 蹴 ]
19:34 夕菜 [ 蹴蹴蹴 蹴 ]
19:35 夕菜 [ 蹴蹴 蹴 ]
「………け?絶対けるって書こうとしただろ…どうせ…」
「しかも途中で諦めてるじゃん……」
「バイト中に何してんだこの人…」
翔は衝撃を受けながらも疑問に思った。
20:39 Soramoto [ 働け ]
そう送り、自宅へ帰った。
週末―。
風は冷たく、強く吹く今日は以前話していた4人でゲームセンターへ行く日だ。
コートに手を突っ込み、マフラーで顔を隠しながら歩く翔は集合場所に向かっていた。
13:24 赤弥 [ 到着~! ]
13:25 赤弥 [ 画像 ]
赤弥から、到着の知らせと夕菜とのツーショットが届いた。写真をタップしてよく見ると、夕菜は睨む様な目をしていて中指を立てていた。
「え…こわ……」
「俺、今からこの人に会うの……?」
そう怖がりながら現地へ向かってると、詩花からも写真が送られてきた。
13:28 Utaka.H [ みてみて~ ]
13:28 Utaka.H [ 画像 ]
送られてきたのは、翔がプレゼントしたマフラーに顔を半分ほど
翔は昇天癖がついてしまっており、天へと旅立った。
現地に着くと、既に夕菜と赤弥は姿が見えず、外では詩花が手をぶんぶんと振って待っていた。
翔も手を振り返し、笑顔で近づいていくとどこからともなく現れた夕菜に蹴られた。
「だどっ」
「働けって送ったわね、そのお返しよ」
蹴られたときの反応バリエーションもどんどん増えていく翔は、蹴られ慣れをしており、夕菜に耳元でこう言った。
「……もっと強く蹴ってくれなきゃ」
夕菜は震えながら、真っ白になって倒れてしまった。
「……勝った」
翔はそう呟くと詩花に声をかけて、片手を挙げながらゲームセンターに入っていった。
ここからは色んな組み合わせの景色を見て貰おうと思う。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――赤弥・翔ペア―。
翔がゲームセンターに入るや否や赤弥は両手にぬいぐるみやフィギュア、お菓子などの景品を大量に抱えながらクレーンゲームの台を行ったり来たりとウロウロしていた。
「いや早!?」
翔がツッコミを入れると赤弥はお菓子を手渡しながらこう言った。
「あの…これ…愛の…印…」
「いや違うだろ!」
ポッと照れながら言った赤弥に翔はツッコミをもう一度入れた。
「……走る?虫唾」
「そのたまに出る倒置法なんなの!?」
翔は3回目のツッコミを入れた。
「定期的に差すんだよね、魔が」
「で、出た!それそれ!そのシリーズなんなん?」
翔が4回ツッコミを入れて満足気にして、赤弥とハイタッチをした。
そして手渡されたお菓子はきちんと受け取った。
その後、もらったお菓子を頬張りながら仲沢のクレーンゲームの腕前を眺めていた。
「(…彼女視点だなこれ……)」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――詩花・夕菜ペア―。
「夕菜、空本くんを蹴るのやめてあげてほしいんだけど」
詩花は夕菜に思っていたことを伝えた。
「これは蹴ってるんじゃないの。調教よ調教」
呆れながら夕菜は当然のように語った。
「……………」
般若のような形相でツノが生えている詩花は目を鋭く光らせて夕菜を睨んだ。
「わ…分かったわよ。じゃあこれで勝負よ!」
夕菜はゲームセンターの隅にあった、バスケットボールのゲームを指差した。
1シュート2~3点で、店が設定した点数に到達すると次のゲームに進めて、MAX3ゲームまでできるやつだ。
「(あたしはバスケには自信があるのよね……)」
夕菜はニヤりと笑いながらそう企んだ。
「じゃあスタート!」
『・・・・・』
勝負の結果―。
・林 詩花 [1ゲーム目:55点][2ゲーム目:58点][3ゲーム目:56点]
・白沙流 夕菜 [1ゲーム目:8点(敗退)]
「……………すいませんでした」
ドヤ顔をする詩花に夕菜は土下座した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――夕菜・翔ペア―。
「あ、パンチ力測るやつだ」
翔はそう言いながらパンチ力測定器を指差した。
「…これは……蹴ってもいいのかしら……?」
舌なめずりをする夕菜はジロりと翔を見た。
「(白沙流さんのその蹴りに対する謎の執着心は何なの…?)」
震えながら翔は心で思った。
測定結果―。
・空本 翔 100kg(一般男性の平均以下)
・白沙流 夕菜 155kg(一般男性の平均値、あるいは少し高い)
「いや、高っ…!?」
翔は一般成人男性の平均値を叩き出した女子高生が目の前の現状に戦々恐々とした。
「次の獲物は……どれかしら……?」
暗闇で見る猫のように目が光っていた。
「ひっっ…」
翔はクレーンゲームの台を死角に逃げ回った。
「どこかしら~?」
見えないところから声が聞こえて翔はぷるぷると震えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――赤弥・林ペア―。
「上手いね、仲沢君」
「え、そー??」
色んな景品を袋に大量に詰めて台を行き来している仲沢は照れながら答えた。
そんな赤弥の後ろを親のようにとことこと林は着いていく。
「…これ夕菜ちゃん喜んでくれそー」
一つの台の前で足が止まった。
それは夕菜がLINEでよく使用する柴犬のキャラクターの小さいぬいぐるみだった。
「わ〜、私もこれ好きなんだ」
子供のようにクレーンゲームの台のガラスに張り付いて中を覗く詩花の姿をチラッと仲沢は見た。
仲沢はそつなく2つ取ると、1つを詩花に渡した。
「良かったらどうぞ」
「え~!嬉しい!大切にする!」
貰った小さな柴犬のぬいぐるみを両手でギュッと持って笑顔で言った。
「(…て…天使)」
赤弥がそう思った瞬間に夕菜がどこからともなく現れて軽く蹴りを入れて去っていった。それは一瞬の出来事で2人には何が起きたのか理解できなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――夕菜・赤弥ペア―。
「これあげる」
仲沢は夕菜がいつもLINEで使っているスタンプのキャラクターの柴犬のぬいぐるみを手渡した。夕菜が一番好きな黒柴だ。
夕菜は子供のようにパァッと嬉しそうに笑いお礼を言った。
「ありがとう、赤弥くんっ!」
赤弥はそれを見てつい声が漏れてしまった。
「…かわい……」
夕菜は黒柴のぬいぐるみをギュッと持ちながら顔を赤くし、ぺんぺんと赤弥の背中を叩いた。
「ご、ごめん。人前だと嫌だっけ」
そう言って1歩下がった赤弥の服の袖を掴み、夕菜はほっぺたを膨らませて言った。
「嫌なんて一言も言ったことない。嬉しい」
笑顔で言う夕菜の顔を見て赤弥も笑顔になった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――詩花・翔ペア―。
「翔はクレーンゲームあんまやらないね」
詩花が不思議そうに尋ねると、翔は少し考えるように下を向いた。
少しして、思い出したように口を開いた。
「ま、まあ昔…ちょっとね……」
「え、何?」
翔の顔を覗き込みながら詩花は聞いた。
「…クレーンゲーム極めすぎて……出禁になったことある…」
「え!?何その経歴!?」
詩花は驚いて今日一の大きな声を出した。
「だから俺はこの辺でいい…」
翔はそう言いながらガチャガチャのコーナーを歩いていた。
「(おっ。これは確か…)」
翔はそう考えながら2段になってるガチャガチャの下の段にあるものを見つけてしゃがみこんだ。
それは、例の柴犬のキャラクターのキーホルダーだ。
「詩花これ好きだったよね?ちょっとやってみようか」
笑顔でそう話しかける翔に詩花は嬉しそうに頷いた。
『・・・・・・』
「これどう?」
ノーマルの柴犬が仰向けになっているキーホルダーだ。
「かわわ!」
詩花にしては珍しい反応をした。翔はそんな詩花にキーホルダーをプレゼントした。
「はいどうぞ」
嬉しそうにまじまじと柴犬を眺めた詩花はお礼を言った。
「ありがとうっ!」
「(あなたがかわわだよ…)」
そう思う翔だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――詩花・翔・夕菜・赤弥―。
「せっかくだし、プリクラ撮ろうよ」
4人がプリクラの機械の前を通った際に、翔が機械を指差しながらそう言った。
「あんたにしては気が利くわね」
「(これ気利いてんのか……)」
赤弥も詩花も賛成し4人で撮った。
変顔、両頬に両手を当てる虫歯ポーズ、ほっぺたツンツン、猫ポーズなど皆でアイデアを出し合い色んなポーズを決めた。
その中には、詩花が翔から貰ったキーホルダーを大事そうに持つポーズや夕菜が赤弥から貰ったぬいぐるみにキスをするものなど男性陣が昇天するものも多くあった。
翔は詩花がキーホルダーを持っているシールを大事そうにカバンにしまった。
「(家宝だ家宝)」
赤弥は夕菜が柴犬のぬいぐるみにキスをしているシールをジッと眺めていたところを夕菜に発見され叩かれた。
帰り道―。
「楽しかったね~」
翔がそう切り出すとそれぞれ同意して、また遊ぼうという流れになった。
翔は帰宅後、自室に行き、詩花のシールを眺めて机の引き出しにしまった。
そして一度引き出しから取り出すと、机の上に立てかけてその前にお菓子などを供えた。
「もはや神棚だなこれは…」
シールに向かって手を叩き、頭を下げた。
赤弥も帰宅後、自室に行き、夕菜のシールをジッと眺めて顔を真っ赤にして机に突っ伏した。
すると一件の通知が入った。
19:30 夕菜 [ あんまり見ないでね ]
それをみた赤弥は不思議に思った。
「(何で毎回分かるんだ…)」
夕菜も帰宅後、自室に行った。シールに写っている翔を見て小さく語りかけた。
「……全部あんたのおかげよ……ありがとう…」
そして赤弥から貰った柴犬のぬいぐるみをぷにぷにと触って赤弥にもお礼を言った。
「…ありがとう、赤弥くん」
詩花も帰宅後、自室へ向かった。
「楽しかったな~」
そう言いながらプリクラを眺めていると机の上に置いていたカバンについていた柴犬のキーホルダーが目に留まった。
キーホルダーをちょいっと触るとコロンと転がった。
「翔がくれたキーホルダー、可愛いなぁ」
そう言ってカバンから取り外し手で握りしめた。そのままベッドに転がり、大きな柴犬の抱き枕に抱き着いた。
「みんな、ありがと」
詩花はそう呟いた。
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