第18話:それぞれのペース

 次の日―。


 翔の帰省用のお土産を購入するというミッションをクリアする為に、詩花と翔はショッピングモールに来た。

 

 順調にお土産を選び、併設されているカフェでお茶をし時間が少しあったので二人で服をみたりもした。同じタイミングで二人はこう思った。


「(これ…デートじゃね…?)」

「(これって…デート…?)」


 そう思った頃には、もう既に17時前だった。


「そろそろ帰ろっか~」

 翔がそう切り出すと、ほっぺたを膨らませた詩花が翔の袖を引っ張った。

「……もうちょっと一緒にいたい」


 翔は昇天した。その後、19時までゲーセンや雑貨屋、本屋を一緒に回った。


「あれだね、詩花と一緒に居ると時間があっという間に感じるなぁ」

「こうやってこれからも一緒に色んな所に行けたらいいね」

 笑顔で翔が言うと、詩花は昇天した。



 翔は詩花を送り届けると、自宅へまっすぐ帰宅した。家に着き、二階の自室に荷物を置いてリビングへ向かった。

 リビングのソファには母のゆき姉のまいが並んでテレビを観ていた。ソファの前にあるテーブルの横には父のはやてが座っていた。

 

 翔はその光景を見て、三人にこう聞いた。

「あれ、皆ご飯食べたの?」


 雪はそれを聞いて不思議そうに尋ねた。

「あら、ご飯食べて来たんじゃないの?彼女と」


 翔は驚いてスマホを落とした。

「そうか~ついに彼女ができたかぁ」

 腕を組み、感慨深そうに颯は言った。スマホを落としただけなのに。

「い…いや彼女じゃないから」

 慌てて否定しようとすると、ソファに座ってた曲者が目を光らせてツッコミを入れてきた。

「…今……〝彼女じゃ〟って言ったよね?女だ、こいつには女がいるぞ!!」

 舞は両手を上げたうえに雄叫びも上げた。

 


「…い、いやあの…」

 翔は真っ青になりながら否定をしようとすると雪が口を挟んだ。

「だってお母さん今日あのモール行った時にあんたと女の子が歩いてるの見たよ」


「……え…人違いじゃない?(絶望だ…この世界には絶望しかない)」

 そこまで翔が言ったところで、スマホに着信が入った。


「彼女だ」

「彼女か」

「彼女ね」

 颯、雪、舞の順でそう言った。

「だから違うって!」

 翔はツッコミを入れると廊下に出て電話に出た。

「もしもし」 


「もしもし…あのさ」

 詩花はそこまで言って黙ってしまった。

「あれ…うた……」

「(はっ…)」

 後ろを静かに向くと壁から颯、雪、舞が覗いてこちらを見ていた。

「うた…マロ石鹸…どうだった?」

「汚れが良く落ちるよね…っはは…」

 片手を頭にやりながらそう話す翔をみて家族はこう思った。

「(彼女だ…)」

「(彼女か…)」

「(彼女ね…)」


 舞がにやりと笑い、翔の横を通り過ぎようとした際にこう呟いた。

「翔にも彼女ができたかー」

「…ばっ……何言ってんだよ舞!」



「(……………え……?)」

 電話越しにそんな会話が聞こえて来た詩花は驚いた。

「(……え…?彼女……?いるの……?)」

 詩花は翔の電話相手である自分が彼女と思わず、勘違いをして電話を切ってしまった。


「(…明日一緒に冬休みの課題やろうと思って電話したのに……)」

「(…最初からそうだったのかな……私を弄んでただけなのかな…)」

 詩花は目に涙を浮かべながら、抱き枕に抱き着いた。



「電話切れちゃったじゃんか~。大体舞はこういうところがあるから………」

 翔は舞に説教をした。


「(詩花に用事聞いて、謝っとかなきゃ)」


 その日の0時―。


「あれ…そういや返信……」

 翔はそう言って4時間前に送った詩花へのLINEを確認しても返事どころか既読のマークすらもついてはいなかった。

「…寝ちゃったかな」


 翔はそう呟いて眠りについた。



 夜も更けた頃、詩花は考えていた。

「翔に彼女…?」

「…いつから翔が私の事を好きと勘違いしてたんだろう……」

「一回もそんなこと言われたことなかったな…」


 電話を切った後に翔から送られてきたLINEを見ていた。


19:48 Soramoto[さっきはごめん、姉の言ってたことは気にしないで。電話の用事なんだった?]


「気になるでしょ……」


「私…勘違いしたんだ」

 詩花は泣きながらそう呟くと、抱き枕に抱き着き眠りに落ちた。




次の日―。


 舞とショッピングに出かけていた翔は頻りにスマホを見ていた。

「――……彼女?」

 ニヤニヤとそう聞く舞に翔は強く否定した。

「だから違う!」

 

「ごめんごめん、クレープ奢ったげるから」 

 両手を合わせて焦りながら言う舞に翔は仕方なく許した。



「(結局何だったんだろ…)」

 そう考えながらクレープを頬張っていた。


「―――………って聞いてる?」

 舞は翔の顔を覗き込むようにして聞いた。

 翔は慌てて我に返り、返事をした。」

「あっごめん、なに?」


「ちゃんと聞いて!」

 むくれながら舞はそう言うと、もう一回話始めた。

「年末詣って知ってる?」

「年末詣…?初詣じゃなくて?」

 首を振りながら舞は続けた。


「年末詣。一年の感謝と新年の抱負を神様に伝えるんだよ」

「暗い時間よりも明るい時間が良いらしい。不浄なものが無いからみたいな」


「へぇ~」

 関心そうに翔は呟いた後に聞いた。

「…でそれが何なんだ……?」

「いや別に、そういうのがあるよって言ってみただけだよ」

 舞はニコッと笑うと、翔の腕を引っ張った。

「ほらっ行くよ!」


「へーい」

 

 


 その日の夜―。

 夕食を終え、自室でベッドに寝転びながらスマホで昼に聞いた年末詣について調べていた。

『31日が一番良いとされるが、大晦日以外なら12月14日以降が良いとされる』


「こんなのあるんだな~」

「年内は明日しかここに居ないし、詩花誘ってみるか」


 そう言い、LINEのアプリを開いて、詩花のトークページに飛んだが既読はついてないままだった。


「…あれ…」

「……俺…なんかまたやった……?」

 そう思った時には、もう既に詩花への電話の発信ボタンを押下していた。


 1コール・2コールと回数は増えていく。一向に出る気配なかった。

「…切ろうか」


 電話を切ろうとしてスマホを耳から離したところで声が聞こえて来た。

「…あの」


 翔はそれを聞き、耳に当てるとこう言った。

「う、詩花大丈夫?なんかあった?」

 心配そうに聞く翔に、詩花は思った。


「(ち…違うって分かってたのに…翔は彼女がいたら私と2人で遊ぶ人じゃないってことくらい…)」

「(で、でも…どんな小さな事で…不安になってしまうくらい……君が愛おしいんだよ)」


 翔は何もしゃべらない詩花に尋ねた。

「今家?」

「う゛ん…」

 詩花は少し目に涙を浮かべて鼻を詰まらせながらそう返事する詩花に翔はこう言った。

「ちょっと待ってて」


 そう言って電話を切ると翔はアウターを羽織り、マフラーをつけて階段を駆け下りた。

「ちょっと出てくる」

 そう言うと玄関を出て走り出した。


「…何があったか分からないけど話を聞くくらいはできるでしょ、俺でも」


 そう呟きながら詩花の家へ走った。




21:09 Soramoto[ ついたよ。ちょっと出れる?暖かい格好してね ]



 詩花はそれを見て、鏡で髪型を軽く整えてアウターを着て出た。


 ドアノブを握り、玄関の扉を開けた。

 開いた扉に気付いた翔は詩花の方へ目をやると少し腫れていた。


「な……な…」

 不安そうに言う翔に詩花は驚いた。

「(泣いたのばれてる…!?)」


「な…殴られたの?」

「(ばれてないんかい!)」

 詩花は心の中でツッコミを入れた。


「…どうしたの?何かあったの?」 

 心配そうに詩花の顔を覗き込みながら翔は聞いた。


「も…もう解決したの。ご、ごめんわざわざ来てくれて…(…素直に……)」

「明後日帰るんだっけ…だから、また来年もよろしく(素直に…なれない……)」

「帰ってくるのは何日?(違う、聞きたいのはそれじゃない…)」

「(でも…言葉が出てこない)」


 詩花の話を聞いていた翔は少し間を置いて返した。

「…そっか、来年もよろしく」

「帰ってくるのは3日。じゃあまたLINEするね」


 詩花が翔の顔を見ると、少し寂しそうにしているのが分かった。

「へ、へー。気を付けてね(…あれ……)」


 翔は手を挙げて、振り返ると自分の家の方へ歩いて行った。


「(年末詣…行きたかったな)」

 そう思いながら冷たい風に当たりながら歩いていると後ろから走ってくる音が聞こえた。すると、服の後ろを掴まれた。

「…嘘……嘘ついた…ごめん」

「解決したって言ったの…嘘……」


 詩花の震えている声が聞こえた。


「なにがあった」

 泣いてるのを察した翔は振り向かずに優しい声で聞いた。


「ちょっと…不安なことがあったの……」

 未だに震える声の詩花はそれだけ話して、それ以降は上手く話せなかった。

 翔はクルッと振り返るとこう語りかけた。


「…言えるところまでで良いよ」

 そこまで言って一呼吸おいて続けた。

「今は…聞くことしかできないけど…いつかは…」

「いつかは、俺がなんとかするから」



 そう言って、翔は詩花の頭を撫でた。

「ご、ごめんね……翔」

「私…少しネガティブなところがあるからすぐ不安になっちゃって」

「必ず…治すから」

 涙を拭きながら言う詩花の頬に手を当てて翔は言った。


「それも大丈夫、俺は気にしない。心配はするけどね」

「治したいって思うなら応援するから、でも急がなくていいよ」

「時間はたくさんあるんだから、ゆっくりでいいじゃん」

「周りに合わせなくてもさ」

 そこまで言った翔を詩花は見上げた。


「うん、ありがとう」

 そう返事をして、2人はそれぞれ帰った。



 家に着いた翔は思い出した。

「あっ、年末詣のこと聞き忘れた……」

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