第17話:ホットレモン
12月26日 終業式が終わって―。
明日から冬休みの今日。クラス、いや学校全体が浮かれていた。それはまるで、バレンタイン当日の男のように全員が浮かれていた。
翔は自分の席に座って呟いた。
「なんか皆浮かれてるな〜」
「あはは、まあ年末だしね。なんか普通の日と違うよね年末年始ってさ!翔君は冬休みどっか行ったりするの?」
「母さんの実家に帰るんだよね〜」
自分は浮かれてない雰囲気を必死に出しながらも、内心嬉しいのが漏れてしまっていた。その為、にへらにへらと不気味な笑みになっていた。
「…翔君も浮かれてない…?」
笑いながら凛音はそう言った。
すると翔は後ろから来た人物に背中を叩かれた。
「浮かれるなよーっ!翔ーーーくーんっ!」
「…なんで名前で…」
翔がそう言いながら茜の方を振り向くと、詩花が茜の後ろに鋭い眼光をして立っていた。
「……う、後ろ……」
翔が恐れ慄いた顔で言うと茜は不思議そうに振り返った。
「うしろーー?」
詩花と目が合った茜は不思議そうに言った。
「しうたん?」
「……ねね?ちょっと」
茜は詩花に小脇に抱えられ、連行されていった。茜はパタパタと手足を動かすが背丈の小さい茜では詩花に抵抗はできなかった。
「…茜、詩花に何かしたのか…?」
翔がそう呟くと凛音は微笑ましそうに眺めていた。
「(…翔君は鈍感だねえ、相変わらず)」
すると再度、翔は背中をポンッとされた。
振り向くと赤弥が立っていた。
「翔、クリスマスん時ありがとな」
笑顔で歯を光らせながら赤弥は、親指を立てて言った。
「あぁ、気にすんなよ。写真見る限り白沙流さんも喜んでたみたいだし」
翔がそこまで言いかけたところで、赤弥の後ろから夕菜が顔を覗かせてこう言った。
「赤弥くんから全部聞いたわ」
「…ま、まあ結局選んだのは赤弥くんだし?別に空本に礼なんて言うつもりなかったけど?」
「…ああ、まあ。別にお礼が欲しくて赤弥に言った訳じゃないし」
翔は立ち上がり、廊下に行こうとした。
そんな翔の制服の袖を夕菜はそっと掴みこう言った。
「…でも……赤弥くんの背中を押してくれてありがとう。嬉しかったわ」
夕菜は翔の顔を見上げてそう言った。
すると、夕菜の後ろにどこからともなく林が現れて、翔から夕菜を引きはがした。
「詩花ぁ」
手をパタパタとさせながら引きはがされた夕菜は詩花に名前を呼んで訴えた。
詩花は引きはがした夕菜を赤弥に引き渡して去ろうとした。
夕菜はそれを見て不敵な笑みを浮かべ去り行く詩花に言った。
「詩花、妬いてんの?」
ニヤニヤと笑いながらそう言う夕菜には振り向かず、少し震えた後、カバンを持って教室から出て行った。
翔はそのやり取りをみて不思議に思った。
「(…焼いてる…?日サロ…?)」
夕菜はそんな翔の背中を軽くぺちんと叩くと言った。
「…しっかりしなさいよ」
「な、なにが…?」
翔の冬休み前 最後の登校日は謎と謎が絡み合っていた。
そんな姿を凛音は眺め、少し笑いながら小さくため息を吐いた。
翔が下駄箱で靴に履き替えていると後ろからトンッと誰かがぶつかった。
「すいません」
翔が謝りながら振り返ると詩花が立っていた。
「あれ」
不思議そうに言う翔に詩花は右手を小さく上げて返事をした。
「…よっ」
「一緒に帰ろっか」
翔の言葉に少し嬉しそうにした詩花は急いで靴に履き替えた。
暫く無言が続いて、詩花が切り出した。
「…し、翔は、冬休みどうするの?もう今日からブローディアは年末年始の休みに入るしさ」
「俺は、母さんの実家に帰るよ」
笑顔でそう返す翔に詩花は小さく返事した。
「…そっかぁ…いいね、楽しんで!」
そう言うと更に続けてこう言った。
「じゃあ、今日で今年は最後だね。一年ありがとう、また来年もよろしくね」
笑顔でそう言う詩花に翔は不思議そうに首を傾げて聞いた。
「あれ…何で?」
詩花は思ってもいない返事が聞こえてフリーズしながら声を出した。
「……え、な…何で…って……」
「……だって…」
泣きそうになっている詩花に翔はたじろぎながら言った。
「…え、違うよ」
「俺は30日にここを出るから3日くらいはまだ会えるよ?って意味だったんだけど…」
「分かりにくかったね、ごめん」
片手で頭を搔きながら、そう言うと詩花は顔が明るくなった。
「(…………俺、今何て言った?)」
「(さらっとキモいこと言わなかった…?引かれてない?空本のもは、きもいのもだ)」
「…あ、でも別に嫌だったら…」
翔がそう言って詩花の方を向くと、顔を近づけて笑顔でこう言った。
「嫌じゃない。嬉しい」
「…ち、近くない!?」
心臓の音が早く強くなっていくのが分かった翔は、動揺を隠しながら言った。ただ隠しきれてはいなかった。
すると、もう詩花の家が目の前に見えていた。
「じ、じゃあまた連絡するから」
翔がそう言った瞬間に空から雨が落ちて来た。かなり強い。
「やべ……急がなきゃ」
翔がそう呟いて走り出そうとしたとき、詩花が翔の服を掴んだ。
「…え?」
勢いよく走りだそうとしていた翔は急に服を引っ張られて、転びそうになった。
「ご、ごめん!」
詩花が慌ててそう言いながら、転びそうになった翔に抱き着いた。
1秒ほど二人はくっついていたが、お互いに顔を赤らめて離れた。
「だ、大丈夫だよ。濡れちゃうから早く家に入って」
優しい笑顔で翔はそう言うと、再度走り出そうとした。
そんな翔を詩花は止めた。
「し…翔…うちで雨宿りする…?」
「え゛っ」
「じ、じゃあ…」
そう言うと、翔と詩花は家へ入っていった。
詩花が急いで家に上がり、ばたばたと荷物を置いてどこかへ行った。
急いで戻ってきた詩花はタオルを持っていて、それを翔に渡した。
「ごめんね、とりあえずこれで拭いて」
「あ、ほんとお構いなく…」
翔は照れながらタオルではなく、なぜかスクールバッグで顔を拭いていた。
「(…どうなったらそうなるの…?)」
不思議そうに詩花は笑った。
「寒いし、上がって?」
「…いや、雨やんだらすぐ帰るしここで」
詩花の言葉に、翔はそう返した。
すると、詩花は翔の手を掴んでこう言った。
「風邪引いて欲しくない」
翔は顔を赤くしながら頷いた。
詩花は翔を二階の自室に案内し、暖房をつけて一度部屋から出た。
翔が何をしていいか分からずそわそわと周りを見ていると机の上に、赤いチューリップの花の写真が飾ってあるのに気が付いた。
すると詩花がホットレモンを二つ入れて部屋に戻ってきた。そわそわしている翔に詩花は聞いた。
「…どうしたの?」
翔はそれを聞いて恥ずかしそうに答えた。
「…いや女の子の部屋って初めてで」
詩花はそれを聞き、安心したがそれを表には出さずににやりと笑ってこう言った。
「私も…男の子が来たの、初めて」
翔は倒れた。
「そう言えば、家族は?」
翔がホットレモンを啜りながら聞くと、詩花もホットレモンに手を伸ばしながら答えた。
「まだ仕事だけど、雨降ってるしお兄ちゃんはもう少ししたら帰ってくるかも」
「お兄さんいたんだ」
そんなやり取りをしていると玄関が開いた音がした。
「ただいまー!詩花!」
そう聞こえると、詩花も大きい声で返した。
「おかえりーお兄ちゃん」
「友達来てるのー?」
そう一階から聞こえ詩花は返事をした。
「うんー」
足音が近づきながら兄の声がする。
「―――……いやー、女の子にしては靴結構大きいねー」
そこまで言うと扉の開いてる部屋の前まで来た。翔を見るなり驚いた様に言った。
「…男!?」
「あ、すいませんお邪魔してます」
翔は立ち上がりながらそう言ったが何か引っ掛かりを感じた。
「(あれ…この人どこかで…?)」
「いやーびっくりした、詩花が男の子を連れてくるなんて」
笑顔で嬉しそうに言う兄の手には金属バットが握られていた。
「(…怖!?)」
「あ、お邪魔しましたー」
荷物を持ち、ダッシュで家を出た。雨は上がっており、雲の隙間から太陽の光が差し込んでいた。
「(にしてもどっかで……)」
少し頭を悩ませた翔は思い出した。
「あー…俺が彼氏と勘違いしてた人だ……」
心の引っ掛かりがまた一つとれ、どこが清々しく感じた。
「あのまま…お兄さんが帰ってこなかったら……」
そんなことを考えてると自宅に着いた。
☆☆☆☆☆☆☆
「もーお兄ちゃん変な事しないでよ」
「いやソフトボールの練習の帰りだったから、別に変な意味は」
「……え、俺がこれで殴ると思われた……?」
兄の
一人になった部屋で詩花は考えた。
「あのまま、お兄ちゃんが帰ってこなかったら……」
そこまで考えて、ベッドの上に転がっていた大きな柴犬の抱き枕を抱きしめた。
すると、スマホに一件通知が来た。
16:11 Soramoto[ 明日、母さんの実家に帰る時のお土産を買いたいんだけど忙しいかな?]
詩花はそれを見て、もう一度ギュッと抱き枕を抱きしめた。抱きしめたまま返事を返した。
16:13 Utaka.H[ いいよ。何時? ]
詩花は送った自分のLINEをまじまじと眺めて考え事をした。
「私の文章って…なんか素っ気ない…?翔はどう思ってるんだろう…」
「もっと絵文字とか顔文字とか使ってきゅぴんみたいな感じの方が翔は好きなのかな」
「……い、い…いやいや、好きとか別に…そんな、そういう好きじゃないし…友愛の情的な、友として、友としての好きだから」
詩花は心の中で留めておくつもりが、全部口に出ておりたまたま部屋の前を通った葉詩に全部聞かれた。
「(詩花………お兄ちゃん寂しい)」
涙ながらに葉詩は自室へ戻った。
少しして、翔から返事が来た。
16:20 Soramoto [ 14時にいつものモールで! ]
詩花はそれを見て少し考えながら返事をした。
詩花は送った後に、少し恥ずかしくなり抱き枕をまだ思い切り抱きしめた。
☆☆☆☆☆☆☆
16:24 Utaka.H[ おっけー!楽しみ~ଘ(੭ˊ꒳ˋ)੭✧ ]
翔は送られた来たLINEを見て、悶絶していた。
「なにこれ可愛い」
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