第15話:言葉の一押し


12月25日 クリスマス―。

 

 今年のクリスマスは平日だ。そして数年に一度の寒波が来る。というか来てる。

「さ……寒すぎでは…?」

 休憩時間に空本は自分の教室でイスに座ってぷるぷると震えていた。目の前の席に遊びに来ていた凛音にそう言った。


「ね~、さすがに部活無くなっちゃった」

「…こんな日に走れと言われても走るのはメロスくらいでしょ」

「あはは、翔君ってそういう言い回し上手いよね」

 凛音が笑いながら褒めた。空本は別に、と言いながら手をパタパタと振るが内心嬉しかった。    

 何気なく林の方に目をやると、目が合って顔を赤くしお互いに顔を逸らした。

 

 凛音は不思議そうに聞いた。

「翔君…?」

「…あぁ、いや…なんでもない、ど、どう…?調子は」

「(慌てすぎだろ俺…なんの調子だよ)」


「…?」

「(マズい、バレる…)」

「……あー、分かった」

 凛音は林の方をチラっと見て言った。


「(わかっちゃったの…!?)」

 空本は焦った。


「APEX(※2)でしょ、最近良いよ~調子!この前のアプデでさ~~」

(※2:ゲームの名前)


「(分かってなかった…!)」

 ゲーム好きの凛音に救われた空本は胸をなでおろした。

 長々とゲームについて喋っていた凛音は話し終えるとこう言った。

「あ、ぼくちょっとお手洗い」

「…へーい」

 

 凛音が立ち上がり視界から消えた瞬間、仲沢が目の前のイスに座った。 

「面接かよ!」

 空本はツッコミを入れた。


「…よう」

「…?……おう」

 仲沢はツッコミに反応せずに言い、少し違和感を感じた空本は小さく返事した。


 仲沢は曇った顔で話し始めた。

「夕菜ちゃんに何あげようか悩んで…」

「…え、クリスマス今日だよ?いつ渡すつもりなの…?」

 空本は心配そうに聞いた。

 

「写真部の部室で放課後…とだけ」

「……また勝手に決めて…」

 元気なく言う仲沢に空本は小さくツッコミを入れた。


「今日用意してないって渡す気あるの?」

「…………」

 空本の質問に仲沢は黙り込んでしまった。


「白沙流さん、見てみなよ」

 窓側の一番後ろの林の席の前には、夕菜が座っている。夕菜は後ろを向いて林と楽し気に喋っている。


「…俺は白沙流さんのこと詳しくは知らないけど、あの顔は仲沢おまえと放課後会うのを楽しみにしてると思うよ」


 冗談などではなく、白沙流の横顔はいつもより明るく見えた。無論、林の横顔も。


「相談の答えだけど、相手が何が欲しいとかじゃないと思う。誰があげるか、だと思うよ」

「(…俺が言えることじゃないが……)」

 空本は仲沢に言ったあと、心でそう思うと、林の方をチラっと見た。



「…………る…」

 少しの間があった後に、仲沢は見た目と真逆の糸のような声で何かを喋っている。

「…え?」

 空本は聞き返した。

「……ってくる………」

「え?」

 空本はもう一度聞き返した。


 仲沢は片手で頭を掻き毟りこう答えた。

「昼休みに買ってくる…」

「…確かに、何をあげるかじゃないよな」

 

「そう。そもそも仲沢は白沙流さんにクリスマスプレゼント貰うならこれがいいとかあるか?」

「…ない」


「そりゃ…相手が欲しい物をあげるのが一番なのかもしれないけど、それは家族や友達がやるべきだと思う。何が欲しい?とか聞いたりなんだり」

「でも…好きな人はそれ以上に大切なものがあると…俺は思う」

 空本はそう言うと、



「……昼休み気を付けて行ってこい。先生には黙っといてやる」

「…かたじけえ」

 仲沢は頭を下げた。


昼休みが終わる頃―。

 相も変わらず自分の席で座って蝶々のようにジュースを吸ってる空本に一件のLINEの通知が入った。


13:24 赤弥 [翔、今ちょっと図書室んとこの階段これる?右側の]


 空本はそれを見ると、一言返事をして向かった。

13:25 Soramoto[へーい]


 空本が指定通りの場所に急いで向かうと仲沢は階段に座ってぜえぜえと息を切らしていた。

自転車チャリ爆走させたわ」

 そう言い、親指を立てて言った。


「良いのあった?」

 空本がそう聞くと仲沢は嬉しそうに答えた。

「おう、これどう思う?」


 仲沢はそう言うと、袋の中を見せた。

 中には、おしゃれな濃いオレンジ色のチェック柄のマフラーとおしゃれな黄色のチェック柄のマフラーが入っていた。

「(……あれ、これどっかで見たことあるような…。あ……俺と林さんのマフラーの色違い……)」

「(まぁ良いか…こんな笑顔の仲沢初めて見たし)」

「良いと思う!仲沢センスいいし、白沙流さん喜ぶだろうね」


 空本は親指を立てて返した。

「…翔、そろそろ俺の事苗字じゃなくて下の名前で呼んでくれ」


 急に獣のような目で仲沢は言った。


「急にどうした…?」

 空本はあわあわと聞くと、仲沢は言った。


「恋愛相談とかする仲だろ~。俺は翔って呼んでんだしお前も俺の事、赤弥って呼べよ~」

 肩を組みながらそう言った。


「分かったよ、赤弥」

 翔はそういうと、赤弥は笑顔でこう言った。

「サンキューな、翔」


 

放課後―。


「さ、バイトバイト」

「おっと、その前に…」

 翔はホームルーム終了後に赤弥にLINEを送信した。


15:46 Soramoto [赤弥、頑張れよ]


「じゃあ今日も頑張るか~」

 そう言って教室を出ようとしたところで、通知が鳴った。


15:46 赤弥 [ありがとう、翔。行ってくるわ!]


 空本はそれに返事をすると教室を後にした。


15:47 Soramoto [大丈夫。プレゼントは気持ちが大事。またどうだったか教えて。]




 


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