第10話:茜色のミッション
いつもより雪が降っている―。
そんな事を考えながら傘を差し学校に向かって歩いていた空本は、声を出した。
「……何でいんの?」
空本の周りを囲むように歩いていた夕菜・仲沢・林に言った。
「翔~、俺たちはもう深い仲だろ~?」
「男女4人で登校。青春だねぇ」
仲沢は目を瞑りながらうんうんと頷いた。
「…べ…別にあたしは空本と行きたいなんて…思ってないし!」
夕菜がそう言い放ち、空本の背中を叩こうとした時、林がじろりと夕菜を見た。視線を感じた夕菜が、林の方を見ると目が合いギョっとして空本を叩くのをやめた。
「…もうすぐクリスマスだな~」
仲沢がそう言うと、林がハッとして顔を上げた。
「早いねぇ」
空本は真顔で返す。
「Wデートしねぇ?」
仲沢のその言葉に他の三人が驚いた顔をした。
空本が真っ先に口を開いた。
「……なぜ………?」
「…あ…あのね……仲沢さん」
「俺と林さん…別に…そういうんじゃ…ないよ……?」
「(林さん……彼氏いるしな…)」
「(林さんの名誉の為に……言わないけどさ……)」
林がそんな空本をいつものジトーっとした目で見つめた。
仲沢は真顔で言った。
「…翔、何か勘違いしてね……?」
「(あっ、そっか何を勘違いしてるんだ俺…)」
「(仲沢・白沙流さんカップルと、林さんとその例の年上彼氏のWデートか)」
空本が自分が勘違いしていたことに対して、謝ろうと口を開いた。
「わ、悪かっt「翔は俺とカップルだろ?」
林・空本・夕菜は顔を白くした。呪いの言葉か何かの様に心地の悪い何かが聞こえた。
空本は無言で、僅かに積もってる雪を丸めてみかん程のサイズにして、仲沢に放り投げた。
「う…嘘……!嘘だよ!!」
仲沢が必死に抵抗すると空本は怖い顔で一言言い放った。
「ついて良い嘘と悪い嘘の分別が付かないのならば二度と俺の前で嘘をつくな」
地獄から聞こえそうな低い声で言った。
「こ…こわ……すまん……」
仲沢はしゅんとしてしまった。
すぐにケロっとしてこう言った。
「まぁ冗談は良いとして、クリスマス四人でどっかいかね?」
空本は露骨に嫌な顔をした。
「なんだよその顔!」
仲沢はツッコミを入れた。
「(林さん、彼氏と過ごすんじゃないのだろうか…これは俺が言い出すべきことなのか……)」
すると夕菜が照れくさそうに、仲沢の制服の袖を引っ張り、顔を見上げてこう言った。
「…赤弥くん……。クリスマス…二人が良い……」
仲沢はあまりの夕菜の可愛さに血を吐いて倒れた。
「………赤弥くん……!どうしたの…!?大丈夫!?」
「(茶番…)」
空本は倒れている仲沢と介抱している夕菜を置いて歩き始めた。
後ろから林がタタッと横に来て小さな声で言った。
「…空本くん…私も二人が良い……」
空本は血を吐いてその場に倒れた。
「!?」
「空本くん!!!」
一面銀世界の雪景色は一瞬にして赤く染まっていった。
放課後―。
写真部の部室にやってきた空本は、イスに座りカメラをいじっていた。
「…二人が良い……あれって…俺とじゃなくて彼氏とってことだよな……?
「俺に言う必要……あるのか?」
「あまりの可愛さに血吐いちゃったけど」
後ろの扉が開く音がした。そこに目をやると、林が立っていた。
「…や、やぁ空本くん」
「……は、林さん…」
朝の事を思い出して二人はそわそわした。
空本がそんな状況を打破しようとカメラを見始めた。林はそれに気付き、肩をくっつけてこう言った。
「すご~!これ全部空本くんが撮ったの??」
今までに無いくらいの密着具合に空本はキョドった。
「…い…あ…まあ……そ、そんな感じ……」
「(俺こんなキャラだっけ…?そんな感じって何だ……)」
「(落ち着け…)」
林はそんなキョドった空本を見て少し笑いこう言った。
「こっちの方が良かった……?」
そう言うと、立ち上がり空本の後ろに向かった。
「…林さん……?」
そう聞くと、林は顔を真っ赤にし空本の後ろから手を伸ばしバックハグの様な形でカメラを持つ空本の手に触れた。
「み゛っ」
その瞬間、この世に存在しない生物の鳴き声の様な声を出した空本はカメラを置いて部室から走って逃げだした。
「……や…やりすぎちゃった…かな……」
耳まで赤くした林はそう一言言うと、空本の座っていたイスに腰をかけた。
「(まだ温かい…)」
そう思いながら、林はイスの上で体育座りをした。
「…い…いいいいいや私変態なの……!?」
空本は、部室から飛び出して自分の教室へ向かいながら考えていた。
「…今日…林さんの様子が変な気がする……」
登校時の『空本くん…私も二人が良い……』という言葉を再度思い出した。
「(あれって、どういう意味なんだろ……)」
「(やっぱ俺に言ってたのか……?)」
「経験の無い俺にはよくわからん……」
そう思いながら歩いていると、三年生の教室の扉が少しだけ開いており何気なく中をみた。
三年生同士のカップルと思われる男女が教室の中でキスをしていた。
空本はすぐに目を逸らし走り出した。自分の心拍数が上がっていくのが分かった。
「(走ったから上がってるだけだ)」
そう自分に言い聞かせながら教室へ向かった。
教室に着き、自分の席に座るとさっきの光景がフラッシュバックした。
その男女を自身と林に当てはめてしまう自分に対して嫌悪感を抱いた。
「…流石に………気持ち悪いな…俺……」
「俺は…こんなキャラじゃなかった……」
「(これは…成長……なのか…?いや…それは良いように言い過ぎな気がする…)」
「変わった…とでも言っておこう……良い方にか悪い方にかなんてわからん……」
「…帰ろ……」
空本は立ち上がり、机の横にかけていたカバンを取ろうとした。いつもカバンをかけてるそこにカバンは無かった。
「あ…部室か……」
そう思い出し、急いで部室へ向かおうと教室の後ろの扉を思い切り開けた。
「…わ!」
「お…おう、すまん」
反射的にそう呟いた。
「ごめん空本君」
驚いた顔でそう松本は返す。
「あれ…?」
「松本さん、俺のこといつもソロ本って呼んでなかったっけ?」
松本は焦りながら言い返す。
「んばっ……間違えただけだし!!」
「早くジュース買えー!」
「なんでだよ」
松本はじろじろと空本を見た。
「…何……」
空本がそう言うと松本はニヤりと笑いスマホの画面を見せて来た。
―――――――――――――――――――――
12:37 Soramoto[で、なんで俺のLINE知ってるの?]
12:37 茜[さー、なんででしょー]
12:37 茜[スタンプ(柴犬がこっちをじっと見てるスタンプ)]
12:39 Soramoto[林さんから聞いたんでしょ]
12:39 茜[しうたん?]
12:39 茜[ぶーーー!残念!]
12:40 茜[スタンプ(柴犬が✖️と書かれた紙を持ってる)]
12:42 茜[間違えたソロ本君には罰ゲーーーームっ!!]
12:43 茜[今度から松本さんじゃなくて茜って呼んでね!]
―――――――――――――――――――――
「これをお忘れでは兄貴?」
ドヤ顔で松本が言った。
「いや、別に忘れてないよ。なんだ兄貴って」
冷静に手を振りながら真顔で返した。
「む…!じゃあ下の名前で呼んでよっ!」
「だからなんでだよ」
ブレない空本は真顔でツッコミを入れる。
空本はそこで思った。
「(これがもし、林さんに言われたら……俺は下の名前で呼ぶのだろうか………)」
「(…………変わったなやっぱ……)」
「もー!ソーローもーとー!!」
「はいはい。呼ばない呼ばない」
断りながら、空本は松本の頭を撫でた。
「(…やべっ……白沙流さんに前電車の中で言われたやつか…これ…)」
「(松本さんに勘違いさせたかな……)」
目の前から松本は消えていた。
自分の机の引き出しに手を突っ込んでいた。
「…あれ~、おかし~な~」
「……あっ!あった!」
そう言うと引き出しからチョコレートを取り出していた。
「(……松本さんは異性より食欲をとるのか…)」
「(まあ別に…この人なら大丈夫か…)」
「…わ…分かったよ、茜……」
松本は驚いた顔をしてチョコレートを食べる手を止め、空本を見て言った。
「え?何が?」
「皆の前では言わないからな!」
「―――………?ん……?今…何が?つった……?」
空本は勇気を出して下の名前で呼んだのに、チョコレートで記憶が吹っ飛んだ茜にショックを受けた。
「俺はね…悲しいよ…茜さん……」
「いや……松本さんか……」
「あーーん!嘘!!ありがとう!呼んでくれて!!」
嬉しそうに茜は言った。空本はそれを見てふと思ったことを言った。
「…で、何で下の名前で呼んでほしいの?」
「………」
茜は黙り込んでしまった。そして目に涙を浮かべた。
「え…?どしたどした??急に何のスイッチ入ったの?」
「え、やだお兄さん分かんない!」
空本はいよいよ自分のキャラが分からなくなったことに、涙を流した。
落ち着いた茜は、口を開いた。
「…最近……弟がウチの名前を呼んでくれない……」
「……え?」
空本は事の重大さに気付けず、こう聞いた。
「それって泣くほどの事なの……?あと、質問と噛み合ってなく無い……?」
茜はムッとした顔をして、言い返した。
「べーだ!万年ソロのソロ本君には分かんないよーだ!!」
「べーだ!!α(アルファ)の次ー!!」
「(それはβ(ベータ)だろ…)」
「いや、一応…姉貴いるんだけど…」
そう言った瞬間、茜は空本に土下座をしてこう言った。
「ははーっ!空本様。どうかウチにご教授下さいー」
「…これが次のミッションか……」
「ややこしいことが起きなければいいけど…」
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