第7話:勘違いチェーン
次の日―。
朝のホームルームが始まる間際、教室で夕菜と林は誰も座ってない空本の席を眺め、顔を見合わせた。
その時、空本は自室のベッドの上でぐったりとしていた。雨に濡れていたせいでしっかりと風邪を引いて学校を休んでいた。
熱を測ると39.3℃まで上がっていた。体温計を見てしんどそうに天井を見た。
「や…やば……。き、今日バイト入れてた……」
バイトがあることを思い出した空本はメッセージアプリのLINEで糸上に連絡を入れようとスマホを持ち必死に文字を打った。
12:09 Soramoto[糸上さんお疲れ様です。急で申し訳ないんですけど、風邪引いちゃって…。今日休みたいんですけど大丈夫ですか?]
糸上に送信をし、スマホを放り投げた。
――ベッドの上で横になりながら眠りかけていた時、通知が鳴った。糸上だと思い、アプリを開くと松本 茜からだった。
12:33 茜[ソロ本くんだいじょーぶかー!]
12:33 茜[元気になったらまたジュースちょーだいねー!]
「(松本さん……?なんでまた……)」
「一応返しておくか……」
12:36 Soramoto[あ、松本さん。ありがとう。]
12:37 Soramoto[で、なんで俺のLINE知ってるの?]
12:37 茜[さー、なんででしょー]
12:37 茜[スタンプ(柴犬がこっちをじっと見てる)]
12:39 Soramoto[林さんから聞いたんでしょ]
12:39 茜[しうたん?]
12:39 茜[ぶーーー!残念!]
12:40 茜[スタンプ(柴犬が✖️と書かれた紙を持ってる)]
12:42 茜[間違えたソロ本君には罰ゲーーーームっ!!]
12:43 茜[今度から松本さんじゃなくて茜って呼んでね!]
空本は既読をつけて、なぜ急に下の名前で呼ぶことになったのか考えていると通知が再度なった。
12:44 糸上[今日はマスターいるし何とかなるわよ。ゆっくり休んでね。お大事に。]
糸上から連絡が来ているのを見て安心して、松本のLINEのことをすっかり忘れて眠りについた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
20時頃、目が覚めると快復とは程遠いが少し寝て熱も僅かだが下がっておりすっきりしていた。空本は枕元のスマホに目をやった。
16:23 凛音[翔君、元気そう?]
16:25 凛音[今日部活無いからお見舞い行こうと思ってるんだけど(。-∀-)]
凛音からそう来ているのに気付いて返信をしようとすると、母親(
「…翔、大丈夫?」
横になっている翔の顔を覗き込むように心配そうに聞いた。
「…うーん。まだちょっとしんどいかなー……まだ少し熱っぽいし…」
熱っぽさを訴えながら体を少し起こした。
「そっか…食欲はある?あるならうどんとかつくるけど」
「食欲はあんまりかな…。なんかさっぱりしたものとかの方が食べやすいかも」
「…あ、じゃあこれ」
そう言うと、小さなビニール袋を見せてきた。中にはカットフルーツのパック・
スポーツドリンク・水が入っていた。
「見越して買ってくるなんてさすがお母さん!」
嬉しそうに言う翔に小さなトーンで雪は言った。
「…いやお母さんじゃないよ」
「…え……俺がお母さんだと思ってたあなたはお父さんだったの…?」
「……あんた元気そうだね」
雪はツッコミを入れた。
翔はゴホゴホと見せつけるように咳をした。
「で、それ誰がくれたの?」
翔は素朴な疑問を聞いた。
「知らないよ」
「?」
翔は雪の返答に不思議そうな顔をして聞いた。
「通りすがりの人に貰ったの?」
「まさか」
雪は笑いながら言った。
「あんたやっぱり元気そ「ゴホゴホッ!」
雪の言葉に被せるように翔の咳が響いた。
「玄関とこで、空本君と同じクラスの者です。渡してください。って言うから、お母さんはお名前聞いてもいい?って聞いたんだけど」
「うん」
「いえ。失礼します!って言ってすぐ帰っちゃった」
「お母さん、あまりの退散の早さにはぐれメタルかサボテンダーかと思ったわよ」
「でもすごい可愛らしい子だったよ」
家族全員ゲームが好きな空本家では度々不思議な言いまわしが出ることがある。その独特な例えを含めながら特徴を話した。
「(……あっ。凛音だ。夕方お見舞い行くってLINE来てたし……)」
「その子可愛いけど男の子だよ」
翔の中で合点がいきそう説明した。
「……え!?」
雪は目を丸くして驚いて聞き返した。
「いや、でも…」
「でも男のなのっ!」
「(そりゃ驚くよな…男であの可愛さは反則ではある……)」
翔は頷きながら共感した。
「うっそだぁ。彼女できたのバレたく無いから嘘ついてるんでしょ」
少し笑いながら言い、ビニール袋を手渡した。
「男ですよ、残念ながら」
翔は真顔で受け取りながらそう返した。
「いや…胸あったし絶対女の子でしょ」
「嘘がヘタね」
「しんどそうだしそれ食べてゆっくりしなよー」
母親はそう言うと部屋を出た。
もらったカットフルーツのパックを開けていた為、母親の言葉はゆっくりしなよーしか聞き取れなかったがお構いなしに食べた。しんどさから凛音にお礼の連絡を入れるのも忘れたままもう一度眠りについた。
次の日の朝、まだ少し熱があった。凛音にお礼の連絡を…と思ったが「明日には行けそうだし、直接の方がいいか」と思いそのまま連絡せずにいた。
次の日―。
すっかり風邪も良くなって、学校に向かった。
登校して教室に入ると心配そうに駆け寄ってきた凛音が笑顔で聞いてきた。
「翔君おはよ〜!もう大丈夫?」
「おはよ。何とかねー」
親指を立ててグッドサインを見せた。
「無理はしないでね」
「ありがとう」
「おーはーよー!」
松本が温かいカフェオレの缶を空本の頬にくっつけた。自動販売機の温かい缶の飲み物は思ってるより熱く空本は驚き「あ゛っづ・・!!」と声が漏れた。
「熱いんだけど!俺病み上がりなんだけど?でもありがとう」
そして空本は手を差し出した。松本は犬がお手をするように空本の手に自分の手を重ねた。
「いや、そうじゃなくて…」
「そのカフェオレくれるんじゃないの?」
「…えっ。えー…っと。むむむ……」
「一応、自分用に買ったというか…えっと……」
「嘘だよ、嘘」
空本が笑いながらそう言うと松本は安堵していた。凛音はその2人のやり取りを見て笑っていた。
昼休みになるや否や、仲沢がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「翔!」
「ん?」
「お前風邪引いてたって?聞いたよ!え?誰にって?夕菜ちゃんだよもう!知ってるくせにー!」
仲沢は見ての通り男相手だと余裕ぶった喋りをする。
「はいはい、わかりました」
「ごめんって〜」
申し訳なさそうに両手を合わせた仲沢は肩を組んできた。
空本は口を開きそんな仲沢に対して聞いた。
「で、白沙流さんの相談はちゃんと受けたの?」
仲沢は時が止まったようだった。
「(…あれ、待てよ…確かに俺は、翔に夕菜ちゃんの悩み相談を聞いて欲しいと頼まれたな…)」
「(翔がいなかった2日間一緒に帰ったりはしてるけど…夕菜ちゃんの相談って…なんなんだ……?)」
「(…家族関係……?いや、勉強とか…?)」
「(まさか…人間関係とかじゃ…いやいや夕菜ちゃんに限ってそれは無い…)」
「(……!転売ヤーに対する怒り…?!)」
「(それは分かるぞ夕菜ちゃん!!)」
仲沢は右手の拳を高く突き上げて同情した。
空本はその光景を心配そうに眺めていた。
「(他にありそうな相談…)」
「(…はっ!!!!)」
「(……まさか!!恋・愛・相・談!?!?)」
魂が抜け、溶けかけていた。
「……仲沢、保健室…行く?」
一人で勝手に一喜一憂する仲沢に空本は問いかけた。
「夕菜ちゃんの相談ってなんだ!」
「それを任せたのにっ!」
空本はツッコミを入れた。
それを空本・仲沢の後ろにある廊下側の壁にある開いた窓からこっそり耳を立てて夕菜は聞いていた。
「これ以上はマズイ……」
「そ、空本君久しぶりっ〜!」
「ちょっといい?」
夕菜は空本の手を引いて教室から出た。
「いや、2日じゃん」
空本のツッコミを無視しながら引っ張る。
その光景を、窓側にいた林と廊下側にいた仲沢が見つめていた。
廊下の端にある階段の踊り場付近まで連れてかれた空本は夕菜に言った。
「…痛いなぁもう、ごめんなさいは?」
「謝ってもらうのはこっちなんだけどっ!」
「…仲沢くんと仲良くなりたい相談をしたのに、それを仲沢くん本人に任せるなんて……!」と言った。
空本は少し笑いながら返した。
「でも上手くいったじゃん」
「…だって仲沢……」
「夕菜ちゃんって呼んでたよ」
それを聞いた夕菜は平手で空本の背中を思い切りべちんと叩いた。
「…流石に……つ…強……強すぎる…よ……」
空本はその場に崩れ落ちた。
夕菜はしゃがみ込み、崩れ落ちた空本の顔に近付き小さい声でこう言った。
「でも、ありがと」
その後ろでバレないように追いかけていた林と仲沢が丁度その瞬間に到着しその光景を見た。
崩れ落ち座ってる空本に、しゃがんだ夕菜が顔を近づけておりキスをしているように見えた。
「!?」
「!?」
2人は顔を真っ白にし、絶望しながらそれぞれ自分の教室に戻った。
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