そこに愛-AI-はないのか

蒼樹里緒

そこに愛-AI-はないのか

 AIで小説が自動生成されるサービスが始まった。

 SNSでその情報を見た時、私の胸は躍った。

 ――マジ? 書いてる途中で話の展開に行き詰まっても、AIが書いてくれるってこと!? これで手間が省ける!

 早速公式サイトにアクセスした。

 AIが認識できる文章量は、無料版だと三千字から四千字程度。既に書かれている文章の口調や書き方、フォーマットを真似しようとする。最低でも四、五十行程度のインプットが必要。多少の添削も手動でしながら書き進めるらしい。場面転換までしてくれるなんて有能だ。

 ――こういう便利なツールを待ってたんだよなぁ。

 新規登録して書きかけの小説を試しに流し込むと、すぐに続きの展開の文章や台詞が出てきた。自分でプロットを用意していたけど、途中で展開が気に入らなくなってずっと放置していた。

 結構いい感じだし、補助としてAIも使っていけば完成できるかもしれない。

 フリーライターとしての仕事の原稿なら、当然AIに頼らず自力で書き上げるけど。小説は今のところ趣味の範囲だし、使えるものは遠慮なく使う。

 AI開発者やサイト運営スタッフの方々に感謝しまくった。


   ◆


 そして、数か月後。

 書きかけの小説は無事に完成して、小説投稿サイトのコンテスト応募締切にどうにか間に合った。

 ――AIがどんどん進化していけば、作業効率が上がるし楽ができるなぁ。

 実際に使ってみて、私は満足していたけど。

 ある日、国内のAIイラスト自動生成サービスが、SNSで大炎上した。

 AI小説自動生成サービスは、むしろ歓迎されたような風潮だったのに。

 SNSには、サービス運営側への非難が飛び交っていた。

「絵を描かない奴らが、これを使ってトレパクし放題になるだろ。ふざけんな!」

「運営は、サービス利用者の善意と性善説を信用しすぎ」

 いや、公式サイトのガイドラインに『アップロードしたイラストに権利侵害があった場合は、元の権利保有者に権利が帰属します。他人のイラストを勝手にアップロードしないでください』ってハッキリ書いてあるやろがい。あと、AIが流行る前からトレース盗用問題なんていくらでもあったよ。人間の悪意のせいじゃん。

「他人に勝手に使われたり自作発言されたりするのが嫌なので、私の描いた絵はAI学習禁止です!」

 現行法だと、AIによる学習は禁止できないんだよ。その言い分だと、たとえば大手検索エンジンに使われてるAIだってアウトになるじゃん。ほかの用途はよくて絵だけダメって、個人の好き嫌いの問題でしかないよね。苦情や要望は、現行法を立案した人間と制定した人間に言って、どうぞ。

「AIの描いた絵が、コンクールやコンテストで受賞しまくる未来なんて見たくない!」

 小説の場合、数年前から既にAIで書かれた作品が受賞してるんだけどな。それでプロ作家やアマチュアの小説書きが毎回ギャーギャー騒いでるのなんて、全然見たことないよ。

「AI創作物の投稿を許容するイラストサービスも、絵描きの敵だ!」

 じゃあ、そのサービスを退会して個人サイトやポートフォリオでも作ればいいよ。SNSが流行る前は、それが主流だったんだからさ。絵を描く努力はできるのに、そういう労力はかけたくないんだなぁ、不思議。

「おまえのイラスト、全部AIで描いたんだろ。タイムラプス見せろよ!」

 魔女狩りかよ。現代から中世にタイムスリップするの、やめてもらっていいですか?

「AIのせいで絵描きの仕事が奪われる!」

 絵描き以外の職業についてはガン無視ですか、そうですか。たとえば作曲AIもあるけど、その影響で作曲家や音楽家の仕事が奪われることはないって音楽関係者が言ってるインタビュー記事も出てるから、ぜひ読んで欲しいな。

「今は補助的な使い方しかできないからいいけど、AIで長編小説が最初から最後まで完璧に生成できるようになったら、私もAI嫌いになるかも……」

 一部の小説書きまでこれかぁ。

 ツッコミが追いつかない。

 絵や小説やその他の創作物を『人間にしか生み出せない高尚なもの』って捉える考え方が根強いんだろうか。

 無名の私ごときが非公開かぎアカウントで意見したところで、誰にも届かない。公開して発信したらしたで叩かれそうだし、げんなりしてSNSの画面を閉じた。

 ――ほんと、一部のクソデカボイスの有名絵描きは、どんな意見だろうが大量の信者が賛同・扇動してくれるから楽でうらやましいわ。私みたいなアマチュアの小説書きなんて、ほぼ人権ないようなもんなのにね。

 つい醜い卑屈からの嫉妬が湧き上がってしまって、深いため息を吐き出す。

 確かに、新技術が世に出ると賛否は出るし、よくも悪くも大きい衝撃を受けるだろう。

 カメラや写真が発明された頃、風景画をメインに描いていた画家も。

 タイプライターやワープロが発明された頃、原稿用紙に小説を手書きしていた作家も。

 ただ、創作にも役立つ数々の文明の利器を作ってきたのも、また人間だ。

 個人の感覚でAIを嫌うのは仕方ないことだけど、それを創作に有効活用する人のことまでいちいち否定しないで欲しい。今までの日常生活でパソコンやスマートフォンやタブレットやアプリやソフトを一切使わずに創作してきた人なら、AI創作物を否定する権利があると思う。そんな人も、現代にはほぼ存在しないだろうけど。

 私は『自分の脳内にある世界を表現する』ために、小説って手段で創作しているだけだ。AIに完璧な世界を出力してもらえるなら、そのほうが断然いい。ぜひそのレベルまで進化して欲しい。

 AIの技術がすごすぎて嫉妬して悔しがる気持ちも、創作の原動力にはなる。創作物は必ずしも楽しい、明るい感情からだけ生まれるものじゃない。


 ――自分が本当に燃える・萌える作品は、自分にしか生み出せない!


 私は一次創作でも二次創作でも、そういう心意気で小説を書いてきた。たとえサッパリ見向きもされなくても、自分が楽しいから、生きた証として遺したいからって動機で。そこにAIを[[rb:道具>ツール]]として取り入れたところで、創りたいものも方向性も今までと変わらない。

 気を取り直してパソコンのテキストエディタに向き直って、キーを打ち始める。

 便利な道具たちを大事にしながら、今日も今日とて創作活動に励むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そこに愛-AI-はないのか 蒼樹里緒 @aokirio

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ