第8話 いつの間にか・・・・。

8話 いつの間にか・・・・。

 朝、まどろみの中ふと目が覚める。

 昨晩、何か非常に男子として、夢のような甘い時間を過ごした様な気がして、心が非常に満たされた状態での起床となった。

 暖かい、そう非常に心地の良い暖かさが胸の中にあるような、そんな感覚に真也はいつにもまして幸せな気持ちになっていた。

 ゆっくりと瞼を開くと、妙に頬の辺りがくすぐったくて、身じろぎしようとして、動けないというか固くて暖かいものが腕の中にある事に気が付き、え、ナニコレ、と思い視線を下に向けると、女の子が自分の腕の中でとても心地よさそうに寝息を立てていた。

「は?」

 ふと昨晩の夢を思い出す。

 そう、友香がお手洗いの後真也の布団に潜り込み、その髪や頬に触れて堪能してしまったという人さまには絶対に言えないような、妙に甘い夢・・・・ではないのだと、この現状が示していた。

 おまけに、男性は朝、とある部分が非常に本人の意思とは関係なく元気になってしまう習性があり、慌てて真也は意識を下半身に向けると、案の定そん状態で。

 や、ヤバい、非常にやばい、危険だ、これは明らかに人生終わるやつだ。

 焦るが、友香が両手で真也の胸元の服をギュッと、赤ん坊が握る様にしっかりと握っていたため、離れる事が全くできず、何でつかんでんだよぉ、その仕草が真也の心を揺さぶりつつ、だが今はそれどころじゃないと脳内がは警告音を鳴らし続けていた。

 おまけに、自分もまた、彼女を抱きかかえるように抱きしめているものだから、彼女と同じような状況であるともいえた。

「そーと、そう、そっと力を込めて手を。お、おう、すげぇ力だなオイ」

「うぅ~ん、うぅ??アレぇ」

 タイミングが良いのか悪いのか、友香が身じろぎをしたかと思うと、その瞼がゆっくりと開かれ、寝ぼけ眼が最初に真也の胸元をとらえ、次に頭が上へと向き、自然と至近距離でお互いを見つめあうような状況となっていた。

「おはようごじゃいましゅ」

「お、おはよう・・・その、手を・・・」

「あれ・・・・アレ! な、なんで!? 手・・・てぇ?!」

 言われて初めて、友香は自分が真也にしがみつく様にして彼の腕の中に居る事に気が付いた。

 なぜそうなったのか、自分でもわかっておらず、しかも大好きな彼の腕の中で起床など、恋する乙女にとっては夢にまで見たシチュエーション、なのではないだろうかと、もはや他人事のように状況を把握吸う一方で。ど、どうしよぉ。となっていた。

 昨晩自分が彼の寝床に無意識のうちに入ってしまい、その後、気が付いて、彼が寝た後にこっそり抜け出すか、朝早めに起きて、何食わぬ顔で朝食を作りながら、おはよう、と新妻のごとく挨拶出来たらなぁ、などと甘い考えを、いだいていたのがいけなかったのか。

 彼の腕の中は想像よりも気持ちが良くて、一度目が覚めたが、すぐにその温もりに負けてしまったのだった、

 慌てて、握ってた服を放し、ベットから起き上がり、真也と距離を取る。

 彼がなんかしたなどとは友香はみじんも思っていないが、それでも恥ずかしさから距離を取ってしまった。

 真也はといえば、なぜかベットから起きてこようとせず、布団から出ようとしない事に、友香はすぐに気が付き、顔が赤いままだったが、彼のかを見る、すると、あからさまに視線をそらされた。

「先輩、なんで今視線を外したんです?」

「気のせいだよ。それよりほら、顔でも洗って来たら?」

「・・・・なんで布団から出てこないんですか」

「さ、さぁ?」

 聞いてるのはこっちなんだけど、とは思った友香だったが、とも思ったのだが、ついこの間買った女性誌に、男性は朝勃起するから配慮が必要、大人の女性のマナーでありエチケットだとか見た気がして。

 まさかと思い、再度ベット上の真也に視線を戻し、何気ない動作で彼の足元へと視線をもっていこうとして。

自分でもわかるぐらい、顔が赤くなるのを感じ、恥ずかしいのと、見てみたいなどという微妙に変態チックな事が頭をよぎりつつも好奇心には逆らえず、視線がどんどんと下へと動いていく。

 それを真也が見逃すこともなく。

「さ、三条さん顔洗って来たら?」

「え、あ、はい!」

 流石に気が付かれた事に羞恥心を覚え、おそらく自分の頬や耳が真っ赤であろう事を自覚しつつ、慌てて洗面台のほうへと友香は姿を消した。

 や、ヤバかったぁと、色々な意味で危機を回避した真也は、静かに安堵のため息をこぼす。

 友香がどこに視線を向けようとしていたのかもわかったし、自分の状態がそれを見られると非常にまずい事も真也は理解し、とりあえず今のうちにとベット抜け出し、ドアを閉め、素早く制服に着替える。

 起きて数分もすれば男性の朝の元気くんはすっかりおとなしくなるので、制服を着替え終える事には落ち着いていた。

 真也は着替えを済ませ、リビングに出て、そのまま朝食の用意を始める。

 程なくして、友香が洗面所から姿を現し、そのまま、真也の部屋にはいろうとして振り返る。

 昨晩も見たが、やはり寝間着が可愛すぎる気がする。

「先輩。着替えるので」

「え、ああ、どうぞ」

「覗いてくれないんですか?」

「良いから着替えろ。あと、自分で言っておいて顔を赤くするな!」

 言われて友香は気が付いた、

 自分で発した言葉なのに、その顔はみるみる染まり、熱も自分で分かるほどに上がったことに。

「せ、先輩は少しは乗ってきてください」

 そう言ってとじられた自室のドアを見ながら、理性を保つのに必死なんだ、と涙目になりそうな目で切なげに見る事しか真也にはできなかった。

 



「なぁ、真也よぉ、お隣さんがムッチャ怖いんだけど」

「気のせいだ。気にするな」

 1限目の休み時間、話しかけに来た和也が、開口一番に真也にそうが、真也はと言えば、涼しい顔で無視を決め込んでいた。

 朝、投稿すると、すでに千春が席についており、ソワソワとしながら、チラチラと真也の様子を伺っており、さらにその目が微妙に血走っていた。

 何を考えているのか、なんとなく想像はできるが、今朝の一連の友香とのあれやこれやが思い起こされるため、全力で無視を決め込んでいた。

 仮にも幼馴染である、ちょっとした動作ですぐに何があったかぐらいはバレてしまう。

 その危惧が正しいのかは分からないが、少なくてもお隣の千春が朝からあまり機嫌が良くない事は見て取れた。

「そういや、佐藤さんのお母さんで良いのかさっきの?」

「え、ああ、はい。母がそのぉ、静流さんて人に会いたいらしくて」

 それを聞いた瞬間、嫌な予感がしたが、今のところ静流さんから強制連行などはされていないところを見ると、問題は起きていないのだろう。

「げ、静流ねぇさんか・・・かかわらんとこ」

「お前、ほんとあの人苦手だよなぁ」

 そこで千春はふと妙な事に気が付く、真也は和也があの司書を苦手だと言っているが、千春から見た感じ、苦手の部類がなんか違うような、そんな違和感を覚えた。

「ねぇ。シー君、それよりも昨晩何かあったぁ?」

 かまをかけるともりで、そう聞いたのだが、以外にも幼馴染の反応が良く、何かを思い出しているのか、微妙に耳が紅いのを千春は見逃さなかった。

「やっぱり友香ちゃんと何かあったんじゃん!」

「は? 友香って・・・確か真也に告白した娘だよな、どういう事?」

 そう言えば事情を話していなかったと、真也は和也を見て、すごく面倒くさいものを見る目になった。

 しかし、千春は構うことなく、爆弾を放り投げてきた。

「昨日、私がお母さんたちに連行されたから2人きりになったでしょ。泊ったんでしょ?」

「お、おいバカ」

 慌てて、止めようとしたが、時すでに遅く、千春の声が興奮していたためか、妙に大きく、クラス全体が今の一言で静寂に包まれた。

 あ、と思って千春はまずいという顔をしたが、すでにクラスメイト全員がこちらの動きを凝視している。

「ほほぉ~、告白されて。お友達からってぇ話だったはずだが。お泊りですかさっそく」

「おい悪友、お前事態を悪化させたいようだなぁ」

「いやだってなぁ。お友達(女子)が男の家にお泊りだぜ?」

 こいつ、後で覚えてろよぉ。

 真也は和也を睨みながら、原因を作った千春を見るが、これまた厄介な事に千春も何が気に入らないのか、怖い顔で真也を見ていた。

「シー君、昔から恥ずかしい事あると、耳の後ろ紅くする癖あるよね」

「知らんわそんな癖」

「まぁ見えないものねぇ・・・・で、ナニガあったの。そもそも私も泊まるはずだったのに」

「え、なに。ドユコト?」

 さらに静寂に包まれクラス、そのクラスメイトの視線は、うぉぉ、ナニコレ、面白そうという期待に満ちた目に変わり、こちらを伺っている」

 和也も、まさか千春が真也の自宅に転がり込んでいるなどとは思っていなかったのだろう、目を丸くし、何が起きてるのか詳しく、という感じで真也を見ていた。

 これは、変にごまかして変な噂を立てられるより、素直に話してしまおう、そう思い、真也は話すことにした。

 しばらく、クラス全員が誰一人口を開かず、真也の千春が自宅に転がり込んでから、友香が2人きりでは何かあるかもしれない、との事で泊まる事になった経緯までを、余計な誤解を生まない程度に短くして説明した。

「つまりアレか。計画性の無い幼馴染の尻拭いしてたら、思わぬラッキーが舞い込んできたと?」

「おまえ、話聞いてたか?」

「だってそうだろ。好きでって言ってくれた相手がお泊りだぞ。何もないわけないだろ」

「誓っていう何もない。それにこいつも居たし」

「私、昨日はお母さんに連行されたから、いなかったんだけど。あの後どうなったかを聞いてるの、私は!」

 何もなかったという事にしたかった真也だったが、千春は昨晩何かあったのではないかと疑ってやまず、詰め寄るように効いてくる。

「佐藤さん、どうしてそう思うんだい? 事情を聴く限り、君が帰ったなら、三条さんが真也の家にいる理由がもうなかったようにも思うけど」

 ナイス、和也、と親友をほめたたえる真也だったが、長い付き合いというのは厄介のもので、千春は首を横に振り。

「時刻も9時過ぎに、シー君が女の子を夜道一人歩かせて帰るとは思えないから、たぶん泊まってく流れになったと思う」

 どうしてこう、幼馴染というのは肝心な時に余計な事をぺらぺらというんだと、内心で泣きそうになる。

「へぇ、平塚君やるねぇ」

「宮下、いつから居た」

「可愛い図書委員会の後輩ちゃんが、2年のいけない先輩の毒牙にかかったかもしれないともなれば、聞かないわけにいかないからねぇ」

「ワクワクして、目を輝かせながらさも心配してますという風を装ってくるなよ!」

 真也は頭を抱えたい気分を押さえながら、いきなり現れた宮下 春野に苦言を申す。

「真也、諦めろ。もはや逃げ場はない」

「と、とりあえず泊めはした」

 それを言った瞬間、女性陣から黄色い声があがる。

 ヤバい、きゃぁ~、うわぁ、えそれってつまりぃ。

 などなど様々な声が行きかい、まさにお祭り状態である。

 女子というのは人の色恋が非常に好きらしく、こういった事案は特に彼女らの興味を引くのだ。

「それで、ナニガあったの?」

「チー、おまえ」

 妙につかかる幼馴染を睨みつけるが、それ以上に睨んでくるので、もはやため息しか出ない。

「い、一緒にご飯食べた後、おまえのごたごたのせいで部屋が荒らされたんて、片付けをしてたら11時近くなっちまったんだよ」

「えっとぉ・・・そうだっけ?」

「ほう、なるほど。そういう態度取るんか・・・・・あ、もしもし春奈さん」

「ちょっ、ナニシテンノ!」

 真也があまりに追及してくる幼馴染に、もう少しお灸でも据えてもらおうとスマホを出し、春奈に電話をかけ始めた。

 まさかそんな事をし始めるなどとは思っていなかった千春は、慌ててスマホを奪おうとするが、真也にかわされ続ける。

「おたくら、仲いいな」

「ただの幼馴染みなのかしらねぇ・・・恋人みたい」

 和也が呆れ、春野が疑いのまなざしを向けてくるのを、とりあえず無視しながら、2限目の先生が来たため、この騒動は一度お流れとなってくれた。 

 その後、休み時間のごとに追及を免れるため、逃げ回ったのは言うまでもない。




 放課後、自宅に帰ってきた真也は、ドット疲れた体をベットに投げ捨てる様に倒れ込んだ。

 ドスン、という音ともに、ほこりが舞うのと同時に、友香特有の匂いなのだろうか、あの甘い香りが鼻を付き、心を揺さぶる。

 完全に布団に匂いが付いてしまった。一度干さないとなぁと、思うものの、この安心する匂いを捨ててしまうのは酷く惜しい気がして、真也は悩むが、はたと気が付く、自分は今何を考えたんだと。

 ヤバいと思い、立ち上がる、すると立ち上がった足元に何か固いものがあったのだろう、転びそうになり、慌てて足元を見る。

 幸いにも踏んだものが硬かったのだろう、特に壊れたりしてないと確認はできたが、それは自分の持ち物ではなく、友香のものだという事にすぐに気が付いた。

 そこに落ちていたのは慌てて友香がふんだくった巾着袋で、真也としては気になっていたものだった。

 まだ彼女は帰ってきてはいない、というか、今日も泊まるのかどうなのかよくわからないが、今朝がた、泊まりの荷物を学校のカバンと一緒に持って、学校に行こうとしていたので真也が慌てて止めたのだ。

 流石にそんな大荷物もって学校に登校した日には、あらぬ誤解がたつと。

 そんなわけで、彼女の荷物はまだ真也のマンションにそのままである。

 おそらく今朝、着替えをしたときにでも落としたのだろう。

 悪いとは思いつつ、好奇心に勝てず巾着の口を開け、中のものを取り出す。

「うん、なんか見覚えが・・・」

 そこから筒状のソレが出てきて、真也はなんだこれかぁ、と思い次の瞬間固まった。

「は、はぁ?!」

 いやいやそんなわけないだろ、アレだぞあれ。なぜここにある、というか自分のじゃないよな?

 と慌てて、秘蔵場所を確認し、ある事に安堵するが、それは一瞬で、再び取り乱す。

「な、何かまだあるぞ」

 巾着袋の中、まだ何かあたる感触があり、それも取り出そうとして手を突っ込み、その形状を手で確かめた瞬間、分かってしまった。

 だが、万が一にもソレではないという事もあるだろう、そう思い、半分取り出したところで、またも見覚えのある、うるお・・、そこでそっと巾着袋に戻し、さらにさきほどの筒状の固いものに無色透明な液体の入った物もそっと戻し、巾着袋を、適当な場所に置いた。

 そして、自室に戻りベットに倒れ込んだ次の瞬間、狂ったように枕に頭を打ち付け始めた。

「う、うぉぉぉぉ、くぅぅ、うぉぉ」

 もはや言葉になっていない声で、真也は繰り返し頭を打ち続ける。

 え、ナニコレ、どういう事、彼女そのつもりで。いやでも、それならなぜ隠した。恥ずかしかったからいや違う、彼女の性格上それは無くはないが、なんか違う気がする。でもなぜ、何故なんだ!

 混乱する頭で必死に考えるが、答えを知っている人物はまだ帰ってこず、悶々とした気持ちで、真也はベットに横たわる。

 だいぶ暴れたせいで、先ほどよりも友香の香りが部屋に充満してしまい、そのせいで、今朝目覚めた時の友香の寝顔が脳裏をよぎる。

「くぅ、待て俺よ。好きだって言われて、意識し始めて、近くで無防備な姿を見たからほれちゃったなんて、マジで恥ずかしいぞこれ。いや、そもそも俺はまだほれてない・・・と思うけど何、え、何どうなってんの?!」

 自分の心情が全く分からず混乱の一途をたどる真也。

 胸に抱くこの締め付けられるような、切ないような伊東市異様な感覚には覚えがあり、それが恋であるとは流石に自分でもわかったが、そんな事があるものなのかと、どこかで自分の心境の変化を納得できない自分が居た。

 分からない、俺が彼女を・・・好きになったのか?

 誰からも答えはなく、ただ、体が熱を帯びるのを肌で感じながら、自分はどうしてしまったのだろうかと、天井を見上げなげる。

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