第4話 それぞれの想いと苦悩。

4話 それぞれの想いと苦悩。

 なぜこのような事になってしまったのか、真也はソファーを挟んで向かい合う女性2人を見ながら、深いため息をつきつつ、二人にお茶を出していた。

 友香の発言をまさか本気ではないだろうと、そう高をくくって甘くみていた真也だったが、あれよあれよという間に、ご両親への承諾があっさり終わり、なぜかだか、うちの娘をよろしくお願いしますね、と朗らかに挨拶を携帯越しでされ、慌ててまずいでしょと言ったら、娘の好きになった男性ですもの、信頼してますよ、と遠回しにくぎを刺された真也は、もはや逃げ場などなかった。

 幸いなことに、真也が住んでいる部屋は2LDKのそれなりに大きいマンションで、部屋アが1つと、リビング、キッチンもそれなりの広さ、でトイレ浴槽は別の学生が済むには少し贅沢な物件だが、この物件、平塚家の持ち物で、真也が暮らす前は別の方にお貸ししていたらしく、その収入もあったらしいのだが、真也が高校あがると同時に、この部屋に強制送還されたのだった、平塚家母曰く「男が炊事選択家事出来ません。の時代は終わったのよ! 一人暮らしすれば嫌でも覚えるわ。行け」最後は行けの一言で、家を真也は強制的に追い出されたのだった。

 なので、一様は一人暮らしではあるが、流石に3人寝るとなると、一人は寝室とは別の、リビングか台所での就寝となるが、どう考えても俺だよなぁ、と一人納得していた。

「あのぉ、三条さん本気なの?」

 再三確認はしているが、どうしても納得できな真也は、伺うように再度問いかける。

「いくら幼馴染でも、年頃の男女が、1対1で3日間も一緒なんて。飢えた野獣に、新鮮なお肉与えるのと同じぐらい、あっさりガブリンチョです」

 最近聞かないような、妙に古臭い言葉が出てきて、図書館通いはすごいなぁなどと真也は現実逃避を始めた。

「待って。いくら私でも、そんなん・・・襲うの?!」

「期待に満ちた顔で聞くんじゃねぇよ。お前ら親子は何考えとんだ!」

「なので、私もいれば、変な事にはならないと思うのですが」

「ごめん、なんか巻き込んだかも」

 流石に申し訳なさから、真也は友香に頭を下げるが、彼女は彼女で、はっきりと。「それに、納得いかないので」と言葉をつづけた。

 突然フッてわいてきた幼馴染が、意中の相手の部屋に泊るなどと、そら昨日勇気を出して告白したばかりの女の子としては、冗談ではない、となるのは当たり前だろう。

 そこで、真也のスマホにレインの通知が届いたので、何気なしに誰だこんな忙しいときにと、愚痴をこぼしながら開くと(おお、両手に花か? 避妊具は付けろよ男の子)静流からのありがたいお言葉だった。

 おそらく解釈はこうだろう、(両手に花とは良いご身分だなぁ。なんかあって見ろ、分かるよなぁ)という解釈であっているだろう、と思いそのまま返信をせずに放置した。

 というかなぜこの人はいつの間に俺のレインを知ったのかと思ったが、友香がごめんなさいと、誤ってきたので、おそらくそういう事なのだろう。

「あの、夕飯どうしますか?」

 友香のその一言により、夕飯の準備が女子二人で、華やかに行われようとして、真也は慌てて、千春の首根っこを摑まえた。

「ちょっと何するの!」

「お前はこっちだ。火事でも誘発するつもりか」

「わ、私だってここ数年で・・・・」

「勉強しかしてなかったのは、千里さんから聞いてるが?」

「何か問題なのですか?」

 真也と千春のやり取りに、特に疑問をもたず友香がそう聞いてきたので。

「三条さん。まともな夕食にならなくなるのを覚悟できるなら、こいつを台所に立たせてもいいけど」

「いえ、分かりましたなんとなく。私のお料理で良いですか?」

「むしろお願いしていいかな? お昼のお弁当美味しかったし」

「は、はい!」

 千春とのドタバタから永遠、友香はあまり感情を表には出していなかったが、ここに来て初めて、満面の笑みでそう答えたので、不意打ちの取り繕う事のない笑顔に、真也は心が揺らめく。

「恋人候補ね・・・」

 そんな二人の、仲睦まじそうな姿を見て、千春は独り言を二人に聞こえない声でつぶやいた。



 小さなテーブルには少し大きめのお皿に野菜炒めが乗っており、三人分のお茶碗などあるわけもなかったので、自然とお味噌汁の器と平べったいお皿にご飯を各自自分の目の前に置いて、何とも言えない食事となったが。

「うお、すげぇ。有り合わせなのに超うまい」

「ありがとうございます。ちょっと調味料とかもあべこべでしたが、なんとかなりましたぁ」

 見た目は特に何の変哲もない野菜炒めなのだが、出されたそれは、薄味のようで、しっかりとコクのあるような、そんな不思議な味なのだが、非常においしいものとなっていて、真也は、自分の家にある調味料でこんな味出せたか?と疑問に思いつつも、これもうでだろうと、美味しい野菜炒めに感動しながら箸をドンドン進める。

「おいしい」

 千春はと言えば、美味しいと言いつつ、幼馴染の満面の笑みと、友香の非常に嬉しそうな顔を見て、ナニコレ、私なんで、と妙な気持を抱きながら、渋い顔で非常においしい野菜炒めを食べていた。

「あの、お口に合いませんか?」

 流石に気になったのか、おずおずと友香が千春にそう聞くと。

「え、そんなことないよ。すごくおいしい」

「その割に渋い顔してたが?」

 流石に言いずらいだろうと思った真也は、友香のかわりにそういうと、自分でも気が付いていなかったのだろう、考えが顔に出ていたことに、うわぁやっちゃったぁ、と思いながら、美味しいよ、と再度言って作り笑いを浮かべる。

 流石にそれ以上追及するのは良くないと思ったのか、良かったですと言い、友香も納得する事にした。



 な、なにをやっているのよ、私はぁ。

 自身の行いに恥をかきながら、千春は自問自答していた。

 せっかく、3年ぶりに様々な無茶をして会いに来た、大好きだった人に、会う早々頬舌されるは、3年ぶりに会えばあったで、あまりにも様々なものが変わっていて、こんな見た目は普通だけど、小さくて可愛らしくて、おまけに料理もできて、私負けてる。

 で、でもあれよ、私昔告白されてるし・・・。

 そう思うのだが、自分のした取り返しのつかない失敗が頭をよぎり、泣きたい気持ちになり、さらに、目の前の美味しい料理が、あまりにもおいしくて、女子としての差を見せつけられているようで、自然と顔が歪んでしまっていた。

 自分でもダメだ、このままじゃこの娘に取られちゃう、という焦りがあるが、それを表には決して出せない。

 だってまだ、ここにこんな無茶してまで来たわけを、彼に何も言えてないのだから。



 夕食を済ませ、各々くつろぐ、といっても、2LDKなので、ほぼ大人の体格といっていい人間が3人も居れば、狭いとまではいかないが、自然と視界には入る。

 友香は、図書室から借りているのだろうか、本を読んでおり、千春は妙に居心地悪そうにしつつも、くつろいでおり、真也は、そろそろこれは聞かないといけないと思って、お茶を3人分入れつつ、小さなテーブルに向かう。

「三条さん、お茶だよ。チーも」

「ありがとうございます」

「あんがと」

 お茶に手を伸ばした千春の手を、真也はおもむろにつかんだ。

「え、何?!」

「そろそろ聞かせてもらおうかと思ってな」

 居たくないだろうか、それなりに力を込めて真也は千春の掴んだ腕を握った、

 その意図が分かったらしく、千春の顔が引きつる。

「あー、えっとぉ」

「流石に、言わない、言えない。この状況で通せないのは分かるよな?」

 そうは言ってみたものの、真也もわかっていた。

 千春が頑なに何か言わないときは、自分か、その聞いている相手が関わっている場合が多いと、なので、流石に長年の付き合いだ、ふと力を込めていた手を放した。

「え、あの・・・」

 追及は免れないし、話すまで離してはくれないと千春も思っていたが、真也があまりにあっさり掴んでいた手を離したので、拍子抜けしてしまった。

「三条さん。乗り掛かった舟だと思って悪いんだけど。このバカから事情聴きだしてもらえない? その間にお風呂掃除してくるから」

 言うが早いか、真也は友香の返答を待たず、早々にお風呂場へと向かってしまった。




 本を開いてみたはいい物の、好きな人の部屋に勢いで突入してしまったせいもあり、深々穏やかではない友香は、何でもないですよぉ、いつもどうりですよぉ、というようになる様にふるまってはいたが、そろそろ限界がぁ、と思っていた矢先、真也から、とんでもないお願いをされてしまった。

 自身のおそらくライバル、というか恋敵に事情を聴きだせと、いうが早いか、本人はお風呂掃除に向かってしまって、ロクに会話など成立などするのか怪し、と思いながら、意中の相手が頼ってくれたんだ、頑張らないと、と自身に言い聞かせ、静かに本を閉じる。

 特に変な動作をしたつもりはなかったのだが、その動作に、びくりと千春が身を震わせたのが見て取れた。

「あ、あのぉ」

 なるべく柔らかく、を意識して声をかけようとして、上ずった声になり失敗する。

「ひゃ、ひゃい!」

 整った顔が、慌てたように動揺し、友香を見る。

「先輩の事。好きなんですか?」

「は、はぁ?!」

 友香は思っていたことを、特にオブラートに包むことせず、直球で投げかけた。

 と言うのも、おそらく、回りくどく言うよりもストレートに聞いたほうが、この人は素直に話すのではないか、という女の勘という何とも自分で思っていても胡散臭いなぁと友香は思いながらも、直感を信じようと思った。

「私は好きですよ先輩の事」

 畳みかける様に、自分でもなんでこんな事と思わなくもない勢いで、友香は千春にそう言っていた。

「な、なんでそんな事恥ずかしげもなく言えるのよ!」

「アナタのせいですよ。好きだから戻ってきたんじゃないですか。詳しい事は知りませんが、静流さんが動いてる感じだと、相当無茶苦茶したみたいですね」

 棘のある言い方だなぁと、自分でもわかるぐらい、嫌な言い方をした友香だが、事実なので隠す必要も、ましてや恋敵に塩を送る真似などしたくもないと、どこかで思ってしまっていたからこそ出た言葉ともいえた。

「わ、私は。大切なものを取り戻したいの!じゃ、邪魔しないで」

 その大切なものが何を指しているのか、友香にはわからないし、二人に過去に何かあったのだという事は理解できるが、だからと言って、邪魔をしているわけでもなければ、邪魔をするつもりもないが、友香自身が真也を好きな事で邪魔になるというのであれば、はいそうですか、と言って譲るつもりはない。

「邪魔ですか。私は、先輩を愛しています。何なら今日抱かれたって良い」

「は、はぁ?! な、何言ってる・・・ば、バカじゃないの?」

「冗談を言っているように見えますか?」

 普段の大人しそうで、生真面目そうな見た目からは終ぞ出てこなそうな言葉が放たれ、あまりの無い様に千春は言葉を失った。




 掃除中、少し念入りにお風呂でも掃除して時間でも稼ごう、そう思った矢先だった。

(なんでそんな事、恥ずかしげもなく言えるの!)

 千春の動揺した声が風呂場まで届く。

 おうおう動揺してるなぁ、と思いつつも離れてさほど間を置かずに聞こえてきた言葉だったので、三条さんすげぇなぁ、などと思って再度、彼女に感謝しつつ、この分ならうまく聞き出してくれるだろうし、この声量ならおそらく理由ぐらい聞き取れるだろう。

(私は、大切なものを取り戻したいの、邪魔しないで)

 どうやらある程度口論になってるらしく、千春の声が風呂場にまで届く。

 大切なもんねぇ。と思いながら昔を思い出し、懐かしんでいたら。

(邪魔ですか。私は、先輩を愛しています。何なら今日抱かれたって良い)

 ぶふぅ、ゲホゲホ。は、はぁ?!

 な、何言っちゃってんの三条さん。

 あまりの発言に、いつすぐにでも出て行ってツッコミでも入れてやりたい、そんな気分と同時に、おいおいおい、勘弁してくれこの後風呂入って就寝だぞ。

 俺の健全な男子高校生だよ、そりゃぁ、あんな清楚そうな大人しい・・・って何考えてんだ!

 ふと自分が風呂場にいる事に気が付き、冷水のシャワーを思わず頭からぶっかけた。

 もちろんそんな事をすれば、流石に声が大きいとはいえ、二人の会話など聞こえるわけがない。

 だが、この後アホなことしないためにも、これ以上の爆弾発言を聞かないためにも、俺にはこうするしかないのだと、妙に残念な気持ちになりつつ、シャワーを頭からかぶる羽目となったのだった。



 な、なんなのこの娘。だ、抱かれる覚悟があるですって!?

 あまりの思いがけない発言に、頭が混乱し、自分がなぜ真也のもとにやってきたのか忘れそうになる。

 そりゃぁ、真也と最終的にはそうなりたいなぁと。そのために身を削り、一秒でも早く日本に帰って誰にも迷惑かけない様に。そして私が真也を養って、二人でイチャイチャするんだ。

 などと計画していたのに、実際に戻ってきてみれば、真也に彼女候補がいるわ、両親には事の次第がバレるわ、真也にはよそよそしくされるわ。

 踏んだり蹴ったりである。

 確かに、自分でも悪い部分はかなりあったと思う、3年前真也に告白された時に、そのまま素直に大好き、忘れない、絶対に戻ってくるから、その時は結婚しよう。

 これぐらいのことが言えていたなら、まずこんな事にはなっていなかっただろうし、少なくても真也に彼女候補などというものができていなかった、と思いたい。

 だが、現実は、私は真也の告白から逃げ、突き飛ばし、その衝撃で真也は気絶、話を聞く限り、私が外国に旅立って2日は寝ていたらしいので、私から何か伝える時間などなくなってしまったし、自分でそれを放棄してしまった。

 もちろん、昨今携帯電話スマートフォンの普及が盛んで、国際電話も昔ほど出なないらしいぐらいの価格だと聞いていた。

 何度も、そう、何度も掛けようとした。

 でも、自分の意気地の無さにほとほと呆れるぐらい、電話をしようとすると、動機で手が震え、足が震え、歯の上下が痙攣してカチカチと音を鳴らし、とてもではないが電話などできるわけもなかった。

 なんでそんなにも体が拒絶するのか、最初は分からなかった。

 でも、次第に自分は怖いのだと気が付いた。

 彼を突き飛ばし、あまつさえ一番大切なところで、言葉ではなく、行動で、しかも気絶させたなんて、違うの、アレは違うの、私はあなたのこと好きなの。

 どれだけ言葉を重ねても恐らくは信用されないだろう、そう思った。

 だから、必死に勉強して、足元を固めて、彼に会った時に、自分はあなたのために必死に頑張ってきた。こんなに愛しているの! そういうつもりだったが、結果は御覧のとうり。

 どれだけ頭を良くしようと、どれだけ愛していようと、詰めの甘さと、自分のふがいなさから結局ぼろが出たり、失敗すると。

 目の前の自分よりも小柄な女の子。

 はた目から見ても、特に美人というわけでもなく、だからと言って不細工というわけでもない、いたってどこにでもいそうな、平凡な娘。

 でも今、そんな娘に自分が負けそうになっているんだと、心ではなく体が訴えかけていた。

 負けられない、重い女だと思う、地雷女かもしれない私は、それでも、間違ってしまって、自分の手にあった大切なものを、取り戻いたい、そう思ったら、怖いけど、また頑張れると思えた。



 なんでだろう、自分でも不思議な気分だった。

 お昼前、静流さんから、お弁当を頼まれた時から、なんとなく、真也さんが居る気がしていた。

 そこからは、本当に夢のような時間で、お話しできるのがすごく楽しくて、ずっとこのままで居たい、そう思っていた。

 昨日告白をして、了承されたわけではないけど、それでも、一歩ずっと見ていて、好きだった彼に近づくことができた。

 彼がこの学校に行ったことは、私にとっては朗報だった、だってここには、明確に愛する人に、その要件だよと呼び出すだけで伝わる方法があったからだ。

 2年前、彼に初めて出会い、助けられた時、その時にできてしまった思いを、同じ学校だったのに、彼が卒業するまでの1年間、結局何もできなかったことも、昨日はじめて報われたと、そう思った。

 なのに、幸せな時間は1日ともたなかった。

 幼馴染だという目の前の女、容姿も良い、頭なんて、おそらく聞く限りでは私の日ではないのだろう、おまけに、彼と彼女の間には、近しい幼馴染とは違った、そんな空気感すらあるときがある。

 まるで、長年連れ添った老夫婦のような、お互いがお互いを、どの程度までならば扱っても問題ない、そんな家族かそれ以上の信頼関係を。

 それを垣間見た瞬間、負けられないと思ってしまって、気が付いたら自分は彼の家に押し掛ける様にして、泊まることを了承させていた。

 普段の自分ならあり得ないだろう、友達に遊びに行こうなどと誘うのだって一苦労なのに、それが気が付けば意中の人のお家で、挙句の果てには、自分でも信じられないことを口走っていた。

 覚悟なんてない、先輩に乱暴されるのも嫌だ。

 でも、そんな事よりも、目の前のこの人にだけは、先輩は渡せないと、強く思ってしまっていたら、気が付けば、自分の口から、普段では言えないようなことまで言っていた。

 お母さんから、女は度胸と根性と、押し倒すときの清楚さが大切、などと言いながら、この2年、応援してくれていて、先程も、事情を瞬時に察してなのか、即許可を出してくれていた。

 もちろんお父さんが聞いたら、全力で引きずられるように連れ戻されただろうけど、今はそれはない、だから、目の前の美人にも色々な意味で戦う勇気をもらってる気がしていた。

 まだ、私の恋は始まったばかりなんだもの、こんなところで終われない。



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