第14話 生活

 外に出ると、澄んだ青空が雲間から顔を出していた。

 大きく息を吐き出して、姉の部屋の扉近くの壁に寄りかかる。寄りかかっていると、なんとなく中の物音や振動が伝わってくる。水音らしきものはしなくなっていた。

 もしかしたら、シャワーから上がったのかもしれない。

 目を軽く閉じると、体中に疲れが満ちており、頭の中も熱を持っているように感じる。

 たくさんのことが短時間に起き過ぎた。


 異世界からやってきた男、リアム。

 リアムの想い人、ショウコさん。

 

 ため息をひとつつく。

 これからどうしようと考える。

 夏緒が思い悩んでも仕方がないことなのだが、すでに夏緒はリアムを自分の生活の勘定に含めていた。

 いつまで彼がいるかはわからない。わからないが、当面の生活をここでするとして、何にどのくらい掛かるだろう。

 夏緒には両親や姉の残したものがあり、不労所得が毎月入ってくる。とはいえ、夏緒ひとりが贅沢しなければなんとかなる、という程度のレベルのものだ。ほんの数日ならいいが、そううまくいくだろうか。

 それに、自分はともかく、リアムが働ける場所はあるか。免許証はおろか、身分証になるもの一つなく、この世界のどこにも、国籍すらない。

 携帯電話の契約ひとつできない。

 夏緒はため息——というよりもただ、大きくゆっくり息を吐いた。

 気持ちを落ち着かせるために。


 考えよう。できることはゼロではないはずだ。


 その時、思ったより大きな音と共に、姉の部屋の扉が開いた。

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