第29話 空白
「…君!ライト君!大丈夫か!?」
俺はグラさんの声に意識が少しずつ戻っていく。
目を覚ました俺を見てグラさんはほっと胸を撫で下ろす
「だから言ったであろう。身体に異常はないと」
帽子をかぶったアレスが壁にもたれかかり俺とグラさんの様子を見ていた
「あやつに何もされておらんか?」
「…いや、何も思い出せない。そもそも本当に俺は乗っ取られたのか?」
「あぁ、一瞬だけ乗っ取ることが出来たがすぐに解除したぞ」
「…本当じゃろうな?本当に何もしてないな?」
「くどいぞ。実際こうやって小僧は無事に意識を覚ましたでは無いか。私の邪魔になるようならばすぐさま消したが今のところはそんな様子は無い。小僧を手にかける必要など最初からないのだ」
アレスははぁとため息をつき、格好を整える
「それよりも貴様は魔王軍の動向について聞きたかったのでは無いのか?教えてやる」
「貴様も知っているだろうが私以外の魔王軍幹部が総入れ替えされた。新幹部は前回の幹部よりも遥かに強い。一体どこからそんな人材を連れてきたのか私にも分からないがな。」
「お主ならそういうのも読み取れるのでは無いのか?」
「私の能力はそんな万能では無いのだ。実力がある者は乗っ取ることが出来ない。新幹部も誰とも出会っていない。魔王を乗っ取れていたらもうとっくに乗っ取っているしな。故に新幹部の能力等は把握出来ていない。だが、関係があるかどうかは分からないがそいつらの二つ名は『ヨジジュクゴ』を使われている」
ヨジジュクゴとは黒髪の冒険者たちが広めた言葉だ。カンジというものはよく分からないが聞こえがかっこいいものが多い
そのため一時期冒険者内でも2つ名をヨジジュクゴにする者もいた
「そしてそんな実力のあるものたちを集めて今行おうとしているのは魔神の復活だ」
「魔神じゃと?」
「あぁ。ざっくりとしか聞いていないがこの世界のどこかにある新樹。あれを見つけ出し大量のマナを魔力に変換しはるか昔絶滅した魔神を蘇生させるとのことだ」
「…それは無理じゃろ。魔王とて新樹から溢れ出す膨大な魔力は受け止めきれんじゃろ」
「魔王は無理だ。だが魔王の娘ならそれが可能であろう?アレの能力はよく分からんから不気味でしかない」
「確かに話は色々繋がった。しかし新樹を見つけ出すってのは一番最初の絶壁過ぎないか?」
「そこだ。私にすら聞かされていない重大な秘密があるのかもしれん。わかり次第呼び出す」
「…今更じゃがなぜ急にそんなに手を貸す?こちらとしては助かることこの上ないが」
「なに、面白いものを見せてくれた礼だ」
アレスのダンジョンからグラさんのダンジョンに戻ってきた
「あやつは何を考えているのかわからんが動きに一貫性はある。だから急に手を貸すとなるとやはりライト君の心の中で何かを見たんじゃろうか?」
「俺の心の中で何かを見た?」
もしかするとラミーユについて見られただろうか
…それはかなりまずいな…
あの一件の被害はかなり大きくラミーユと俺が生き残れたのも奇跡だったとしか言いようがない
それほど残酷な事件を他の人に知られるのはかなり厄介なことになる
「…?ライトくん?大丈夫か?」
「あ、あぁ悪いグラさん。今日もいつも通り修行頼むよ」
「そうか?無理だけはするんじゃないぞ」
場所は変わり暗闇に包まれた森林の中、真っ黒なフードを被った2人組がいた。
1人はエティカ・フロリア。彼女の綺麗な髪は隠れてしまい、遠目で見るだけでは誰か判断できない。
もう1人はフードを目深まで被りエティカと向き合っている。長身の男で猫背になっており不気味な雰囲気だ
「随分身勝手な行動をするではないですか…エティカ様…?」
「…唯一の弟子との最後になるかもしれない会話だ。許してくれよ」
「あの方の許可は得ましたか?このことは予めあの方にお伝えいたしましたか?」
「…悪かったよ。本当にこれで最後だ。あいつにも言っておくさ」
男が醸し出す奇妙な雰囲気に気圧されたエティカは軽く頭を下げる
「…あの方は寛大です。貴方様がこちら側に着くつというのであれば多少の粗相は許されます。良かったですね、私であればたとえ貴方様であろうと首を切り落としていますから」
「…ちっ」
魔力量や技術では間違いなくエティカの方が格上。実力がある者は対峙するだけで相手の実力が大体わかる
しかしこの男は異様な空気を垂れ流しており魔力が読めず、気怠そうな猫背のせいで立ち居振る舞いが読めない
以前共に居た男もエティカとは比べ物にならないくらい弱いがエティカより優れている点が確実にある
「では戻るとしましょうか。貴方様の席はもう決まっておりますので詳しいことはあのお方から直接お聞きください」
「あぁ」
エティカは少し悲しげな顔を遥か先のとある町に向けていたが、男が指を鳴らすと消えてしまった
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