第28話 第1席

「ふむ、魔王軍が今何をしているのか。確かに最近裏で大きな動きを見せている。だが魔王軍関係者ではなくなった貴様に教える価値があるのか?」

「何?」

「私は人間は確かに素晴らしい生き物と考えている。我らの種族は人間たちの感情がご飯であるが別にそもそも腹は空かんしどれほど食べても満腹にもならん。私たちは一部を除いて3大欲求がないのだよ」

「つまり人間はどうなっても構わないと?」

「まぁそういうことになる。そもそも魔王軍幹部とは人間の敵だ。貴様らは昔から裏切っていたようだかなぁ?」

アレスは挑発的な笑顔をグラさんに向ける

しかしそれにグラさんはため息で答える

「お主とはなんだかんだ長い仲じゃ。こんな茶番やめようか」

「え?茶番?」

「こやつ、先程人間はどうなってもいいと言っていたがそんなことは無い。こやつの夢は人間がいないと達成できんからなぁ」

「忘れていると思っていたがさすがに覚えていたか。種族的に人間が必要ないのは嘘では無いが私の考えだけで我らが種族全員巻き込む訳にはいかないのだ。」

あれっ意外とまとも

「私の夢は簡単。より強い体が欲しいのだ」

アレスは指を鳴らし椅子をどこからか出現させた。

「まぁ座れ。話は長いのだ。…言っていなかったが私の種族は悪魔。人類なんかよりは圧倒的な上位存在だ。しかし最近この国ではチカチカと眩しい厄介な存在がウロウロしているようでな。我々悪魔と対等に戦える存在なんぞそこのグランディータとかチカチカしてる奴らだけなのだ。そいつらは大した力もないが我らの弱点、神聖なる魔法を使ってくる」

チカチカ眩しいやつ…?

いやそれよりも

「話の腰折って悪いんだが魔法?魔術じゃなくてか?」

「む?なんだ小僧。グランディータのそばで魔術を学んでおりながら魔法と魔術の違いも知らんのか」

「そもそもワシですら使いこなすのにかなり時間が必要じゃったしまだ早いじゃろ」

「ふむ。まぁ確かに見た感じ小僧はまだまだ未熟だな。しかし、知識として持っておく必要はあるだろう。教えてやる」

アレスはどこから話始めるか…と腕を組む

「魔法と魔術は根本的には一緒だ。だが魔法は魔術の上位のものとして扱われている。その理由としては遥か古代では魔術ではなく魔法を使われていて、御伽噺でも出てくる魔法使いという存在がいた。遥か古代では魔法使いこそ人間、それ以外は家畜のようなもの。そんな認識の時代があった。その時代の言う魔法使い以外というのは現代の魔術師となる。魔法と魔術では適応力や火力が段違いなのだ。しかし遥か古代、全ての魔法使いを束ねていた1人の人間。魔導王と呼ばれる者が何者かによって殺された。上に立つものを失った魔法使いたちはどうすることも出来ず、家畜のようなものと罵っていた魔術師達に蹴散らされた。しかし魔法が無くなった訳では無い。気が遠くなる程の古代から生きる神々やそれらと争いあってきた我々悪魔。あとはそこの古代マニアであるグランディータは使えるのだ。私の知る限り魔法を習得できたのはそういった上位存在のみ。しかし古代の魔法使いは元は人間と聞く。教えてくれる師がいないだけで人間でも覚えられるはずだ」

「結構情報が入った気がするけどだいたいわかった、話をさえぎって悪かった」

俺の言葉にアレスは構わんと答えると先程の話の続きをし始めた

「どこまで話したか…そうだ。あの忌々しい神々は我々悪魔の弱点である神聖魔法を使うという話だったな。神聖魔法はアンデッドや我々悪魔にしか効かん。例えば人間は基本的に無効化される。そのため私は思いついた。私を倒すことの出来る人間はそれは相当鍛え上げているであろう。私はその屈強な体を乗っ取り、憎き神々を打ち倒すのだ。この悪魔の体ももちろん気に入っているが神々の前では枷でしかないからな。」

「こやつ本当は次期魔王になれるくらいには実力も頭脳もあるんじゃが神を倒すためにそんなものは不必要と断っておるんじゃ。」

「当然だ。神々と我々悪魔の大戦争だ。下等種族が入り込む話では無いのだ。しかし、貴様なら連れて行ってやってもいいぞ」

「お断りじゃよ。ワシは魔の道を進むだけじゃ」

よくよく考えたら悪魔ってのは神々と敵対する存在だ。上位存在であるリッチもすごいんだが悪魔とは比べ物にならない。そもそも魔王の下についている存在でもない

「そういえば体を乗っ取るって言っていたがどうやるんだ?死に際にそんなことできるのか?」

「あぁ。簡単だ。何故ならば…」

アレスは自分の帽子を取り、俺に被せた

「こうするだけだからな。」

アレスの声を聞きながら俺は意識が遠くなるのを感じ…


見渡す限りが真っ白な空間。

…師匠が定期連絡をしてくれる時に来る場所じゃないか。

そういえば最近師匠から連絡が来ない。昨日来る前に言ってくれればよかったんだけど

報告できないくらい焦っていたんだろうか?

「ふむ。平然としているがここに来たことがあるのか?確かにこぞう以外の誰かがここに来た形跡がある」

いつもは姿の見えない師匠とは違い声の主であるアレスは直ぐに姿を現した

優雅に真っ白な表紙の本を読んでいた

…?持ってこれるのだろうか?

「あぁすまない。これは小僧の記憶が記される本。勝手に読ませてもらったぞ」

「俺の記憶?」

「あぁ、ここは貴様の心の中。この表現が1番近い場所だ。私が本気で体を乗っ取る際には対象のここで大事な記憶を抜き取ることで主導権を私に移すことができる。今の貴様は私を倒せる存在では無いからそんなことはしないぞ。安心しろ」

安心しろと言われても安心できるわけが無い

「軽く貴様の記憶を読んだがまさかあの魔女の弟子とはな…。なるほど、そういうことか。興味が湧いたのでもう少し読んでみようと思うんだが、貴様の嫌な記憶はなんだ?」

俺の嫌な記憶…

「…無い。」

俺がそう答えるも突然白い空間の一部分が赤く光り出す。

「この空間は全てが本で出来ている。要は脳内と同じだ。嫌な記憶、幸せな記憶。どんな記憶でも人間は脳内で分別する。悪いが読ませてもらうぞ。貴様に眠る嫌な過去」

アレスがその赤い部分をまるで本棚から本を取り出すように引っ張る。真っ赤な本をアレスが持つ

「おいバカやめろ!」

俺はアレスを止めるために掛けだそうと…

「悪いな。この空間に何度か入ったことがあるくらいではこの空間の掌握は私の方が上だ。練度が違う」

真っ白な手がどこからが生え俺の体を掴んでくる

俺が振り払おうとするもまるで読んでいるかのように、生まれた隙をついて次から次へと手が増え掴んでくる

俺は叫んでしかアレスを止めることが出来ない。

そんな俺を見向きもせずにアレスは赤い本を読み続ける

パラパラとページが進みパタンと本を閉じる音が虚しく響いた

本を先程取りだしたところに綺麗に戻すとアレスの肩が揺れる

次第にクックックッと笑い声が聞こえてくるようになり、それはどんどん大きくなる

「クハハハハハ!面白い!面白いぞ小僧!貴様、ラミーユという小娘とずいぶん面白い出会い方をしているな!?貴様の記憶を読むにあの小娘の力は絶大!頭の弱さが気になるところではあるが私が人格を乗っ取ることが出来れば問題ない!

クハハハハハ!これはいい拾い物をした!グランディータには感謝せねばなぁ?」

最悪だ。テトラにも見せなかったラミーユの過去がアレスという悪魔に見られてしまった。

「悪魔の私ですら考えつかない、そう、まるで悪魔の所業!クハハハ!安心しろ小僧、この記憶を見た事は貴様は忘れる!私は忘れんがなぁ!

私はあの小娘の体を手に入れ憎き神々を殺す!

それまで何も知らずに生きていくがいいわ!」

アレスの高笑いを聞きながらまたもや意識が遠くなるのを感じ…

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