第22話 エティカ・フロリアとの出会い
「エティカさんなら魔王城で魔王と話していましたよ。全身黒ローブで」
「ちょっと待って?なにそれ初耳」
「見間違いの可能性があるので確信がなくて報告とかしてませんでしたけど、あの魔力量は間違いなくご本人でしょう」
この中でも種族的にも魔力を感知しやすいマリーの言葉。信じ難い話だが信じる他ない
「魔王が引き込んだか、あるいはエティカから魔王になにかあったのか。どちらかじゃろうな。」
あやつが魔王側につく、あるいは魔王の力を借りるとなるときっと目的はあれか。だが今の魔王軍にそんな力があったか…?
「とりあえずエティカについてはワシらの中で秘密じゃ。決してライトくんの耳に入らないように細心の注意を払うぞ」
「師匠が魔王軍側にいるのはさすがに凹むしね」
「もちろんです。」
ワシははぁと1つ溜息をつき、かつて争いあった魔女を思い出す
エティカ…お主、何を考えておるんじゃ?
~数百年前~
ワシは魔王軍幹部の1人という立場がありながらも魔王城の結界の維持以外まともに魔王軍として働いていなかった
それもそのはず、魔王軍のやり方が気に入らなかった。
なぜ全てを蹂躙してしまうのか。なぜ魔王軍がこの世界全てを手に入れるのか。
魔王軍としては当然というのはわかっているしワシの方がむしろ異端というのもわかっている
だが、この世界の全てを手に入れる魔王軍は気に入らない。この世界は未知があるからこそ楽しい
未知を既知にするのはワシとしては賛成。むしろ全力で力を貸したい。
しかし未知を未知のままとして世界を手に入れ分からずじまいなのはよくない
ワシは魔王城の屋根に寝転がる
そもそもこの世界の中心にある魔力の元と言われる木。あれがどこにあるかとか。神とやらは本当にいるのかとか。数え始めればキリがないほどこの世界には未知がある
それに、最近黒髪の人間が強力な武器を持ってどこからか現れて魔王軍と敵対していると聞く。
聞いたこともなく、おとぎ話にすら出てこないめちゃくちゃな性能をした武器だそうだ
魔力を放てば何百もの敵を倒すことができるようになる杖とか、持ち主の身体能力を最大限どころか限界を突破させることの出来る剣とか
「魔王軍なんかよりも人間側にいた方が面白そうではあるのう」
「そんなこと言ったら魔王様に叱られますよ?」
「そうよ。アンタの魔術強すぎて魔王も腫れ物扱いされてるじゃないの。」
ワシは声がする方を寝転んだまま確認する
「おぉここがよくわかったのぅ。」
マリーとノーラが気づけばワシのことを遠巻きに見ていたようだった
2人は魔王軍の同僚であると同時にワシの仲間だったりする
「仕事よ、なんか魔王城付近に超強い冒険者が現れたようなの。」
「第3席、第9席、第10席が対応に入ったようですが通信が途絶えたみたいです。恐らく倒されたのでしょう」
「ほぉ?何百年も倒されてこなかった幹部が次々とやられているのを見るに結構やるようじゃのぅ」
「さすがに焦った魔王も私たちを動かすことにしたみたいね」
「第1席なら余裕でしょうがあの方はちゃんと働くか怪しいので…」
「あやつとは1度対峙してみたがなんで魔王軍幹部なんかしておるんじゃろうな、そもそもこんなところで居座ってていい存在では無いじゃろ」
ワシは体を起こし親指と人差し指で輪っかを作りそれをのぞき込む
遠視魔術 千里眼が発動され、魔王城から少し離れたところにその冒険者らしき一行が見える
「5人のパーティーで、見た感じだと…」
先頭にいるのは男の剣士だろうか。見たこともない剣を携えていて、なんと言っても黒髪。あれが噂になっている冒険者か?
その後ろに赤い髪の派手な女。1本の杖を持っており、相当な魔力がこの距離なのに視える。
「ほう?」
ワシは異空間に収納している杖を取りだす
「先に行くからお主らは少ししたら来い。」
それだけ伝え魔王城から大きく飛ぶ
不意打ちとかそんな面白くないことは一切しない。そもそも何人も魔王軍幹部を倒している実力者にそれが通用するとは思わない。
だから、ここはやはり真正面から潰す。
ワシは冒険者5人の前に砂埃をたてながら着地する
「ワシは魔王軍幹部第4
赤い髪の派手な女は驚いた様子を見せるもすぐにニヤリと笑った
「次から次へと幹部がきやがって…いいぞ、その勝負受けてやる。もちろんほかの仲間には手を出さないよな?」
「もちろんじゃ。なんならお主が負けたりしても殺したりはせん、お主には魔王軍に入ってもらう」
「ふっ、なら私が勝ったらお前、人類側につけよ」
正直それも面白そうとは思ったが、こうやって対面してみてようやくわかった。この女の魔力は底知れない。しかも異常なまでに濃く、リッチになったワシなんかよりも魔女の名が似合う
「お主、名は?」
「エティカ・フロリア」
「そうか、ではエティカ、ワシのことはグラとでも呼んでくれ」
「…えーっと…なにこれ」
エティカとの戦いが始まり、氷と炎のぶつけあいがおこって数分後、マリーを連れてようやく来たノーラの一言がそれだった
ワシは地面にぶっ倒れているが、エティカは息を切らしているぐらいで両足で地面を踏み立っている
結果は見ての通りエティカの圧勝。氷と炎という相性があったとはいえもし使う属性が逆だったとしてもワシはエティカには勝てなかった。
それほどまでにエティカには魔力を繊細に操る技量、魔力容量、そして華があった
「おおやっと来たか2人とも。いやぁこてんぱんにされてしまってのぅ。他の幹部が負けるわけじゃ。」
魔王軍幹部はそれぞれ席として番号が振られているが番号が小さいほど強い。しかしそれぞれワシとは違う方向性で厄介であり、決して弱くはない。だがまるで雑魚のように倒されていった理由がよくわかった。
このエティカという魔女はかなり強い。
しかもさっきから成り行きを眺めている黒髪の男も振る舞いからして相当強い。
なるほど、こやつらが勇者なんじゃろうな。
「ノーラ、マリー。ワシは人類に加担しようと思うがどうする?魔王軍は研究の素材提供してくれるから残るが」
すると2人は見つめ合い、マリーはクスリと笑いノーラは呆れたように肩を竦めた
「そんなの決まってるじゃない」
ノーラはワシに手を伸ばす。ワシはその手を握り動かない体に鞭打って無理やり体を起こす
「どこにでもついて行くわよ。もしそれが茨の道でも」
「私たちの中はそういうルールがありますから」
「ま、そんなわけで魔王城の中にいる雑魚はワシたちに任せろ。お主たちは幹部と魔王だけに集中しろ」
「それは助かるが、バレたりしても大丈夫か?私が言い出したことなんだが人間に危害を加えないだけでも良かったんだが」
「ワシら元々人間に危害加えたことないからのう。魔王軍もいつか近いうちに抜ける。ワシは人類の味方じゃからな」
なっはっはと笑っているとエティカもふっと笑みをこぼす
「グラ、私たちが魔王に勝って無事帰ることが出来たら私の元に来い。また勝負しよう」
「おおそうか?ならそうさせてもらおう、次は勝つ。お主に勝つのはワシだけでいい」
エティカが魔王城に向かうのを見送りワシはその場に座る
「随分仲良くなったじゃない。本気であの人たちが魔王を倒せるの?」
「もちろんじゃ。あやつら全員ワシより強いし」
「え?回復職もいなかった?」
「あやつどうやらマリーと同じものを使えるようじゃよ。回復職だからと侮っていたら軽く始末されてしまうぞ」
マリーのスキルの1つにどんな相手も消し去ることの出来るものがある。マリーの固有スキルだと思っていたが…
「まぁワシが認めたんじゃしそれくらいはしてくれんとな」
ワシ達は魔王城に戻りなるべくバレないように雑魚を狩り続けた
そして、エティカ達は何日もの接戦の末魔王を倒して見せた
「嘘…」
「なっはっはっは、ほら言ったじゃろ。あやつらは強い」
ワシは少し誇らしげに笑った
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