第8話 強者

「よし、全員揃ってるな」

最近、突然現れたダンジョンの探索、それが今回俺たちが受けるクエストだ

探索がミッションであるため完全攻略を最終目的としていない。

レンはそこそこ場数を踏んでるしラミーユは滅多なことがない限りはやられない。しかしアンナと俺は大丈夫と言いきれない。

素直に経験が足りてないため今回のダンジョン探索は無理のないレベルで終わらせ、情報を持ってギルドに帰る。これが今回の最終目的だ

「おう、準備は出来てるぜ。しっかり守ってやる」

レンは昨日よりもしっかりした装備を纏っている。未探索のダンジョンに乗り込むのだから当然か。

「ん、後ろは任せて欲しい。ライトもライトの友達もみんな守る」

ラミーユは昨日と装備は変わらないがそもそも盗賊というのは気配を消して相手の背後に回り、確実に仕留める役職だ。軽い装備の方がガチャガチャと音はならないし動きやすいのだろう

…実際ずっとこの装備でクエストに挑んでるのだがすり傷ずらしたことがない。

こいつは間違いなく、人間の領域内にいるが人間を遥かに超える化け物だ

「わ、私は回復以外できないけど、それだけは頑張るからっ…!」

アンナは初クエストということもあり、先程から杖を握る手が震えている

そういえばアンナは俺より誕生日が3ヶ月ほど早いわけだがなぜクエストに出向かなかったのだろうか

「…ライト、平気そう、なんで?」

ラミーユはアンナの背中を撫でながら不思議そうに俺を見てきた

「平気ってわけじゃないけど、前のダンジョン探索とは違って今回はひとりじゃないからな」

「言ってくれるじゃねぇか!援護よろしく頼むぞ、親友?」

「ライトは私が守る。私の命に変えてでも」

「ライトにそこまで言われたら私もしっかりしないとね…」

アンナもいつの間にか手の震えが止まっていた

「それじゃあ…行くか!」


中に入ってみると、なにかの魔法だろうか一斉に松明に火がつき薄暗かった洞窟を地面まで照らしてくれる

「何だこのダンジョン、普通ならこんな灯りがつくことなんてありえないぞ」

レンが不審そうに言う

ダンジョンに住みつくようなモンスターは暗視ができるため灯りなんて必要が無い

「灯りが必要なモンスターがいるってことか?それともこのダンジョンの主が暗視できないのか」

不気味な雰囲気があり正直この時点でもう既に帰りたい

「ねぇそもそもこの松明、普通の火じゃないわ。火に見えるだけで熱とか感じないわよ」

それなら火で照らしてると言うよりは灯り用の光…?

普通のダンジョンとは全然違うな

「どうする?これだけでも異質なダンジョンってちゃんとした報告になる訳だが…一旦引き返すか?」

「いや、もう少し進もう。本当にやばくなったらその時は引き返す」


モンスターに出くわすことはなく下へ下へと進んでいく

明らかにおかしい、一体もモンスターがいないのはどう考えてもありえない

見逃してる可能性、偶然モンスターがいないルートを通っている可能性があるか?いいやそれは無い。なんてったってこのダンジョン、ずっと一本道なのだ。

まっすぐ進むと階段がありそれを下るとまた一本道。それを突き当たりまで進むとまた階段と言った感じでモンスターが1匹でもいるなら確実に遭遇する。

一応、油断させてから一気に叩いてくるモンスターもいるので後ろもラミーユに警戒してもらっているが今のところそんな気配は無い。

「普通の洞穴…という可能性もないよな、それなら入った時の松明なんて必要ないし」

そんなこんなで地下6階くらいまで降りた時、明らかにまわりで漂う魔力の質が変わった

大きな鉄の扉があり、明らかにこのダンジョンの主がいる雰囲気だ

「どうする?明らかに魔力が濃い。この扉の向こうにヤバいやつがいるだろ」

「そ、そうだな、一旦引き返すか」

「いや、無理、帰れない」

ラミーユが若干声を震わせながら答えた

どういうことだと振り返ると

「あれ、階段が無い…?」

「ごめん、一瞬目を逸らしたらもう既に階段が…」

階段がさっきまであったところはさも最初からそうだったかのように壁になっていた

「ごめん、私の失態…ごめん」

ラミーユが謝るがこいつの一瞬は本当の一瞬、瞬き1回くらいの速さだ。実際1番慎重にダンジョン探索してたこいつを誰も責めれない

「べつに階段が無くなる瞬間をラミーユが見れてたとしても誰も間に合わなかったから気にすんな。まず外に出ることを考えよう」

「ん、ありがとう」

とは言ったものの、この流れ的に外に出る方法はこの扉の奥にいるダンジョンの主を倒す以外無いよなぁ…

「うわ…本当に壁になってるじゃないの…」

アンナがぺたぺたと触りながら確認している

「これはまじでこの扉の奥のやつと戦う必要があるのか…」

最初のクエストがこれは…しんどいな

「このダンジョンの主が社交的なアンデッドとかだといいな」

俺たちは扉を開けた


扉を開けるとそこは大きな一室だった。洞穴のように地面を掘っただけのようなダンジョンの中にあるのにも関わらずここは氷の空間になっており、そもそも地下のためかなり冷える

氷の空間が広がる奥には大きな玉座が。

そしてそこに足を組んでふんぞりがえっている黒装束を纏った者。

「よくぞ参った人間よ、妾のダンジョンへようこそ」

フードで顔は見えないが声色的に女か…?

それともそう聞こえるだけか

「ライト、下がって」

俺を庇うように短剣を構えたラミーユが立つ

「おや、そこの盗賊、お主だけはちと手強そうじゃ。これは久々に少し本気を出す必要があるかのう

このダンジョンの主は自分の黒装束に手をかけばっと脱ぎ捨てた

黒髪ショートで綺麗な女性だった

銀色のドレスを纏っており胸元は大きく開いている、そこから覗く大きな胸にはホクロがあり…

「…ってアンタ、グラさん!?」

「…む?…おお!ライト君ではないか!」

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