冒険2〜愛の聖女セレス〜
「アリスぅーーーッ!!!何か危機的な状況になったのかい!?お兄ちゃん今帰ったよーーーーー!!」
妹のアリスからのSOSを受けアークは急いで帰宅する。
「あっ!よかった!お兄ちゃんおかえりなさい!早く!ちょっといいから…早くこっちに来てよーーー!!」
アリスは慌てた様子で兄を客間のドアの前にへと連れて行く。彼女の顔の表情からも察するに、何かトラブルに巻き込まれている最中であることがわかる。
アークが客間のドアの隙間から部屋の中を覗くと、そこには1人の女性が美味しそうに、クッキーを食べながらコーヒーを飲んでいた。
「あっ!僕のクッキー!!まあそれはいいか…アリス、僕の知らない人みたいだけど…、アリスの友達…でもなさそうだね。その様子からすると……」
アークが彼女にそう尋ねると、アリスは困った様子で語り始める。
「うーん、何かね、お兄ちゃんに会うためにわざわざ遠くからやって来たみたいなのよ〜。何かさっきから変なことばっかり言ってるし、正直困っていたところなのよ。まっ!とりあえず話を聞いてみて!」
アークが客間に入ると、その女性は笑顔で彼に話しかけてくる。
「うふふ、あなたは愛を信じますか?あなたに愛する人がいますか?」
突然のこの言葉にアークは激しく動揺する。
「えっ?ええええ!?突然なんですか?もしかして宗教の勧誘とかですか?あの、ウチそういうのは結構です…はい……すみません」
「うふふ、こちらこそ突然の訪問すみませんでしたわ♪申し遅れました、ワタクシは愛の聖女セレス・ホーリーホワイトと申しますわ!本日はある『使命』を受け、遥々こうしてあなた様のもとにやって参りましたの…」
セレス・ホーリーホワイトと名乗るこの女性は、パッと見た感じアークよりも少し年上であり、上品で丁寧な喋り方からも、その育ちの良さが伺える。またその見た目も大変美しく、アークも思わず見惚れてしまいそうであった。
「お兄ちゃん、何見惚れてんのよ!このバカ〜!!」
〈ぎゅ~~~!〉
「イテテッ!アリス!急につねることないだろっ!!ったく…す、すみません!イヤ、本当に暴力的な妹でして…あはははは……で、その、…ご用件は?」
「うふふ、ご兄妹ホントに仲が良いんですね!ああ!愛おしい!羨ましい!本当にステキですわ!…オホン、では早速本題の方に入らせていただきます。単刀直入に申しますわ。このワタクシと魔王復活を阻止するため、一緒に旅をしていただきます!!もちろん拒否権なんてありません…なぜならこれは『運命』だからですわーーーーーっ!!!」
「う、運命…?ちょっと言ってることがよく分からないのですが……」
アークは戸惑いを隠せない様子である。その一方で妹のアリスは、この彼女の発言に対して激怒する。
「はぁッ!?ちょっとアンタね!さっきから黙って聞いてれば、なに勝手なことばかり言ってるのよ!お兄ちゃん、こんな変な人の相手をするのはもうやめましょっ!!」
「アリスさま、…少し黙っていてもらえませんか?ワタクシはアナタのお兄さまに言っているのですよ?その、申し上げにくいのですが、アナタは今回の使命に選ばれておりませんので……ね?」
「キーーーッ!!!なによこの女!ホント失礼しちゃう!お兄ちゃ~ん!もうこんな『クレイジーで性格の悪い電波女』なんてさっさと追い出しちゃいましょうよーーー!!」
この言葉を聞いた瞬間、穏やかな様子だったセレスから殺気が溢れだした。それ感じ取ったアークは、急いで彼女を止めようとしたが時すでに遅し…
〈ゴス……ッ!!〉
重々しい音と共にアリスは白目をむき、そのまま床に崩れ落ちた。セレスの杖による強烈な打撃が彼女の腹に炸裂したのだった。
「わ、わあーーーっ!ア、アリスーーーーーッ!!!」
アークは急いで妹の元へ駆けつけると彼女を抱き抱える。
「ウフフ、すみません♪ちょっとドタマに来てしまったので、その…少しお仕置させていただきましたわ!エヘッ☆」
セレスは舌をペロっと出しながらお茶目に笑って見せた。アークは少しゾッとしながらも、気絶したアリスを寝室のベッドに寝かせる。そして再び彼女の元へと向かった。
「セレスさん、ちょっと手荒過ぎませんか?あんな子でも、僕の大切な妹なんですよ…」
「あああああっ!尊おいっ!なんて美しい兄妹愛ですのおおおうっ!見てるこっちがなんだか『イケナイ気持ち』になってしまいそうですわ……ッ!ハァハァハァ…ウフフウ〜……っでお返事は?遠慮はいりませんよ、さあワタクシと一緒に…救世の旅へと参りましょう……!!あああっ!イイッ!きっと…、きっと愛に溢れた素晴らしい旅になりますわよ〜〜〜〜〜!!!!!」
(えっ!?コワ……)
セレスは恍惚な笑みを浮かべ、歓喜の声を上げながら彼に迫る。アークはこの凄まじい彼女の勢いにただ圧倒されるばかりだった。しかし退屈な生活にウンザリしていたアークにとって、この旅への誘いは「とても魅力的なモノ」だった。…彼の答えはもう最初から決まっていたのだ。
「セレスさん、僕…あなたといっしょ……」
「あーーーっ!そう言ってくださると思っておりましたわあっ!流石は伝説の勇者アークライトの血を引くお方ですわ〜〜〜!!」
「えっ!?…僕まだ、いやオッケイするつもりでしたけど……」
「そうと決まればゴソゴソ、ヨイショ!ヨイショ!うーーー重いですわ〜〜〜!!…ハイ!これを受け取ってくださいまし~っ!!!」
セレスは、背中に背負っていた大きな袋から一振りの剣を取り出すと、アークに渡した。
「えっ!?コレって、もしかして……」
「うふふ、そう!そのもしかして、です!!これが伝説の勇者の剣『アークキャリバー』ですわ〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
この瞬間アークは、己の中に流れる勇者の血の騒ぎを感じた。そして己の使命を、魔王の復活を阻止し、この世界に平和をもたらすことを……っ!!!
「……セレスさん、僕、やります…やってやりますよ!伝説の勇者の血を引く新たな勇者として!!平和のために、この世界のために……僕は戦います!!!」
「きゃああああ!ステキ!ステキですわ〜!あああああ、もうっ!抱かれたイイイイッ!ですわァァァああん!!…ではもうこんな時間ですので、今日はこのままアークさんのおウチでお世話になりますわ〜♪」
(んっ?今「聖女らしからぬ危険なワード」が聞こえたような……多分気のせいだよね、うん)
「ところでなんでセレスさんが伝説の勇者の剣を?勇者の血を引く僕の家に、本来あるべき物なのにね…」
「えっ?あ〜!それはですね、ワタクシのご先祖様であり、伝説の勇者アークライトさまと共に魔王と戦った大聖女セレスティアさまが『借りパク』したからですわ〜〜〜!それではワタクシ、お風呂をお借りしますわね〜!!」
「えっ?ええええええええ〜っ!?か、借りパクって…伝説の勇者の剣をッ!?ちょっと、ちょっと詳しくその話を……」
「ウフフ、それでは一緒にお風呂で愛を深め合いながらお話し、…しましょうか~?」
「~~~ッ!?もう!からかわないでくださいよっ!!!」
「だいじょーぶ!ですわ。ワタクシはこれからもずっと、ず~~~っとアークさまのお仲間ですから♪焦らずじ〜〜〜っくりと愛を深めて参りましょう……ね?ではでは〜」
そう言い残すとセレスは風呂場へ行ってしまった。
「もう〜マイペースな人だな〜。てか何で僕ん家の風呂の場所がわかったのかな?…あっ!『ハートのシール』が貼ってあるシャンプーは使わないでくださいよ〜〜〜!アリス専用なんで〜!少しでも使うとめっちゃ怒るんで〜〜〜!!」
「ごめん遊ばせ〜今たっぷりと使ってる最中ですわ〜〜〜〜〜っ!!!!!」
「…チクショウ!!!」
こうして今、アークの運命が大きく動き出すのであった!!
アークの波乱に満ちた世界を救う大冒険が始まろうとしていた…。
「ちょっとおおおうッ!?アンタなに、『最高級アリスちゃん専用シャンプー』使ってるのよ〜〜〜〜〜!お兄ちゃんもなんで止めてくれなかったの!?もう夕飯抜きいっ!!このバカーーーーーーーッ!!!」
「トホホ…」(つづく)
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