第4話

 短い会話を終えた後、二人は混み合う駅構内より外へ足を進めた。

 この間、二人の間に会話は無く、不自然で居心地の悪い静寂で満たされた。

 しかしながら、二人は目的地であるラブホテルに到着すると途端に会話を始めた。もっとも、この会話の内容というのは友好によって担保された会話ではない。これは性欲によって担保された会話であった。したがって、二人間の話題と言えば専ら衝動的な性欲を収めるための淫らな行為について話題だけであり、他の日常的な会話は一切挟まれなかった。

 性的な私情しか挟まない会話と男子生徒二人がラブホテルに入るというのは、いささか不健全であり、反社会的である。公序良俗に反する二人の関係は、あらゆる社会に属する責任ある存在が阻止すべきものであり、特に行為を行う場をひと時の間貸す者に妨げられなければならない。

 ただし、行為を金銭のやり取りによって行う淫らな二人も自らが反社会的な言動をしていることは承知している。したがって、二人は自らの行為を正当化できる場所、つまり社会的な制約を無しに乱れる場所を知っていた。そこが今現在、二人が嬉々とした目で見上げるラブホテルであった。

 LEDをネオンチックに仕立て上げた電灯に飾られる色目かしい看板と、はがれかかった外壁、薄らと黒ずんだ窓ガラス、大都市の中でも錆びれたラブホテルを二人は息を飲んで望む。もちろん、この息というのはラブホテル全体が纏う退廃的な色彩に緊張したために飲んだ者ではない。最も衝動的な性欲の発散を今すぐにでもしたいという本能に従った行為である。

 ラブホテルを眺めるのを止め、二人とも急ぐ足を理性によって何とか平常に保ちながらフロントに向かう。刑務所の面会室だと思えるほど寂し気なフロントは、性欲を持て余す二人にとっては注目の対象とはなり得ない。したがって、二人は足早に受付を済まし、コース選択をし、部屋の鍵を受け取ると徐々に赤らむ体に汗ばみながらエレベーターに乗る。

 閉じられた空間の中で、二人が会話を交えることは無い。ただ二人はスマホをいじり、互いに互いを興味ないと言わんばかりの他人行儀な姿勢をとる。

 錆びついたエレベーターの扉がぎこちなく開くと、二人は駆け足で部屋に向かう。二人の頭の中は、濃密な快楽への欲求で満ちており、その他の理性的な発想の一切は排除されている。このため、先ほどでは貴い知性を感じられる二人の聡明な雰囲気の一切は失われている。

 高校生からすればかなりの大金を支払って、二人は快楽の部屋にたどり着く。

 内装はいたって普通のラブホテル、つまるところダブルベッドとシャワールーム、TVが設置された一般的な設備が設置された部屋ということである。

 過去数回お世話になっている部屋に着くや否や、二人は熱いキスを交わす。舌を絡ませて、唾液を交換し、互いの歯茎をなぞり合う甘い接吻を交わす。互いの髪をくしゃくしゃにしながら、一分一秒でもこの甘い享楽を受容しようとする。そして、二人はベッドに倒れ、汗ばむ体と赤熱する情欲をぶつけ合う。

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