第8話 幕間、森の中の悪巧み
ルットフォルツ市郊外、城壁より外の森の中。普通の人間であれば、暗闇と獣を恐れておいそれとは近付かぬ深い場所。
そこに、数人の男達がいた。
皆、逞しい男達だ。装いはそれぞれだが、共通しているのは踵に黄金拍車を備えている事か。
その内の一人、髭面の騎士の手には剣があった。大振りの、両手で振る為の剣───
髭面の騎士は両手大剣を振り上げると、力一杯に振るった。その鋼の刃が音を立てて空を切り、岩に当たってまた音を立てた。
「やっぱり勿体ねぇよな」
その様子を見て、一人がそう呟いた。
岩に当たった剣は、刃毀れしている。当然の事だ。髭面の騎士はそれを承知で、剣を何度も岩に叩き付ける。火花を散らして、両手大剣あっという間にボロボロになっていく。
これは素振りですらない。単純に、剣を破壊するだけの行為である。
剣の造りは良い。一兵卒が持つには過分な代物である。それをただ破壊する行為に、何の意味があるのか。
「なに。この仕事が上手くいけば、もっといい剣が買えらぁ……よっと!」
森の中、鉄が岩を叩く音が響き渡る。
それもこれも、仕事の為だ。
平和なこの時代、騎士が食っていくには武力の売り方を選んではいられない。手は選べない。
彼らが良からぬ事を企んでいるのは、その下卑た表情から明らかだ。
「そういや今朝方、妙な奴が街に入ったが……そいつは大丈夫か?」
顔に大きな傷を持った騎士が、焚き火で何か食べ物を焼きながらそう言った。それを聞いて、二人の騎士が苦々しい顔をした。
「あの野郎、今度会ったらぶち殺してくれる」
「一発で負けたくせに、よく言うわ」
一人は恨み言を口にし、もう一人は呆れた様子だ。
何にせよ、腕の立つ騎士がいるというのは聞き捨てならない。その騎士が領主に協力する事があれば、彼らにとっては厄介だ。
「その騎士、名前は何と言った?」
髭面の騎士が、剣を壊しながら尋ねる。すると、一人の騎士───馬車を襲い、蹴り倒された騎士が、吐き捨てるようにその名を口にした。
「ゴットブランド。ゴットブランド・ベンデルリーンだ」
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