【完結】とっても可愛い女の子たちは俺のアレを握らないと安心して眠れないそうです……。そのさん【俺のアレ】プラスシチュエーション。

「……ねえ、真奈美ちゃん、ひとつ聞いてもいいかな?」


 俺、赤星拓也あかぼしたくや理由わけあって週末だけ女装を命ぜられていた。


 お嬢様女子校と名高い君更津南女子、通称、南女なんじょの美少女四天王のトップツー、二宮真奈美、広瀬沙織、その二人が一堂に会しただけでもトップニュースだと自称南女のゴシップガール、森田千穂ちゃんも興奮を抑えきれない様子だ……。


 妹の未祐もその成り行きを黙って見守っている。その姿を見て確信した。

 俺が女装を命ぜられたもう一つの理由を!!


「ええ、塔子とうこちゃん、何でも聞いてね、真奈美の分かる範囲で答えるから……」


 塔子ちゃんとは女装した俺がとっさに考えた名前だ。拓也と名乗って混乱させてもいけないからな、それに真奈美はまったく気が付いていないようだし……。


「さっきの話で真奈美ちゃんは半月もお外に出ていないと言っていたけど、学校にも行けてないの?」


 ……単刀直入に質問をぶつけてみた。


 愛犬ショコラを失った悲しみからは回復しつつあるように見えるが、彼女はまだ君更津南女子に通えていないはずだ。妹の未祐からは聞かされていないが、俺の部屋の窓から見える真奈美の部屋のカーテンはずっと閉じられたままだ。まるで彼女の気持ちを表すように……。


「……え、ええ、まだ女子校には通えてないの」


 真奈美の表情に暗い影が射したのを俺は見落とさなかった。


 未祐と千穂ちゃんの話では、先日ハンバーガーショップで偶然に彼女と会ったと言っていた。その後に未祐の機転でペットショップに真奈美を連れ出して、過去のトラウマの解消する切っ掛けになったんだ、そうだ、ウチの愛犬チーズともそこで出会えたんだよな……。


 プライベートでは外出が可能なまでに回復してきた彼女が、どうして学校には行けないのか? それについては思いあたるふしがある。

 以前、中学時代に何気なく真奈美と話していた会話が思い出された。


『真奈美、お前はいいよな、学園一の美人で、その上、才女でさ、俺と違って友だちも多くて毎日が充実している感じでとっても羨ましいよ……』


 その会話の意味には別に他意はなく、俺は当時の真奈美がとても羨ましく思えていたから、つい本音が出てしまったんだ……。


 俺の投げかけた言葉に対して真奈美の答えは意外な物だった。


『ホントはね、そんなことないんだよ、拓也君、真奈美も疲れちゃうときが結構あるんだよ……』


 真奈美は中学生のころから常にトップでいることを周りからも期待されていたんじゃないのだろうか!? その重圧プレッシャーがどれほどかは陰キャの俺にはとても想像できない……。


 そして家族同然だった愛犬のショコラを失った悲しみをたんにして、優等生である自分を保てなくなってしまったんだ。


 不登校の生徒を支援するNPO法人を取り上げた記事を読んだことがあるが学校に限らず、一日休んだだけでは復帰にはそれ程の労力はかからないそうだ。だけど日数が経つにつれ、休んだ日数の何倍もリカバリーに掛かる労力は必要になると言っていた。自分の中に蓄積するおりのように、言われてもいない周りからの非難を感じて不登校が長期化するそうだ。


 真奈美はきっとその沼に落ちて抜け出せない状態なんじゃないのか……!!

 何か俺に力に慣れることはないのだろうか?


「……塔子ちゃん、真奈美ちゃん、こっちを見て!!」


 これまで沈黙を守ってきた未祐が突然、口を開いた。

 あっけに取られて視線を向けたその先には!?


 こ、この状況はっ!!


「……制服ファッションショーの開幕だよ!!」


 俺と真奈美が会話を交わしている間に、未祐たちアニメ同好会の三人は制服ファッションショーの準備をしていたのか!?


 うなげやグループのご令嬢、森田千穂ちゃん尽力により集められた有名な学生服メーカー、その制服を着用したファッションショーが開催されたんだ。


 いきなり六畳間で始まったプログラムに俺は驚かされた、スマホから流れる軽快な音楽と共に登場したのは……。


「沙織さん! それに千穂ちゃん!?」


 二人が手を繋ぎながらヨガマットを利用した短いランウェイに登場する。


「……この制服は!?」


 ブルゾン風のジャケットは男女差の無いデザイン、スカートも選べるが、男女兼用のスラックスは身体のラインが出にくいタイプ。

 これならユニセックスに対応出来、性差関係なく着用出来そうだ。


 未祐が壇上に見立てたベッドの上から俺たちに語りかける。


「今まで、既存の制服を窮屈に感じていた人も多いと思います!! これからは自分の好きな組み合わせを選びましょう、そう、制服だけではなく人生も同じです。私たちはまだ二十年も生きていません。時には苦難にぶつかって立ち止まることもあります。だけど前を向いて生きていきましょう、その姿をきっと誰かが見守ってくれているはずです。そこの可愛いギャラリー君のように……」



「キュウウン……」


 未祐の指さした先には我が家の愛犬チーズが居た。まるで今の話が分かるかのように、小首を傾げて愛くるしい姿を見せてくれた。


「……チーズ君!! その仕草は!? ショコラと同じだ。 いつも真奈美が語りかけるとまんまるなお目々で私の顔を覗き込んでくれたよね、しっぽをピコピコ振りながら!!」


 チーズを見つめる彼女の頬にほんのりと赤みが戻ってきた。

 この表情は!? 子供のころにあの裏山で俺たち兄妹に見せてくれたとびきり明るい笑顔だ!!


 おままごとの獣医さんごっこで、ショコラが患者さん役で真奈美はトリマーさんの役。よくショコラをトリミング台に見立てた箱の上に乗せてブラッシングしていたな。穏やかに流れる情景を懐かしく思い出した……。


「……塔子ちゃん、未祐からのお願い、最後の舞台演出を頼んでもいい?」


 未祐の言葉の意味を瞬時に理解した。もう鈍い難聴系の主人公じゃないぞ。

 今の俺はS級美少女の赤星塔子ちゃんなのだから……。


「未祐ちゃん、分かったよ。 ……真奈美ちゃん、制服ファッションショーの大トリはあなたしかいないんだ、さあ、これを着て!!」


「えっ、ええっ!? 塔子ちゃん、この制服は!!」


 俺がハンガーから手に取った制服とは……。


「そうだよ、君更津南女子、南女の制服。真奈美ちゃんが一番良く似合うからぜひこの場で着て欲しいの!!」


「……私に一番似合うって!?」


「おおっ!! 我が南女のセーラー服か。私もぜひ見てみたいものだ。真奈美さんが学内で着ている姿は可憐な花のようでいつも心の安らぎになっていたからな……」


「ええっ!? もしかしてだけどぉ、ひ、広瀬部長のお相手って二宮真奈美さんだったのぉ!! これは大大大スクープだよぉ!! 超絶に百合的な意味で!! はっ!? こうしてはいられないわ、模写をしなけりゃ駄目、くんずほくれつする二つの百合の花弁を貝合せするお姿をっ!! は、捗るうううう♡」


「はっはっはっ!! 森田、早合点するな、勝手に私が真奈美さんを心の拠り所にしていただけだ、決してそのような乱れた関係ではないぞ。たおやかな百合の花のような姿を私は遠くから眺めているだけでいいんだ。手折ってはいけない花もあるからな」


 何だかカオスな状況になってきたな。でも今はこの二人にとても救われる気分だ。


「……真奈美ちゃん、未祐からもお願い、早くこの制服に袖を通してみて!!」


「そうですよ真奈美さん、美少女四天王を格をこのぽっと出の小娘に見せつけてやって下さい!!」


「こらこら、千穂ちゃん、誰がぽっと出の小娘だ!? 俺は小息子こむすこだぞ!!」


 ああっ!? しまったああああっ!! 千穂ちゃんにつられてつい自分の正体を口走ってしまった……。


「……と、塔子ちゃんって!?」


 真奈美がわなわなと肩を震わした。完全に男バレしてしまったようだ。

 最後の詰めが甘かったな。せっかくの感動が台無しだ。俺は昔からいつでもこうだ。未祐からも良く叱られたっけ……。


「……」


 真奈美が無言で俺に近寄ってくる。そしてまじまじと顔を覗き込んできた。

 年貢の納め時だ……。観念してこうべを垂れる。


 ぎゅっ♡


 な、何だこの柔らかな感触は!? 


 懐かしい甘い香りに包まれる。真奈美が手にした制服ごと俺を抱きしめてくれたんだ。


「……この南女の制服、もう一度着てみるよ。拓也くんが一生懸命心配してくれたから」


 耳元でささやく彼女の声に驚いた。男バレどころか俺って見抜かれてたのぉ!?


「……ま、真奈美っ!! お前は分かっていたのか!? 俺が女装をしていたことを」


「拓也君、私が何年、幼馴染をしていると思ってるの? これからもそれは変わらないんだから!!」


「……真奈美、お前はやっぱり俺の最高の幼馴染だな」


「もう私は迷わないから、拓也くんも未祐ちゃんも安心して!!」


 顔を上げた真奈美の表情はとても晴れやかに見えた。


「ワンワン!!」


「あっ、ごめんね、チーズ君。これは親愛の証なの、未祐ちゃんから拓也君を取っちゃうわけじゃないのよ。心配しているのかな?」


「……まったくチーズはショコラに劣らず女の子のボディーガード役なんだな。もう未祐を守ってくれているのか、頼むから俺のに噛みつかないでくれよ」


「塔子ちゃん、じゃなかった。拓也お兄ちゃん気を付けてね。ビションフリーゼのチーズ君はトイプードルのショコラより犬種的に負けん気が強いそうだから。一度噛みついたらしっぽを千切れるまで離さないかもよ!!」


「えええっ!? 未祐、それは困るよぉ!! 俺のしっぽが絶体絶命の危機になっちゃう……」


「……拓也君、未祐ちゃん、しっぽっていったい何の話!? 真奈美にも教えてよ!!」


 俺と未祐の話に真奈美が反応して来た。本当にしっぽ事件のことは記憶から消えてしまったんだな……。ちょっと惜しい気がするけどこれでいいんだ。俺には大切な未祐がいるから。もう悲しませることは絶対にしない。


「お取込み中、すまんな。ここでアニメ同好会部長として提案したいことがある。我が部は慢性的な部員不足に悩まされている、そこでだ、二宮真奈美さんが良ければぜひ入部してはくれないか。それなら女子高にも通いやすくなるだろうし……」


 沙織さんからの提案は本当にグッドアイディアだった。不登校期間が長い真奈美に負担を掛けずに学校に復帰する手助けも出来る。それにアニメ同好会で一緒に活動出来れば一石二鳥だろう。


「そ、それは本当に千穂も希望します!! 我がアニメ同好会に美少女四天王の二人が揃うなんて!? 本当に夢みたい、生きてて良かったぁ!!」


 森田千穂ちゃんも神フォーの二人がそろい踏みとあってめちゃくちゃテンションが上がっている。


「……そ、それは嬉しいけど、私が入部なんてしていいのかな?」


「真奈美ちゃん、何言ってるの!? 未祐も大歓迎だよ。一緒に部活動が出来るなんて、昔みたいだよね!! 文化祭に向けて頑張ろうよ」


「未祐ちゃん、私と一緒でも平気なの?」


「当たり前だよ、真!!」


「……ありがとう未祐ちゃん、私、アニメ同好会に入部します!!」


「「「やったあああっ!!」」」


 女の子の歓声が重なった。


「ウ~、ワンワン!!」


 声に驚いてチーズが吠えだした。勢いよくビションフリッツを始める。


「あああっ!? 駄目だよチーズ君!! 制服の上に上がらないでぇ!!」


「ワンワン!!」


 一気に部屋が騒がしくなる。これからも俺のまわりはもっと騒がしいだろうな……。


 真奈美には言わなかったが、俺は無意識に亡くなった母親の名前を口にしていたんだ。


 未祐が俺に向かってウインクをした。やっぱりあいつだけは気が付いているな。


 塔子とうことは俺の亡き母親の名前だから。


 この制服ファッションショーで救われたのは何も真奈美だけじゃないな……。俺も未祐には感謝しなければならない。


「拓也お兄ちゃん、チーズ君がそっちに行ったから捕まえて!! ああっ!? しっぽは掴まないで、そうそう、身体を優しく持ち上げてあげるの……」



 ありがとう、未祐、これからも末永くよろしくな……。




 【俺のアレ】プラスシチュエーション


 おしまい。



 ─────────────────────── 



 ☆★★作者からの御礼とお願い☆★☆


 最新話をお読み頂き、誠にありがとうございました。


 少しでも面白かったと感じて頂けましたら、最後に星評価の★★★を押してやってください。


 作者の今後の励みとして大変嬉しく受け取らせて頂きます。


 プラスシチュエーションはこれにていったん終了です。


 もしも好評だったら続きもあるかも知れません、アニメ同好会の文化祭とかありますし。


 ご意見のコメントも大歓迎です!! プラスシチュエーションで、こんな話が見てみたいとかありましたらぜひコメント欄からどうぞ。


 では今後ともお付き合いのほどよろしくお願い致しますm(__)m 


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可愛い幼馴染は俺のアレを握らないと安心して眠れないそうです……。~俺の〇〇〇は片想いの彼女にとって安眠グッズがわりだと!?~ kazuchi @kazuchi

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