とっても可愛い女の子たちは俺のアレを握らないと安心して眠れないそうです……。そのに【俺のアレ】プラスシチュエーション。

「……本日は制服ファッションショーにお招きに預かり光栄に存じます」


「ええっ!! 特別審査員って、まさかの……」


 俺は部屋に入って来た人物の顔を見て腰を抜かさんばかりに驚いてしまった。

 妹の未祐に連れられて部屋に現れたのは幼馴染の二宮真奈美にのみやまなみだった。 


「ま、真奈美っ、お前がどうして!?」


「えっ、ごめんなさい、未祐ちゃんのお友達さん? はじめまして……。ですよね」


 ……彼女の表情に戸惑いの色が浮かぶ。


 しまった!? 自分の恰好を忘れていた、今の俺は女装でS級美少女に変身している最中なんだ。この様子じゃあ真奈美は今回の経緯を何も知らされていないな……。


 未祐の奴め、一体何を考えて制服ファッションショーに彼女を審査員として呼んだんだ。絶対に裏があるに違いない。


 まあいい、今回は思惑に乗っかってやるとするか……。


「ああっ、ごめんなさいっ!! 私ったら取り乱して名前を呼び捨てにして!? 君更津南女子校の美少女四天王、その中核を担う二宮真奈美さんが急に目の前に現れて思わず舞い上がってしまいました……」


 可愛い声色を使うのも忘れずに、俺はその場でフル土下座の恰好になった。


「えっ!? そんなに謝らないで!! どうか顔を上げてください。真奈美は全然気にしていないから」


 慌ててしゃがみこんで手を差し伸べる彼女、まったく俺の正体には気が付いていないみたいだ……。


「ワンワン!!」


 突然、元気な鳴き声と共に部屋に可愛い闖入者ちんにゅうしゃが現れた。

 大きな丸い頭はもふもふの毛並みで覆われ、チョコチョコと歩く姿はまるで生きたぬいぐるみさながらだ。このビションフリーゼの仔犬は!?


 最近、俺たちの新しい家族になった愛犬チーズだ!! 


 あの奇跡の起こった夜に、未祐が真奈美を連れていったペットショップでチーズと出会えたんだ。俺は真奈美の可愛がっていた愛犬ショコラが導いてくれた気がしてならない……。奇跡は案外身近にあるって素直に信じることの大切さを俺たちは共有したんだ。


「……こらっ!! チーズ君、興奮してビションフリッツを始めちゃ駄目だよ。未祐ちゃんのお友達がびっくりしちゃうから」


「キュウウン……」


 チーズが切ない鳴き声を上げながら、その場をぐるぐると回り出す、もの凄い高速スピンだ。

 これがビション・フリーゼ特有の行動なんだな、他にも急に走り出したり、初めて見る人はとても驚いてしまうが、未祐から事前にこの犬種の特性として説明は聞いているし、すでに俺の部屋でもビションフリッツはご披露済みだ……。


 でも、どうしてウチの愛犬チーズと真奈美が一緒にいるんだ!?


「真奈美ちゃん、チーズの散歩、ありがとうね。未祐が無理をお願いしちゃって大変じゃない?」


「……ううん、全然平気だよ!! チーズ君と散歩する機会が増えて未祐ちゃんに感謝したいくらい。ここ半月、外に出られなくてとても運動不足だったから」


「本当に!? そう言ってもらえると未祐も嬉しいな……。真奈美ちゃんならわんこのしつけにも詳しいし、本当に助かっているよ!!」


 真奈美がチーズの散歩を!? いつの間に未祐はそんなことをお願いしていたんだ。

 そう言えば、今日は朝からチーズの姿が見えなくて心配していたんだ。

 外出中の両親が一緒に連れて行ったのかと思ったが、隣に住む真奈美にチーズを預けていたんだな、未祐の奴め、どこまで気が効くんだ。俺はに気が付いてしまった。そしてこの制服ファッションショーもその一環いっかんなんだろう。


「あっ、ごめんなさい、チーズ君に気を取られて、あなたのお名前を伺ってなかったわね」


 真奈美がチーズを胸に抱きかかえてから、こちらに向き直った。

 俺の正体に全然気が付いていないみたいだ。

 沙織さんと千穂ちゃんも講義を中断して俺と真奈美に注目している。

 その顔に好奇心を浮かべて、千穂ちゃんに至っては片手に電子メモパットを用意している。未祐から聞いたとおりだ、きっと自作小説のネタを集める気満々なんだろう。


 【先取先生せんしゅせんせい!! 卒業までに絶対先生の赤ちゃんを孕みます♡】

 森田千穂ちゃんの執筆する夢小説のタイトルだ。

 とんでもなくエロいタイトルにだまされてはいけない、この作品が掲載されている小説投稿サイト、野ヘビいちごで純真無垢な女の子のファンもかなり多いらしい。読者からのおすすめレビューが目白押しなんだ……。


 そのおすすめレビューの一部を抜粋しよう。



 *******



【小説投稿サイト野ヘビいちご、で一番読むべき奇跡の純愛作品!!】


 ★★★ Excellent!!!         kazuchi


 タイトルやキャッチコピーに踊るセンセーショナルな言葉に

 惑わされないでください。

 これにも作者様の作品に対する熱い想いが巧妙に隠されています。

 エロラブコメの皮をかぶった真の純愛作品。


 主人公のイケボの男性教師、逝毛保岳孕増いけぼだけはらますとヒロインの女子高生、瀬戸際着床せとぎわちゃくしょう

 お互いの魂を求めあうような激しくも、それでいてぎこちないやりとり。

 これほどの完成度を持つ作品が、野ヘビいちごに存在する奇跡!!

 あなたの目でぜひお確かめください。


 今一番のオススメです。



 *******



 てな具合で絶賛レビューの嵐なんだ。そしてこの作品を原案にして未祐たちの所属する南女なんじょのアニメ同好会では現在、文化祭で上映予定の自主制作アニメ作品を鋭意製作中なんだ。俺も未祐に際どいアフレコにつきあわされたり、わんこの着ぐるみを着せられて大江戸四十八手のエロい体位を、部長の沙織さん相手に組手をさせられたり、色々大変な目にあわされているんだ……。


 そう言えば未祐の奴、頑として沙織さんとのまぐわい練習の動画を俺に見せてくれないな。あれは本当にかぐや姫のボーカル、みなみ交接こうせつしているわけではなく、千穂ちゃんの用意したうなげやグループの誇る最凶兵器。エアフォースわんこタイプR改の着ぐるみ越しだったから放送禁止ではないはずだ。


『兄上殿、教育テレビの午前中でも放映可能なくらいだぞ、はっはっはっ!!』


 現に沙織さんも涼しい顔で、おなじみの高笑いをしていたのに未祐の奴は俺に向かって、


『た、拓也お兄ちゃんが変なことに使うといけないから、絶対に駄目!!』


 とかなんとか、顔を真赤にして言ってたな……。


 おっと、今の俺は可憐なS級美少女設定なのを忘れてはいけない。頭の中からエロい煩悩を追い払って、真奈美と同じ美少女四天王の神フォーレベルまで自分を高めるんだ!! よ〜し、集中して精神統一するぞ。ポクポク、チーン!!


 うりゃ!! めちゃくちゃ整ったぞ、ありがとう!! 俺の脳内一休さん。


「……あっ、私の名前は赤星塔子あかぼしとうこ、従兄弟の関係で未祐ちゃんの遠い親戚なんです、真奈美先輩どうぞよろしくお願いしますね♡」


「うん、こちらこそよろしくね!! そうだ、塔子ちゃんって呼んでも良いかな?

 私のことも先輩じゃなく、真奈美ちゃんで呼んでもらいたいから……」


 おりゃあああっ!! どうだ、特技のミックスボイスでどこに出しても恥ずかしくない完璧な女の子の声色が出せたぞ!! これなら南女なんじょの美少女四天王ランキングに食い込めそうだ。新たな刺客現るって、君更津南女子のゴシップガール、森田千穂ちゃんが校内で号外文書を発行しそうな勢いだ!! 

 その証拠に俺と真奈美のやり取りを一心不乱に手にした電子メモパットに書き殴っているっ……!? う〜む、恐るべしパパラッチ魂だ。


「こ、これはスクープだよぉ!! 君更津南女子の美少女四天王、二宮真奈美さんと双璧の広瀬沙織さんが一堂に会しただけでもビッグニュースなのに、そこに下剋上を狙う新たなニューカマー美少女が殴り込みって!? 最高に胸アツな展開だあああっ!! 先孕せんはらじゃなくても想像妊娠しちゃうレベルだ。これは未公認ファンクラブの女子生徒メンバーが黙っていないわ、南女に戦乱の嵐が吹き荒れることは必至か!? そう百合的な意味で♡」


 いったい、未祐や真奈美の通うお嬢様女子校では裏で何が起きているのか!?


 百合的な意味で……。


 冗談はさておき真面目な話、真奈美は不登校から復帰が出来ているのだろうか? 


 俺は美少女のままで考えてみた……。


 そして意を決して、単刀直入に質問を投げかけてみる。


「……ねえ、真奈美ちゃん、ひとつ聞いてもいいかな?」



 次回に続く。


 






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