第2話《泥姫編》Part2

[前回のあらすじ]

 ひょんなことから見知らぬ土地に飛ばされた俺は人々の頼みで『刻印』を消すためとある城を目指すことになった。しかしその道中に少なくとも人ではない生物『魔物』に襲われ、何とか命からがら逃げだしたところからスタートね。



「はぁ、はぁ」

無茶苦茶に走りまくり、ついに限界が来た。目の前の木に手をついて息を整えようとするが

『何なんだアレ、本物の魔物?』

情けなくも逃げおおせた俺を待っていたのは『ありえない』という希望だった。自分の目で見たモノしか信じないという人がいるがアレは自分の目で見たってすんなり飲み込めるような奴じゃない。

今までの常識、普通、それら全てを真っ逆さまにするような現実 そしてそこから導かれてしまう結論


「異世界?、はは 冗談でしょ」

口に出して怖くなった。言葉をはじいた舌がゼェゼェと切れた息で生ぬるく、普段気に留めない程のその感じが今は酷く不快だ。

「あぁ、サプライズ?」

サプライズ仕掛けてくるような友人居ないだろお前

「じゃあ夢だ」

ほっぺをつねるまでもない、さっき地面に押し倒された時の痛み アレは本物だ

「精神がおかしくなった?」

否定は出来ない


呼吸が段々と安定し、頭に酸素が回りだす。

思い切り息を吸って吐き出す二酸化炭素とともに俺は木の根に腰かけた。いい感じの日陰で風が涼しい、が今その風は肌を逆撫でし俺に悪寒を走らせた。

「おかしくなっちゃったのか」

いや、けど

木の根に触れてみる。それは間違いなく木の感触

地面に手を置いてみる。日陰に守られていたのかひんやりと冷たい

手のひらに息を吹きかけてみる。風が当たり指の間を抜けていく


「間違いないと思いたい」

リアルだと思う、残念ながら。よしんば精神異常だとしてもそれに自分で気付くことは出来ない。

こうなればこの状況を本当だと仮定せざるを得ない。が、そうなるとあの生物についても認めなければならない。

泥姫 人型の泥で体中から自由に人体パーツを生やすことが出来る。弱点は体を構成する泥自体は有限なのでパーツを生やすほど本体は防御力を下げざるを得ないって事 

考えれば考えるほどジョークだ。やっぱり幻覚?

「いや、ダメダメ。今は居るモノとして考えろ」

俺はほっぺをペシペシと叩く。考えろ 

そういえばナイフも通用しなかった、頭に深く刺したのに全然大丈夫そうに普通に喋ってたし。

「泥なんだから当たり前か?」

ゲーム風に言うなら物理攻撃無効?アレ、でも最後の蹴りは当たってたよな?


「へふへへ、木陰で考え事とは。良いご身分ですね」

「!?」

聞き覚えのある不快で蠱惑的な声がした、泥姫だ。

「どこだ!」

「ここだよぉ、太ももの所」

確かに声は太ももの所から聞こえる。俺が急いでズボンを半分脱ぐとそこには

「うわぁあ!?」

目と口が一つずつあった。


「なっ、何。なんで」

「さっきぃ、泥 貴方に垂らしたでしょ?そのときの残り泥で作ったの」

「の、残り」

しまった!泥はふき取っておくべきだったか。逃げ切れたと思って安心していたがこれじゃあ

「今そっちに行ってるから待っててねぇええ」

その言葉を吐いたきり口は動かなくなり代わりにギョロギョロと目がせわしなく動き始めた。


『もしかして、場所を確認してるのか!?』

俺は急いでナイフを使い服の袖を切った。それをグルグルと太ももの目に巻き付けてきつく縛り、そして

『場所、もうバレてるかも』

木に手をついて立ち上がる。


だが手遅れってだったようだ。

嫌な音、草が倒れる音だった。それは奴が近づいて来ている、その証明となる音

「ふひひ、へへ。」

「あ、」

何のひねりもなくただ俺の正面から泥だまりが、ひとりでに動いてやって来る。

ただゆっくりと、でも確かにこっちに来ている。

泥は立っている俺の靴に触れると足から上へ登り始めた。


「あぁ、」

腰が引けて、思わずその場にペタッと座り込む

「良いなぁ。やっぱり良い」

泥に触れられている部分は犬の舌に舐められているかのように温かくて湿っていて

『太もも』『股』『脇腹』『胸』『鎖骨部』ゆっくりとまんべんなく、上へと


「ねえぇ、人間の形じゃなくてさぁ。泥のまま犯していい?」

「え、あ」

頭がボーッとする。くらくらして、でも

「あっはぁは、君。マゾ寄り?」

鎖骨部まで来ていた泥が首筋を伝って猿ぐつわのようにして口に巻き付く。

同時に体中の泥が一斉に脈動のようなものを始め、その味わったことのない俺は快感に地面へ倒れ込んだ。

特に『股』の部分、体をくの字に曲げてイかないように耐える。何となくだがイってはダメなような気がしたからだ。

熱くて、今にも溶けそうな。歯を食いしばる、だが嫌でも腰に意識が行く。

「イキそ?ねぇ。もっと絞めてあげるね」


体中を覆う泥が全体を締め付ける。まるで巨人の手に握られてるような締まり具合、そして生命の危機感。

『イったらどうなる?用済みってことで解放される?いや、』

俺は村の老人が言っていたことを思い出した 「絶倫」。刻印を押された者は絶倫になると、もちろん俺は絶倫なんかじゃない。自慰行為だって3日に1回くらいのペースだ。

つまり一回でも射精して二回戦するとき絶倫じゃないことを知られれば→「もうイけないの?おかしいわねぇ。絶倫のハズなのに」→「あらぁ?貴方 刻印が無いわねぇ」→「じゃあ今入れちゃおっかぁ」→Bad END~俺はこの山で一生を終えた~ 

になる。何より村の人達に申し訳が立たない。


ならどうすればいい?ナイフか、でもさっきは全然効果なかったしな。熱くなってもだえた体で考える、だが

「お゛ッ!?」思わず声が出てしまった。とうとう泥姫は股間の泥をいやらしく上下し始めたのだ。

「うひっ、良い声で鳴くねぇえ!」

泥姫は俺の声を聴き興奮が加速していったのか、不安定に震えた声で叫び 息を荒げる。

「さぁてねぇ、私ったら頭にナイフ刺されちゃったからねぇ。どう責任取ってくれるのかなぁ?君」

口に巻き付いた泥がさらに強く強く締まり始めた。『もう駄目だ。もうイってしまいたい』そう思ったその時に何かがヒラリと地面に落ちた。

それは村で貰った城までの地図 泥姫は俺の体から腕だけを形作り地図を拾い上げると途端に笑い始めた。


「あっは!君、あの村の差し金かぁ!」

声からして若干の嘲笑が含まれている。

「あの村ねぇ、ここにある村の中で唯一希望を許されてるあの!」

「ひ、ひぼふ?」

締め付けられた口で疑問を発する、すると何を思ったか泥姫は口に巻き付いていた泥をシュルリと外した。

「あの村さぁ、この狩場の外に毎月鳥で手紙送ってるでしょ?あれってバレてないとでも思ってんのかしらねぇ?」

手紙、確かに老人は『長年手紙を送り続けた甲斐があった』と言っていた。慎重に送っていたんだろうけどとっくにバレていたようだ。

「でもさぁ、普通に『バレてるよー?』って言っても遊び心無いじゃん?だからねぇ、あえて言わずに希望を持たせてあげてるんだよぉ」

泥姫はニヤリと笑うと付け加えて「どう?ショックだった?」と言った。

「真実を知らないって可哀そうでしょ?だからぁあの村の出身者には犯してる最中に教えてあげることにしてるんだぁ。お前らの希望は全部筒抜けだぞってねぇ!」

俺の頬から声が、直接耳に入って来る。おそらく泥姫の口が俺の頬に出てきてるんだろう。するとさっきとは打って変わって小声でなじるような声で話す。

「可哀そうにねぇ。無駄だったんだよ、君たちがやってきてたこと全部」


俺はあの人達とは今日あったばかりでほぼ他人だけど、それでも泥姫の小馬鹿にした言い草には腹がたった。俺はムッっとしたままで思わず

「でも一通くらいは届いてるかもしれない、そうなったらきっと隣の国の人達が」

『助けに来てくれるはずだ』とまで言いかけたところで、俺の言葉はいよいよ全開で馬鹿にした笑い声に遮られた。

「あっはっは!ふひっ、あっはぁ。無いって無い無いそれは無い」

ムッとした想いはさらに膨れ上がり、俺は吐き捨てるように

「何でそう言い切れるんだ!」と、

すると泥姫は笑うのを止めて突き付ける様に言い放った。

「だってぇ、そもそも隣の国とか無いからさぁ」


その言葉を飲み込むよりも早く、頬の口から長い舌が伸びて顔の輪郭をなぞる。背中がゾクゾクと脊髄ごと震えて、それを隠そうと必死に体を丸める。だが背中から伸びてきた腕が丸まった俺の体を力尽くで開こうとする。

「うへっ、貝を食べるときみたいだね」

「ぐっ、うぅ」

隣の国は無い?何だよそれ。じゃあ、あの村の人達は本当に

「ほらぁ、食べさせてよぉ。中のオイシイところ~」

「このっ!!」

無理やり体をこじ開けようとする泥姫に、俺の中で何かが切れてひたすら泥の腕を叩きまくる。

「離せッ!このドロドロ野郎が!!」

一心不乱に叩きまくる。何度も何度も。すると、お腹に鈍いモノがぶつかる。


「うぐっ!?」

俺の肩から生えた泥の腕が、俺の腹を思い切り殴ったのだ。

突然の痛みに腹を抑えて再び体を丸める。すると泥姫は俺の体から離れて人の形となり、見下すように側に立った。そして

「」

ボンッ!泥の足で俺を蹴り飛ばす。

「ぐっ!」

木の根まで転がり、仰向けで止まる。

「」

泥姫はさらに近づくと、今度は踏みつぶすように足で俺を蹴りだした。

「うっ、うぅ」

「」

終始無言で、何度も「」何度も「」何度も「」


泥姫が次に口を開いたとき、俺の体はもうボロボロだった。

「ね~えっ、だぁいじょおぶですかぁー?」

「うぅ」

もう一度踏みつけられる。

「うぐっ!」

「だいじょおぶかって聞いてるんですけどぉ~?」

「だっ、」

「ん?」

「大丈夫じゃないです」

途中で何度も逃げようとしたけど全然ダメで、立ち上がろうとするたびに蹴りで押さえられて地面に叩きつけられた。足にしがみついた時もあったけど、俺の体ごと持ち上げられて また地面に叩きつけられた。心までもがボロボロになった。

それを感じ取ったのか泥姫はニンマリと笑い、腰を曲げて俺を見下ろした。

「テイコウ、しなきゃよかったねぇ」

「う」

「君が悪いんだよぉ、調子乗っちゃってさぁ。ウザいんだよ、人間のくせに」

泥姫は腰を戻し、再び俺を軽く蹴飛ばす。

「あ~もぉ、つまみ食いのつもりだったのにぃ。こんなにしちゃったらもう」

泥姫がピタッと動きを止める。目を見開き、ある個所を見つめていた。


「君、刻印」

「!」

マズイ、蹴られ過ぎて衝撃で服がめくれたのか。

「何で刻印無いの?君、まさか」

泥姫は目を見開いたまま、何かゾッとするような期待を帯びた声でこう言った。


「異世界から来たの?」

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