第47話 楽観的な姉達

「で、久しぶりに会えたと言うのにお仲間が増える――と、いう流れなのかしら?」


 と、ヴィルヘルミーナ嬢は不機嫌そうにそう言った。当然、彼女の姉であり、この鋳薔薇の館の主も頬を膨らませて可愛らしく怒っていた。


「そうですそうです。なんとも楽し気な事件があったという噂は耳にしましたが、アンネローズは見て来たというワケですわよね? ズルいですわっ!」


 なんと言えばいいだろう。エヴィリーナ嬢の怒っているところは全く違うところであった。思わず、ヴィルヘルミーナ嬢も溜息を吐いてしまう。


「お姉さま。楽し気と言えば、カリート侯爵令嬢が可哀想でしょう。どうせ、イリーナがお節介を焼いたのでしょう?」

「そう、その通り。流石はミーナ嬢だ、よく分かっている」


 と、我が姉が何故かドヤ顔で偉そうに踏ん反り返っていた。意味が分からないが、お節介を焼いてしまったのは事実で、エリアーナも苦笑していた。


「しかし、リリアンヌ様をこちらへ連れてくるように言ったのはお姉さまですから。私は……」

「まぁ、そんなことはいいとして、ここで話をするという意味をアンネローズやイリーナは理解しているのかしら?」


 ヴィルヘルミーナ嬢はどこか呆れたようにそう言った。当然だが、ここへ連れて来るのは我が姉の提案であり、その意味も理解している――いや、姉がどう考えているのかは分からない。けれども、これから確実に周囲どころか家の中からもリリアンヌ嬢は責められる可能性がある。かなり強引な手法ではあるけれど、大公家であれば何とか穏便に済ます手立てがあるだろう。


「まったく、犬や猫を拾ってくるのとは違うのですよ?」

「人間であっても似たようなモノですわ」


 と、何故かエヴィリーナ嬢が笑顔でサラリとそう言った。少し変わった人だとは思っていたが、これはちょっと考えを改めねばならない。我が姉と付き合えるほどにこの御仁はある意味天然、ある意味突き抜けている――まぁ、ある種の性格破綻者でもあるだろう。


「それは姉さまくらいの話ですわ。全く――アンネローズも分かっていて、連れて来るべきではありません。そもそも、私にはどうこう出来る立場にはいませんが、リリアンヌ嬢は侯爵家の直系でしょう? 色々と障りがあるのでは無いでしょうか?」


 ヴィルヘルミーナ嬢の言葉に私は視線を思わず我が姉に向ける。まぁ、姉はいつもの如くとてもよい笑顔で反応する。この人は確信犯だと思いつつ、私はゆっくりと息を吐いた。


 考えれば当たり前のことだったが、王族の婚約者候補となれる人物というのは多くいるようで実は限られている。家格では侯爵の十番目まで、公爵家だけでも十二家あるのだ。大公家の三家を合わせて、二十五家の中から歳が近い――と、いうよりも同学年が優先され、当然、各家で継承権を持っている者。


「そういえば、カリート家といえば第二王子の近習に次期侯爵の者がいましたわね。と、いうことはリリアンヌちゃんは二番目ということですのね?」


 そう言ったエヴィリーナ嬢にリリアンヌは静かに頷いた。当然ではあるけれど、家の継承権を持つ順位の高い者というのは当然、その家での価値も高い。そういう点からもリリアンヌのような娘が王族の婚約者候補にあがるのだ。


 しかし、今後のところ、王子一派が今回の事を周囲に話せば確実にカリート侯爵家に批判が集まる可能性が高い。正直言って、微妙な話ではあるが、あの王子達に対しての行為は正直褒められた話では無いのだが、王子に対して諫言した。と、いう評価になるとは到底思えない。まともな者達であれば、リリアンヌ嬢は褒められるべきだが、そうは為らないと私は予測している。


 そもそも、前世でもあった話だが、貴族でも特に上位貴族は皆、他の上位貴族同士で足を引っ張り合うモノなのだ。特にリリアンヌ嬢のカリート家は侯爵家でも上位であり、王侯派閥でも発言力のある人物だ。しかし、これから確実にその力を失うだろう。そして、その責は確実にリリアンヌが負うような流れになるのは目に見えている。


「やはり、私の行動は――ダメだったのですね」

「いいえ、貴女の行動は私は非常に正しい行動だと思います。しかし、今の王子殿下やその周囲はそれを良しとしない者達だっただけです。問題はカリート家にも及ぶことです」


 と、私がそう言うとヴィルヘルミーナ嬢が同意する。が、我が姉とエヴィリーナ嬢はそうでは無い様な雰囲気を出してニコやかに微笑む。


「イリーナは真面目だねぇ。まぁ、今のままだとイリーナの言う通りではあるだろうね。特に上位貴族の同じカリート家でも親族達からの突き上げもあるだろうし――」

「まぁ、そうですわね。カリート家という貴族家の話は置いておきましょう。リリアンヌ個人を守るくらいであれば、どうにでもなりますわ」

「ま、リーナに任せれば余裕だろうね」


 二人は楽し気にそう言った。が、それは大公家であればどうにでも出来るだろうが、貴族令嬢としては終わったというレベルの話だと思うのだが、リリアンヌ嬢は特に貴族としての矜持が非常に高い人物だと思うと、彼女達の楽観的な話に肯定するとは思えない。


「――お姉様方は簡単に言いますが、リリアンヌにも貴族令嬢としての矜持があるでしょう? 確かにそんな物はドブみたいなものだと私も思いますが、あまり強引なやり方は感心致しません」


 と、ヴィルヘルミーナ嬢は溜息混じりにそう言うのだった。

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