第46話 リリアンヌの今後

「なぜ? と、いうお顔をしてらっしゃいますが、ご理解していないのですか?」


 私がそう言うとリリアンヌは申し訳なさそうな表情をしてコクリと頷いた。なるほど、彼女は少し残念な思考回路の猪突猛進タイプだということが分かる。


「まず、リリアンヌ様に影響する部分からお話しますね。今回のことが他の王族がどこまで知っているかは私には分かりかねますが、他の婚約者候補などには影響が出るでしょう」


 そう言うとリリアンヌはそこは理解しているようで真剣な瞳をこちらに向けて来る。


「そして、今回の王子殿下が下した判断はリリアンヌ様が行った諫言を聞く気は無い――と、いうことは他の上位貴族からも意見は聞く気は無い。と、いう判断になるのではないですか?」

「――そ、それは……他の者が私のようにご意見をする事が出来なくなった。と、いうことでしょうか?」


 普通に考えればそういう事だろう。他の意見を全く聞く気が無く、下位の貴族令嬢を傍に置くという事自体が異常な事態だが、彼は言ったのだ。『女どもは面倒くさい』、そしてアレが『暴力は良くない』に対して肯定していたが、直属の部下に対しての愚行に対しては何も言わなかった。自分達はそうするがお前達はしてはいけない。と、いうことと受け止めれる――いや、受け取る者も多いだろう。


「今後、一件平和な教室という空間は維持されるでしょうが、今後、王子殿下に意見を言える者はいなくなるでしょう。それを不満に思う者もいると思います。そういう方々はどういう手段を用いるでしょうか?」


 一番面倒なのは二つで、一つはアレに対して陰湿なイジメや嫌がらせが確実に起こるだろう。そして、二つ目がリリアンヌにその悪意が向くこと。この状況を作り出したリリアンヌが悪いという者もいるだろうし、クソ王子やその周辺のアホがイジメや嫌がらせはリリアンヌが行ったと言い出しかねない。


 リリアンヌも流石に上位貴族の令嬢だけあって、彼等彼女等がどういう思考で動くのか、理解しているようで青ざめる。それを隠そうと扇でソッと顔を口元を隠すがあまり意味はない。


「あと、私が気になっている事がもう一つあります」


 彼女が言った『リンデール嬢』に関してだ。リンデール嬢はアレに文句を言ったら、クソ王子達に脅されたショックで学園に来ていないそうだが、この件もリリアンヌ嬢の所為にされる可能性も絶対にあるだろう。


「――あ、あの……リンデール様の事でしょうか?」

「理解が早くて助かります。これ以上は言わなくても聡いリリアンヌ様にはお分かりだとは思います」

「ど、どうにか――ならないかしら」


 どうにかする方法はあるが、やるべき事では無いのでやらないし出来ないだろう。それを考えるとリリアンヌがどうしたいのか。と、どうするべきを考える。くらいだ。


「正直に言わせて頂きますが、リリアンヌ様が王子殿下をぶっ飛ばすくらいの事が出来ないとどうする事も出来ません」

「さすがにそんな事出来ませんわ!」


 と、思わず大きな声を出してしまい、リリアンヌは周囲の視線を誤魔化すように笑うが、その姿は少し可哀想になってきた。


「まぁ、普通は出来ません。それにそんな事をしても、状況が良くなるような気はしません。王子殿下は『女どもは面倒くさい』と仰っていましたよね。それを考えれば殿下がアレ以外の貴族令嬢達をどう見ているか――が、よく分かると思います」

「だ、だとしても……」

「だとしても――ですよ。王国貴族において今、王家の強さは王国の歴史でも最もというくらいに王家に権力が集まっている状況下で、いくら上位貴族といえども何か出来るような事がありますか?」


 この国は多くの問題を抱えている。あのアイツが勇者の称号を持ち、勇者の称号を与える事が出来る存在であり、あの長かった魔王軍との戦いを終わらせた英雄である者が王であり、その子供達もある程度の年齢になった時に勇者の称号を与えられているという事実。


 そして、その下に付く上位貴族の数。政治の腐敗。他にも気が付いている事が色々あるが、確実にこの国は衰退に向かっている。そして、アイツが作り上げた数々の悪法が貴族社会をより腐敗、衰退させて行っている。


「わ、私は――取り返しのつかない事をしてしまったのですね……」


 と、リリアンヌは溜息を吐いた。


「件のリンデール様と同様にしばらくお隠れになるのが一番では無いかと思います。学園に来なければアレにムカつく必要もありませんし――」


 私の話を遮る気配が背後に現れて私はリリアンヌを庇いながら振り返る。が、すぐに何者か分かって思わず大きく溜息を吐く。


「お、お姉様。冗談が過ぎます……」

「驚いた? 少し視野が狭くなってるんじゃない? ね、カリート侯爵令嬢もそう思うわよね?」


 我が姉に視野が狭くなっていると言われて少しムッとしたが、よくよく考えれば確かに他にも色々と選択肢が存在する――けれども、それは私だけではどうにもならない話だし、姉がそう言ってくるという事は彼女はお節介をする気なのだと私は気が付いて、小さく息を吐く。


 まぁ、多少の関わりがあると、スパッと切り捨てるというのも心苦しいところも正直あるわけだし、ここは姉にお任せすることにしようと思うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る