第43話 気が付けば
戻ってきた私は何故かベッドの上にいた。景色的には自分の部屋であることに色々と疑問を感じる。いや
確か、あの時も女神との邂逅があったハズだ。と、とても曖昧な記憶を思い辿りつつ、自身の状況を整理する。
女神ラミリアが私達や地上の世界に干渉するのは非常に様々な問題があり、可能な限り行わないという話をされた事がある――が、姉やその他にも干渉しているわけだし、前世では多くの聖女や聖女見習い、聖人などにも降臨している事を考えると、結構な頻度で干渉している気がしなくも無い。
しかし、女神の干渉というのは人間の精神や肉体に掛かる負荷が結構馬鹿にならない事は確かで、前世での初めて邂逅した時も数日死んだように眠っていた。マリアンヌの時もそうだったのでよく覚えている。
と、いう事はあれから既に数日経過している可能性も無きにしも非ずだ。
ともかく、自身の事よりもマリーの事を思い出し、私はベッドから飛び起きる。当然、即座に私が起きた気配を感じたメルビーが傍にやって来る。
「大丈夫ですか、お嬢様?」
「ええ、それよりもマリーは大丈夫?」
と、私が言うとメルビーは驚いた表情を浮かべ、すぐに小さく噴き出した。
「相変わらずですね、マリー様も元気にしておられます。どちらかと言えば、二日ほど意識が無く眠っておられたお嬢様の方が心配です」
ん? どうやら私だけ眠っていた――と、いうことらしい。どういうことだ?
「マリーは無事なのね?」
「はい、お嬢様が倒れられた後に意識がお戻りになり、大変お嬢様を心配なさってました――ああ、それどころではありませんね、旦那様や奥様に伝えなければいけません。私は他の者にお嬢様が起きられた旨を報告してまいります。お嬢様はベッドでお待ちください。皆が心配されますから」
確かにいきなりぶっ倒れた者が平然と部屋をうろついているのも、逆に心配されるかもしれない。そんな事を思いつつも、二日も経っていると知って、意外と短いと感じてしまった。人にもよるが、前世では半月も倒れていた者もいるほどで、私も十日近く倒れていたハズだ――けれど、マリアンヌの時は二日くらいだったような気がする。
ともかくだ。何が原因か分からないが、神との邂逅というのは色々と危険もあるということだけは確かなのだ。
「姉――さま、大丈夫ですか?」
と、勢いよく部屋に入って来たマリーが『ねえさん』と言いかけて『ねえさま』に直した。こういうところは本当に可愛い、マリアンヌと分かってしまっても、妹という存在が私にとって天使なのは変わらない。いや、マリーがマリアンヌだということで、その気持ちは天を貫くほどに高まっている。
「ええ、大丈夫よ。マリーも大丈夫?」
「はい、イリーナ姉様が私の分も肩代わりしたんじゃないかと……その、思っているから」
うん、可愛い。そんな事を思っていると楽し気――と、いうよりも少し意地悪そうな表情の我が姉がいつの間にかに立っていた。そして、その後に続くように両親と次兄が現れる。なかなか、家族の殆どがやって来ると、使用人も含め寝室が人だかりだ。
「お父様、お母様、ご心配おかけしました」
私がそう言うと父は優しく微笑み、母はまだ心配そうな瞳を私に向ける。まぁ、元より病弱で何度も死の淵を行ったり来たりしていた過去があるが故に心配なのは当然か。前世から考えると我が母はとても優しく良い人間だ。
「本当に大丈夫なのかしら?」
と、母がそう言う。まぁ、いきなり倒れて数日起きないとなると、普通は心配するのが当然だ。私は自信を持って大丈夫だと言えるが、信用に値するかどうか? と、言われると――まぁ、そんなものだ。
「イリーナが大丈夫って言ってるなら大丈夫よ、お母様」
「そ、そうかしら?」
姉が楽し気にそう言うと母は困ったわ。と、いう雰囲気で再度私に大丈夫か確認してくるが、私は「大丈夫です」と、即答した。
考えるとこの平和になったこの国――いや、世界にある多くの国ではそういった神との接触は過去にも事例は殆ど無かったハズだ。これはこの国周辺の国々だけで数百年の間に起こっている事象である事は多くの歴史的文献によって分かっている。
が、現在のこの国では魔王軍との戦い以前の歴史書の多くが禁書として扱われている――これも、アイツの所為だと言うことは分かっているが、一部の貴族や教会には禁書庫があり、大事に保管されているらしいが、やはり禁書庫に入る書物というものは20年という時間の流れで情報として風化している。
ラミリア様と会った事がある者達というのも、多くは先の戦いで死んでしまっているし、転生した私やマリー以外にも似たような事例で倒れていた経験を持つ者がいれば、その者は――あれ?
我が姉もラミリア様と会ったと言っていたが、彼女が倒れたような話は一度も聞いた事が無い。いったいどういうことだろうか?
私はしばし考えたが、結論としてあの姉である。たぶん、誰も気づかない程に平然としているのであろうと想像も容易かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます