第41話 魔力操作訓練上級編
そして、ヴィルヘルミーナ嬢は私の行為によって驚きの表情を見せる。
「な、なんですの!?」
「驚きましたか?」
まぁ、こんなことは普通は誰もやらない。これには様々な理由があるのだが、そこは後で説明が必要ではある。これについては訓練としてこの行為を行った事がある者でなくてはやってはいけないと言われるほどに難易度が高く、リスクもある。
「違和感が……取れない感じがするのだけど……」
と、彼女は不快といった雰囲気でそう言った。それも当然のことだ。体内に私の魔力という異物が入っている状態を作り出したのだから――魔力というのは個々で違うし、他人の魔力が自身の魔力に混ざるということは基本的には起こらない。
しかし、この訓練をすると自身の魔力を強く認識できるようになり、結果として魔力操作の力が大幅に伸びる――のだが、上手く出来ないと魔力が大幅に減衰するような事が起きる。これについては様々な論があるが、精神的な面に大きな影響がある。と、私は思っている。
「では、異物である私の魔力を押し出してみてください。貴女であれば出来ると思いますよ」
彼女の場合、既にかなりの魔力操作が出来ているので、これが出来れば魔力を扱うコツをつかむのも早いと思うのだ。
私にそう言われてヴィルヘルミーナ嬢は難しい顔をしながらも、指先から私の魔力を何とか押し出して大きく息を吐く。
「こんなことが出来るとは……思わなかったわ」
「正直な話。こんなことはやるべきではありません――が、ヴィルヘルミーナ様にはこの方法の方が理解しやすいかと思ったのです」
「やるべきでは無いとはどういうことかしら?」
と、彼女の姉であるエヴィリーナ嬢が睨みを効かせてくる。まぁ、いきなりやるべきでは無いとは思うが、説明すると警戒され、思った効果が出ない可能性があったので、強引な方法を取ったのだ。
「自分の魔力を人に流そうとすると、絶対に反発されます。それを行うには高度な魔力操作が必要になります。もし、適当な方法で行うと、行った者にも行われた側にも害になる場合がありますので、基本的には行うべきではありません」
「貴女にはそれをするだけの自信があった――と?」
「はい。それにヴィルヘルミーナ様は理論派というよりも感覚派の方だと思いましたから、そういう方にはこの方法の方が、確実に魔力操作が向上するのです」
だが、やり方が一般的では無いので、現在も世間的にこの方法が広まっていないのは――まぁ、お察しではあるが、出来る者が殆ど居なくなっているのだろう。
この方法は聖女から聖女見習いへ己が力を高める儀式で行うので聖女の多くは出来るし、やったことがある。
「さぁ、もう一度――」
そう言って、私は再び彼女の手を取って魔力を流すが、次は先程の経験から彼女も身構えており、案の定というか普通の反応ではあるが、魔力を流そうとした瞬間、それを阻むような感覚が伝わってくる。これは反発といって普通の反応である。
他人の魔力というのは異物であるから、人は誰しも他人の魔力が入ってくるのを防御するのだ。だがしかし、聖女はそれを乗り越える事が出来るが故に回復魔法のスペシャリストであるといえる。
私は次に聖女の魔力に上書きして、少量の魔力を流すとヴィルヘルミーナ嬢は驚き――いや、様々な感情の入り混じった複雑な表情と言った方がいいだろう。そして、少し火照ったように頬を上気させながら彼女は口を開く。
「ちょ、ちょっと待って。貴女……何をしたの?」
「魔力を流しただけですよ。まぁ、反発されたので聖女の魔力を流しました――その昔、聖女達は魔力の扱いを覚える為にこうやってお互いの魔力を流しあって覚えたそうですから」
と、言って私はニヤリと笑う――のだが、何故か皆の表情は引いている雰囲気だ。我が姉だけが、笑いを堪えてプルプルしている。
「さっきの魔力は異物感があったけど、その――聖女の魔力って異物感が無いのだけど?」
「でも、違和感はあるでしょう? それを探って、ゆっくりと吐き出すようにそうですね。目を閉じて呼吸を整えながら、想像してください」
私の言葉に誘導されるように彼女は瞳を閉じて、深く呼吸をする。そして、ゆっくり漏れ出すように私の魔力を押し出していく。
この作業は効果が高いし、いいのだが、魔力を感じる才能が無いとかなり怪しい雰囲気に戸惑うだろう。エアリーナ嬢が先程から状況を上手く呑み込めていないのは魔力探知を出来ないからだろう。
思ったより時間が掛かり、私が流した全ての魔力を出してヴィルヘルミーナ嬢は深い溜息を吐いた。
「――はぁ。なんだか、凄く疲れたわ」
「お疲れさまでした。キチンと私の魔力を上手く追い出せましたね。他人の魔力が体内に残り続けると、魔力不全を起こしてしまうこともあるので、ハッキリ言って推奨出来る方法ではありませんが、とても素晴らしい
と、私はとびっきりの笑顔で言うと、何故か先程以上に皆が引いている。思わず、姉も絶えれなかったのか思いっきり噴き出して笑うのだった。
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