第40話 魔力操作訓練
「まず、
先ほどまで不安の色を隠しきれていなかった瞳の色は戸惑いのようにも見えたが、どこか方向が見えたようだ。いきなり重々しい覚悟を決めろとは私には言えないが、前段階としては十分すぎるくらいだろう。
「そうですね、簡単で安全な方法から試してみましょう」
と、私はそう言ってそよ風を起こす。力加減も完璧というレベルで爽やかな魔法の風が室内に流れる。
「そよ風? 無詠唱での魔法――なのかしら?」
「はい、その通りです。ヴィルヘルミーナ様は既に魔法を扱う為に必要な要素を知っていますね? 詠唱をせずとも祈りを声に出さなくとも魔法は扱えるハズですから、後は微調整の魔力操作と想像力とお願いです」
私は出来るだけ柔らかい笑みでそう言う。何故か我が姉がすごく感心したと言わんばかりに「なるほど、なるほど」と、楽し気に呟いていたが、ここは敢えて無視することにする。
「威力を弱くする――と、いう意味が分からないのだけど、説明願えるかしら」
と、言ったのはエヴィリーナ嬢だ。まぁ、意味が分からないと言われるような気もしていた。普通、魔法の威力を弱めることは考え無い。当然、基本的に魔法というものは敵を倒す為の手段で、攻撃にしても防御にしても考え方は一緒でいかに強い効果を出すか――と、いう部分に焦点が当てられている。
「威力を高めるのは色々と方法がありますが、最終的には気合みたいな部分があるので、頑張ればなんとか出来るものです。しかし、先程の魔法は世間的に言えば『突風』の魔法です。知っていれば威力がどのようなものかは分かりますでしょう。それに威力を弱めるというのはとても繊細なのです。気が緩むと室内で突風を生み出してしまうでしょう。そうなると大変じゃないですか?」
まぁ、先程の私がやって見せた魔法は私の場合は逆に威力を上げたのだが、それでもそよ風を吹かす程度でしか魔法は発現しない――が、それは言う必要も無い話だからいいだろう。
「考えもしなかったわ。威力を弱める――ね」
彼女はそう言いながら、自分でも試そうとするが、途中でやめる。
「今の
エヴィリーナ嬢はそう言ってから小さく息を吐く。そして、視線はヴィルヘルミーナ嬢を見ていた。彼女は何かを考えるような表情を浮かべていたが、小さく「そよ風」と呟きながら魔力を動かす。
すると、部屋中にそよ風とは言えないが、魔法としては随分と――いや、威力の無いと言ってもいいだろう風が吹く。当然、部屋中に突如、結構な強さの風が吹いたわけで一瞬で部屋が大変な事になったわけだが。
「貴女のようにはいかなかったわ」
と、どこか悔し気にヴィルヘルミーナ嬢は言ったが、いきなりの事でここまでの威力に抑える事が出来るのであれば十分だと私は思う。
「いいえ、初めてと考えれば十分だと思います。慣れと後は感覚を掴めばもっと精度の高い魔法が使えますよ。本来の突風であれば、この部屋の中に置いている物も皆も無事にとはいかないでしょう?」
突風の魔法はある程度の大きさの魔物でも吹き飛ばすことが出来るほどの風を吹かせる魔法だ。そこから考えれば本当に充分と言えるのだ。エヴィリーナ嬢はヴィルヘルミーナ嬢のように魔法の威力を抑えることは難しいと考えたワケだが、彼女はそれをやってみせた。
魔力操作という点において、結構なセンスを持っていると思っていいだろう。
ただ、こういうモノも繰り返し鍛錬する事で身に着けていくのだ。私とマリアンヌも随分と苦労した――と、いっても他人に比べれば習得は早かったのが、そもそも、この手の技術というのは本来必要無いのだが、前世で魔王軍に魔力喰らいと呼ばれる魔物がいて、どうしてもある程度以上に魔力を検知させない手立てが必要だったのだ。
「――この後はどうすればいいの? 魔法の威力を抑えることで何かが起こるとは全く思えないのだけど」
「これは目的までの第一段階に過ぎません。最も重要なのは魔力の扱い、より繊細な魔力操作。それと、想像力。後は出来ると思う事です」
「魔法の威力を抑えることで、より繊細な魔力操作が覚えれる――と、いうことなの?」
と、彼女は不思議そうな表情で言った。そして、私は彼女が感覚派な人間なのだと気が付き、少しだけ方針を変えなくてはいけないかもしれないと思う。
「そうですね。あくまでも魔力操作という点においての訓練のひとつだと思ってください。想像力、祈りも含めて同時に行う事が出来るようになるコツをつかむための切っ掛けのようなものです」
「――よく分からないわね。もっと分かりやすく習得出来る方法は無いのかしら?」
そう言われるような気をした。分かりやすくと言われると、多少は強引だが魔力がいかなるものか。それをどう扱うかを理解する手とすればひとつしかないだろう。
「仕方ありませんね。出来ればあまりやりたくは無かったのですが、ひとつの方法を取って見ましょう」
私がそう言うとヴィルヘルミーナ嬢は少し不安そうな瞳を向けて来るが、彼女には細々と説明しても理解して貰うのは随分と時間が掛かり過ぎるだろう。
「まぁ、危険はありませんから、安心してください」
と、私はそう言ってから立ち上がり、彼女の傍に移動してソッと彼女の手を取った。
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