第38話 三つの要素
そもそも魔法というものは聖ラミリア教会の教えで言えば、神の奇跡、神への祈り、願いの具現化など様々な表現で語られている。
しかし、私は知っている。とあるお方曰く『創造原理』の一端であり、世界の
人がより神に近づく為の行為とも言える。その為にある世界の仕組みだ。
「まず、魔法について話を致しましょう。魔法を顕現させるには三つの要素が必要だと考えられています。ヴィルヘルミーナ様は分かりますでしょうか?」
私の質問に彼女は一瞬だけムッとした視線を向けるが、すぐに思考を切り替えたのか小さく首を傾げた。
「――魔力と呪文。あと一つは何かしら?」
魔力は正解だ。当然、魔法を扱うには絶対的に魔力というモノが必要となる。しかし、呪文は補助的な役割であり、多くの場合必要としない。
「んー、
「お姉様が分からないのでしら、
「まぁ、そのように頬を膨らませないで下さい。別に意地悪をしたいわけでは無いのです。意外と魔法というモノは学問としても成り立ってはいますが、それが正解とも限らないいい加減なモノなのです」
私がそう言うと我が姉が納得した表情でウンウンと頷いている。まぁ、姉はああいう人だから、気にしたら負けだ。
「いい加減?」
「はい。魔法を顕現する為に必要な事は【魔力】【想像力】【想い】ですから、魔力以外は他人には図り知ることなど出来ないでしょう?」
と、私が言うと姉以外の全員がさらに不思議そうな顔をする。
「想像力が大事なのは
そう言ったのはエヴィリーナ嬢だ。現在、魔法・錬金術は一つの学問としても存在している。しかし、これが学問的に扱われだしたのは精々100年ほどの話で、確かに魔道具の発展などに関しては進歩しているが、魔法に関しては特にこの20年は発展どころか退化しているのでは無いかと私は思っている。
実際、我が家の騎士団内の魔法使い達も古参の年寄と若い世代では圧倒的な魔法に対する考え方が違う。それは実際に戦闘で魔法を使ってきた者達と平和な時代で訓練や魔獣相手にしか魔法を使ったことが無い世代の差ともいえる。
「はい。想いというのは魔法を使うときにはとても大事な要素なんです。本来、各属性魔法の得手不得手というのはありますが、人というのは光、闇以外の属性魔法全てが使えるのです」
実際――使えるのだけど、魔王と戦う魔法を扱おうと思えば強い加護と制約が必要になってくるので、正確では無い。
「光――は聖魔法のことね。闇は闇の眷属にしか扱えないというのは学園の授業でも習うわね。でも、人が光を使えないというのはどういう意味ですの?」
「言い方が悪かったですね。普通の人は――と、いう意味です。聖女の素質を持つ者は普通の人とは言わないので、真の意味で聖魔法を扱えるのは聖女だけです。まぁ、現在の聖騎士には何故か聖魔法を扱える者がいたり、いなかったり……」
「イリーナ――それ、言っていいの?」
と、姉がニヤニヤしながらそう言った。呆れているという雰囲気は無い。確実に楽しんでいる様子だ。
私はこの場にいる皆に知っておいて欲しい――と、いうか確信めいた何かがあるのだ。間違いなく彼女達は遠くない未来により強い力を得る可能性がある。
今世では一度も女神ラミリアが降りてくるようなことは起こっていないが、彼女が再び私に何か使命を与えようとしているのでは無いかと思っている。
それにそもそもアレが現在この国の国王というのが、何か歪な存在が関わっているような気がしなくも無いのだ。マリアンンヌが殺された恨みというのも無くはないが、どこか気持ちの悪いシコリのようなモノが常にある感じなのだ。
「はい。知っておくべきだと思ったので」
「まぁ、イリーナがそう言うならいいか」
我が姉はそう言いながらも私に思うところがあるという雰囲気では無い。彼女の場合、私が言ってはいけなかったり問題がある場合はキチンと言ってくれると信じている。
「先ほどの話に戻りますが、【想い】というのも【想像力】に近しいモノになりますが、より強く願うことで魔法というモノはその性質や力が変わります」
私がそう言うと、会話に入れずに黙っていたエリアーナがボソリと呟く。
「聖女の祈り――」
「ええ、その通り。今では魔法を理論立てて考える魔法学というものが存在しますが、聖女は魔法を祈るという形で顕現させることが出来ます。それこそ、すべての魔法についても同様です。因みに古い異端とされた文献に聖女と同じ方法で魔法使いが魔法を使えるかの実験を行った事があるそうです」
と、いうか――実験をしたのは私とこの学園の学園長だが、この実験結果についての論文はどこにも発表されてはいないようだった。私が死んでからの魔法学論文について調べてあってよかったわ。ここ数年の論文は知らないから、あれだけど。
「そんな実験があったのですか?」
「殆ど知られていませんし、たぶん異端とされる可能性があったのでしょう」
たぶん、聖女が禁忌となったせいであの爺様は論文を書くのを止めたか、世に出すと問題になる可能性が高かったから止めたかのどちらかだろう。
ともかくだ。実験結果とこれから少し実証実験もしようと私は小さく微笑むのだった。
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