第35話 聖女とは
デュラディス家が古くから特別視されて来た経緯は我が家と似通った部分がある。どちらも古い聖女の血を受けており、聖騎士や聖女を多く輩出している。
アレが王になってからの20年の間ももしかすると、生まれていたかもしれないが、隠されているか闇に葬られた可能性はある。
そして、ヴィルヘルミーナ嬢が欲する技術というのは聖女もしくは聖人の力を隠す方法だろう。
「ヴィルヘルミーナ様は幼い頃より諸外国へ連れられてらしたのでは無いですか? それに鉱山都市ベルクアに向かったのも、それが理由なのでしょう」
鉱山都市ベルクアで採掘される魔石の中に稀に採掘される隠蔽の魔石と呼ばれるモノがある。しかし、正直なところ私が持つ魔力隠蔽の技術は現在の聖騎士であるアイシャから教わったもので、それを教えても良いものかと考えてしまう――が、今の流れから無理だということも出来ないし、しない方がよい気がする。
そして、私の言葉にヴィルヘルミーナ嬢は静かに頷いた。
「この国は長らく魔族との戦いが続き、現王が魔王軍を見事討伐し平和な世が訪れました――しかし、その後に起こった事件は世間では完全に闇に葬られ、今ではその存在は忘れられ、一部では禁忌となっています」
と、エヴィリーナ嬢が言う。部屋の中に漂う緊張感にエリアーナの顔色が悪い。
「リーナ、圧かけすぎよ。せめてもう少し魔力を抑えないと駄目ね」
「あら、ごめんなさい。そこまでのつもりは無かったのですよ」
そう言いながらにこやかに微笑むが、私は絶対にワザとだと考える。意外に強かな人物だと私は思う。と、いうか前世の経験上この手の人物は腹黒いのだ。
「エリアーナももう既に気が付いていると思うけれど、ヴィルヘルミーナ様が抱えている問題というのは聖女の素質を持っているからでしょう」
これはハッキリとさせておきたいところだが、私は聖女であり、聖女の力を前世のように使える。これは既に自身で色々と試したから分かることだが、彼女は聖女の素質はあれど、キチンとした形で聖女として目覚めているワケではない――が、隠蔽はしているが、溢れ出ている魔力でどういった状況かなのは理解出来る。
「かの魔力が現れ出したのは数年――3、4年くらい前なのでは無いでしょうか?」
「――あら、よく分かりますね?」
「はい、私は自身の魔力をほぼ隠蔽出来ているのですが、まぁ、魔法自体はそこまで得意ではありませんが、魔力を扱う事に関しては自身があるのですよ。人の魔力を見るのも慣れておりますから、かの魔力の存在を感じます」
私がそう言うと、ヴィルヘルミーナ嬢はムッとした顔をする。
「隠蔽されていても、やはり分かるのですね……」
「隠蔽の魔石で隠せるのは一部だけですから、残念ながらその存在は強く感じます。このまま数年経てば目覚めが来るでしょう。そうすれば絶対的に隠すことは出来なくなります」
人によるが、魔力の成長というのは特に十代前半から後半にかけて伸びる事が多い。特に聖女特有の魔力は十代後半起こる目覚めによってグッと伸びる。
聖女が聖女たらんとするのは普通の魔力と聖女の魔力が合わさる為に普通の人とは比べ物にならない程に魔力量が増えるのだ。まぁ、聖女以外にも魔導の素質を持っている者も同様ではあるが、魔導師は禁忌とされていないしこのエリセウス王国には魔法使いはいても魔導師の数は非常に少ないし、事情があって表に出る者も少ない。
「エリアーナは聖女についてどれくらい知っていますか?」
私がそう言うと、エリアーナは少し困惑の表情を浮かべつつも自身が知っている事を語る。
「私が知っている事は過去には大勢の聖女が居た事。魔王軍と手を結んだ――と、言われ数百年におよぶ戦いにおいて勇者様が魔王と聖女を討伐したことで今の平和がある。が故に聖女は禁忌なる存在だと」
どうして、そうなったのか謎だがそう語られている。そして、何故か皆がそれを信じている。教会や聖女達がどれだけの犠牲を払って前線で戦って来たのかを考えると吐き気がする。
「でも、イリーナ様達の様子を見ると、それもどうやら違う――と、いう感じなのでしょうか?」
と、エリアーナが言うとヴィルヘルミーナ嬢は「真実は分からないわ」と、嘆息気味にそう言った。そうだ、誰も真実を知る者はいない。アーバインもアレによって処刑されており、魔王軍との戦い――特に魔王との戦いで生き残った者で今なお生きているのは現勇者にして、この国の王であるアレスだけなのだから。
「聖女とは創世の女神ラミリア様による聖なる加護を持つ乙女の事を指し、この世に仇を成す存在と戦う者を導き、癒す役割を持った者を指すのよ。そして、聖女は聖なる加護によって特殊な魔力を持っていて、歪なる者達に対抗出来る数少ない存在よ」
私は出来るだけゆっくりと出来るだけ熱が入らないように呼吸を整えながらそう言った。これは聖女になった者ならば皆知っている神話にも出て来る話であり、歪なる者を知ればそれだけ聖女とは特別なのだと、魔なる者から皆を守れる、癒す事が出来るのは自分達だけなのだと認識するに至る話なのだ。
「そのような話、知りませんわ」
そう口に出したのだはヴィルヘルミーナ嬢とエヴィリーナ嬢だ。全く同じタイミングでよく似た反応、よく似た声で少し面白い光景に私は思わず優しく微笑んだ。
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