第33話 様々な問題
「まぁ、そうでしたわね」
と、エヴィリーナ嬢は楽し気な雰囲気でそう言いながら、スッと立ち上がりひとり掛けの椅子に座り直した。
「アンネ――んんっ、アンネローズから彼女の妹であるイリーナちゃんの話を聞いて中々に面倒な状況になっている様子だったから、出来ればヴィルヘルミーナには彼女達と仲良くしてあげて欲しいのよ」
中々にド直球な物言いに私は小さな驚きを感じたが、我が姉とも仲良くしているというのは今ある貴族社会とは違う人との付き合い方を求めているのか、もしくはそういう事に鈍感なのかは分からないが、面白い人物であるというのは確かだろう。
「別に仲良くするのは構わないけれども、同じクラスに第三王子殿下もいますわよね? 色々と面倒事になりません? シルフィンフォード家は特殊な立ち位置だからいいとしても、そちらの彼女は更に下位の貴族家なのでしょう?」
と、ヴィルヘルミーナ嬢は首を傾げる。凄く整った容姿から、まるで精巧に作られた人形のようにも見える美しさに私は思わず少しだけドキリとするが、我が家の天使には勝てぬと即座に思い出す。我が家の天使は誰が考えてもこの世で最も尊く可愛い存在なのだ。
閑話休題――確かにヴィルヘルミーナ嬢が言うようにエリアーナに関しては普通の上位貴族であればそういう判断をするだろう。
「――貴女達の雰囲気から既にクラス内で何か問題がありそうですね」
そう言ったヴィルヘルミーナからはどこか楽しげな瞳の色が見え、小さく上がった口角から、どこか恐ろしささえ感じるような雰囲気が見えて私は思わず息を呑んだ。
「そこは私から説明するよりも当事者達から説明した方がいいわよね?」
と、我が姉が楽し気な瞳をこちらに向ける。まぁ、言う通りではある。仕方ないと私は小さく息を吐いてから彼女にザックリと説明を行うのであった。
説明を終えると、ヴィルヘルミーナ嬢は呆れたように大きな溜息を吐く。
「ここだけの話として聞いて頂戴ね」
彼女の言葉に私とエリアーナは静かに頷くと、ヴィルヘルミーナ嬢は再度溜息を吐いてから口を開く。
「全く――今の王族は頭がおかしいのしか居ないのかしら?」
正直、その言葉には賛同である。そもそもアレが王をやっているという状況がおかしいのだ。本来、現王妃であるビシュリアンヌが女王として立てばまだよかったのだろうが――アレはアレで問題だらけだから、碌な国になっていなかっただろう。
確かに勇者の称号を得た者が王となっている状況はこの国においては良かったのかもしれないが、元よりあった
これは遠くない未来、必ず国が内側から荒れる兆候と言ってもいい。
「実際、今の王家は武という点においては強くはあるけれど、問題行動も多いですわね。特に王もですが、王子達も女性問題を多く抱えているせいで、一部上位貴族の間でも子女を生贄に差し出して政治的優位を得ている家もありますし――」
と、エヴィリーナ嬢もヴィルヘルミーナ嬢ととても似た溜息を吐く。他にもごまんと問題を抱えているが、それは今はいいだろう。しかし、デュラディス大公家も政治的意味合いで言えば、その存在は国が荒れる可能性を秘めており、この国の次の王へと担がれる可能性が一番高い位置にある。
一番正当な血筋とも言われているデュラディス大公家が前々王の弟であったパレトル大公家の下にある事も問題だ。確かに直系という意味でいえばパレトル家も正当なるエリセウス王家の血筋を持っているが、パレトル家の初代当主は側室の子でしかも、その側妃は血統を随分と誤魔化していたことが判明したのだが、当時の王がパレトル家を守った為に今のかの家がある。
実のところ、当時から王家に近しい派閥は二つに割れていて、デュラディス大公家を王家に復権させる派閥と現王家に阿る派閥とに分かれていて、これは現在でもそうだが、今までのエリセウス王家が悉くデュラディス家を政治的な場から排除した結果、血筋としてはデュラディス家の方が古く、由緒正しい事は皆が知っているが、力のないデュラディス家に従う者は正直言って少ない。
「まぁ、諸外国にしか力を発揮出来ない我が家からは何も言えませんけれどね」
と、ヴィルヘルミーナ嬢は嘆息しつつそう言った。
「ま、それはそうですわね。色々と我が家にしてくれる者達もいるにはいますが、政治的な立ち位置といえばどっち付かずで、上位貴族達からも敬遠されてますからね」
楽しそうにそう言うエヴィリーナ嬢に姉の思惑が分かった。なるほど、彼女達と仲良くすることで王家以外の上位貴族から確実に敬遠されるというわけだ。
「――なるほどね、貴女達は私と仲良くして利益があるのね。でも、私には利益が無いように思うのだけど、その辺りはどう考えているのかしら?」
ヴィルヘルミーナ嬢も意図に気が付いたようだが、彼女は思ったよりも強かな性格をしているのか、自身の利益を求める――か、確かに利益は無い。私はとりあえず彼女を納得させるモノが無いか何か考えるのだった。
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