第29話 姉の告白

 馬車の中、我が姉から発せられた突然の告白。当然、何を言っているんだ? と、普通の人が聞けば思うことではある。


 が、私はそうでは無い。実は私も前世では夢の中で幾度か女神ラミリア様と会った事がある。故に私は使命を全うする為に頑張れたのだ。アイツに殺される事になるとは思ってはいなかったが――


 今世では一度も私の夢にラミリア様が降りて来たことは無い。しかし、前世ではマリアンヌや他にも聖女達には女神ラミリア様が降臨し、助言や加護を授かる事例は存在していた。


 現世ではその辺りの話は文献などにも一切乗っておらず、それだけでは無く、隠蔽された痕跡も幾つか見られた。私は聖女に関わる部分だからだと思っているので、この姉の告白は随分と重みがあった。


「突拍子も無い話だと思うでしょうし、普通に話せば馬鹿にされるかもしれない――いえ、妄言だとか、気狂いかと思われるかもしれないわね」


 と、姉は小さく苦笑するが、私は小さく首を振って「そんな事はありませんお姉様」と、返事をした。


「――お姉様はもしかして、加護を得ているのですか?」


 加護とは前世でも幾人かの聖女や聖職者が得ていた魔法とは異なる特異能力で小さなものであれば少し人より幸運だったり、大きなものであれば魔法の効果を向上させるなど、様々な加護が存在していた。現在、加護を持つ者はほぼ居ないような風潮――というよりも聖職者も元聖女、現在の聖騎士達も加護を得ていたとしても、決して口外しないだろう状況だ。


 そして、姉は小さく口角を上げた。


「ええ、絶対に口外してはダメよ。私は『真贋』という加護を持っているの」


 と、聞いた私は驚いた。表情に思いっきり出して驚いた。


 前世でも『真贋』を得ていた者は当時見た過去の文献でも伝承レベルの加護であり、その力は様々なモノを見通す加護だ。特にその力を発揮するのは一見見ても分からない魔力や魔法効果を理解することだ。


 故に私が魔力隠蔽を伝えただけでそれがどういう方法で行われているかを即座に理解して実践出来た――と、いうことなのだろう。


「さすがにお父様には――」

「それは出来ないわ」


 と、私の言葉を遮るようにそう言った。


「何か……理由でも?」

「そうよ、これは言えない理由があるのよ。でもね、イリーナには私が言った事である程度は理解出来ると聞いているから――」


 そう言った姉はどこか悲し気な瞳の色を見せ小さく微笑んだ。


 そして、何故言えないかを私は即座に察した。強力な加護を得る場合、制約というのが必ずあるからだ。前世の私にもあった――と、いうよりも現在もその加護が生きているのを私自身は感じている。故に私は現在もその制約が存在しているハズだ。


 私の持つ制約は制約というより呪いに近い。聖女としての力もそうだが、私は身体強化以外の魔法は扱う属性の程度によるけれど、魔法を使うと必ずその効果が減衰する。前世の私が調べた時は四属性は三分の二、聖属性は浄化以外の魔法は全て半減、闇属性に至っては逆に自身に倍の反動が返ってくる。故に回復魔法が苦手だが、魔力量と聖女としての力である浄化と聖属性の付与に特化した聖女だった。


 これは因みにだが、マリアンヌも私と似たような制約を持っていた。回復魔法の効果が上昇する代わりに他の魔法は減衰する制約だ。彼女は回復魔法に特化した聖女で、教会上層部からも魔王軍との戦いでは私とマリアンヌは常に共に行動を共にするように命令されていた。まぁ、これは命令されなくても、マリアンヌと共に行動していたのだけど――上層部から指示された王都での云々には関わらせないように苦心したけれどね。


 我が姉の持つ加護を考えるとかなり大きな制約が課されていると思う。そして、それを言えないのも制約なんだろう。ただ、姉が私に言えばある程度理解出来るとラミリア様が仰ったということだろう。と、いうことは私に前世の記憶や聖女の力などもラミリア様のお力なのかもしれない。


「ともかく、言えることは言ったわ。私の使命は貴女達を助けることなのだから、困った事があったら直ぐに私に言うのよ? わかった?」


 と、姉に言われたのだが、その圧は中々に思わず幾度も頷いてしまう。


 そうこうしている間に学園の門を通るのが見え、しばらくして馬車が止まり、御者が馬車の戸を叩いた。姉の専属メイドのシンディが即座に席を立ち戸を開ける。


「シンディ、ありがとう」


 姉はそう言って先に馬車を降り、私もそれに続くと先に降りた姉がスッと手を出し、私はその手にソッと手を置いて馬車のステップをゆっくりと降りる。


「さて、イリーナ。昨日の話だけど、今日の授業終わりに教室へ迎えに行くから待っていて頂戴ね。じゃ、今日も頑張るのよ」


 と、姉はそう言ってから私の頬をソッと撫でてから、軽い足取りで学園内へ向かって行くのであった。私はメルビーに声を掛けられるまで思わず立ち尽くしていたが、周囲の視線に気が付き慌てて学園内へ向かうのであった。

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