第28話 姉と一緒に

 翌日の朝、朝食後に姉から声を掛けられ、私は思わず首を傾げた。


「イリーナ、なんで首を傾げるのかしら?」

「いえ、学園が始まって数日の間、初めてのことでしたから理由が分からないと思ったので……」


 そう、姉から言われたのは一緒に学編へ通いましょうという誘いだった。学園に通い始める前にメルビーから基本的に兄弟姉妹と共に通うというのは基本的に無いと聞いていたのもあって、普通はしない誘いを姉がしてきた意図が分からないというのもあった。


「ま、普通は一緒に通うことはしないわね。でも、下位貴族では時折そういう家の者達もいるのよ。私は同じ家に住んでいるのだし、同じ時間に同じ場所へ向かうわけだし、帰りだってだいたい同じ時間になるわけでしょう? 別々に帰りたければ迎えの連絡を入れれば小一時間で迎えは来るわけだから、問題も無いでしょう?」


 と、姉はあっけらかんとした雰囲気でそう言った。確かにその通りで例え上位貴族だからと言って皆が個別の馬車で学園へ向かわなければ多少なりと学園へ向かう馬車の渋滞も緩和されるのでは無いかとまで私は思ってしまう。


「と、いうわけで今日から一緒に通いましょう」


 そう言われ私は断る理由も無いので「わかりました」と答えると素敵な笑顔を返された。うん、我が姉も天使だった。ま、マリーに比べれば数段落ちるのは仕方無い。彼女は本当に可愛いのだ。神が与えたもうた究極の創造物なのだから。


「でも、お父様やお母様にお小言を言われないでしょうか?」

「大丈夫、大丈夫。それくらいで文句を言う方々では無いわよ。それに学園へ向かう途中で面倒な渋滞の最中、話し相手がいるというのは悪い事では無いわよ。ね? シンディとメルビーもそう思うでしょう?」


 と、姉は自分の専属メイドであるシンディと私の専属であるメルビーに向かってそう言った。


 当然だけど、二人ともが否定するわけも無く「お嬢様達は仲が宜しくて良いですね」と、シンディは楽し気に微笑む。メルビーはやや苦笑するのを隠しつつ「そうですね」と、答えた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 確かに毎日それほどの距離では無いのに通うのに1時間以上掛かる馬車も話が出来る相手がいるというのは悪い事では無い。が、家での姉に対する今までのイメージと、私の目の前に座る姉のイメージは幾分異なって見えた。


「そういえば、イリーナは魔力隠蔽がとても上手いわよね。私にも教えて貰えないかしら?」


 と、中々に踏み込んだことを言ってくる。外に話が漏れる心配が無いのは貴族が使う馬車は馬車というよりも魔道具の一面があり、外には音や誰かが乗っているのは見えず聞こえずの魔法付与が掛かっている物があり、我が家の馬車も多くは上位貴族でも使わない程の強力な魔法付与がされている馬車を使っているらしい。


「正直なところ、教えるのは別段構わないのですが、もし今まである程度感じられた魔力量のお姉様がある日突然に魔力量を感じ取れなくなると問題が起こりませんか?」

「あー、なるほど――それは確かにそうだけど……ん~、どうなのかな。とりあえず理論的な部分だけでもいいから教えてくれない?」


 姉はそう言いながら瞳を輝かせる。これは言わないと絶対に折れない雰囲気に私は小さく息を吐き、魔力の隠蔽と圧縮について話す。当然、専属メイド達には絶対に口外しないように念押しした上での話だ。


 そして、話し終えた傍から姉は即座にそれを実行する。いや、まて――と、言いたいほどに姉は華麗に魔力を圧縮し、それを体内の奥深くへ消し、私と同等レベルの魔力隠蔽を行う。


 何となくは思っていたのだけど、彼女は真の意味で天才なのかもしれない。そんな事を思っている間に元の状態へ魔力量を調節し、はた目から見て元通りになった――と、いうか、我が姉は元々からある程度、自力で魔力隠蔽を行っていた事が分かる。


 確定では無いけれど、思っている以上に彼女の魔力量は群を抜いて多い。前世のユリウスには及ばないが近しいくらいの魔力量を現在でも持っている。


 あと数年は魔力量は成長する事を考えれば、英雄の素質を持った人物なのだろう。父や母が兄達の事は話しても姉の話をあまりしないのは姉も特殊な素質を持った者だからかもしれない。


「うん、あれだね。魔力量を見て判断する者に対しては意外と有効な手段の一つになりそうね。ただ、隠蔽出来ると知られるのは問題があるかもしれないわね」

「――はい、それは当然だと思います」


 私がそう言うと、姉はワザとらしく溜息を吐いた。


「イリーナには話しておこうかな。私、お父様にもお母様にも言っていない事があるのよ。あ、当然、シンディとメルビーはこれから話す内容を口外したら、私、全力で殺すから、覚悟してね」


 と、楽しそうな笑顔でそう言った。意外と我が姉は危険な人間なのかもしれないと思いつつも、それなら、なぜ自分から話そうとするのか? 私は思わず眉を顰めた。


「そんなに警戒しなくても大丈夫よイリーナ。私ね、ある日、夢の中でラミリア様に会った事があるのよ」

「は?」


 突然の告白に私は思わず素っ頓狂な声を上げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る