第27話 姉の実力
その後、父に連れられて私と姉は地下にある広い一室で対峙している。父曰く、秘密の鍛錬場らしい。なんで、こんな場所があるのか疑問では――いや、20年以上前であればこういう場所が確保されているのは当然ではあった事を考えれば、我が家の王都宅もかなり古い屋敷なのであって当たり前ではある。
「攻撃魔法は禁止、使えるのは身体強化のみ――で、あっているかしら?」
と、姉が言うと父は無言で頷く。姉は楽し気に何かを確かめるように数度ぴょんぴょんと軽く飛んでから手にした模擬用のメイスを軽く振った。
私は手にした盾とメイスの感触を確かめつつ、目の前にいる楽し気な姉が小さく「よし」と、言った事に気が付いてすぐさま身構える。
瞬撃の乙女の二つ名に恥じない速度での盾を前に持った突進に私は驚きつつ、姉の盾に自身の盾を合わせて自身の軸を意識しつつ姉の軸をずらす為に右側へ逸らす。
しかし、姉も流石と言えるが身体を回転させてメイスで私に攻撃を繰り出して来る。私はそれをメイスで弾くが姉もそれを予想していたのか、弾かれた勢いのまま自身の身体を後ろへ飛んで勢いを殺す。
「凄いわねイリーナ。全く元の場所から動いていない……」
そう感心するように言いながらも、彼女はさらに速度を上げて攻めて来る。初弾は相手を驚かすような一撃だったが、次の攻めはどちらかと言えば堅実かつ手数を多く相手の動きを制限するような攻めに変わる。
私はそれを的確にいなし続ける。が、正直なところこちらから攻めるという事に少し躊躇している。何故かというと、私自身がどこまで力を出せばいいか、加減する方法というところを測り切れていないからだ。
相手がアイシャのような聖騎士と同等であれば、ある程度は分かるが、姉の実力を測り損ねているからだ。
実際に実力的にはかなりのものだと思うし、魔力の使い方も器用で前世の記憶でも上位の騎士に至るほどの素質もあるとは思う。けれども実は判断を鈍らせる原因となっているのは魔力を抑え込む技術が現代ではかなり進歩している所為でパッと見の雰囲気では判断しづらいことだ。
「あら? 何を遠慮しているのかしら、貴女の実力はそんなものなのかしら?」
と、姉が楽し気に挑発してくる。かと言って――だ。中々に難しい判断だ。そんな事を思いつつ私はゆっくりと息を吐く。身体中に巡る魔力密度を少しだけ解放しながら姉の攻撃を受け流しながら、そっとメイスを当てるように動かす。
「!?」
「お姉様、ケガさせたらごめんなさい……」
そう言って私は少しだけ魔力を込めメイスを動かす。姉は私の魔力を感じ取ったのか勘かは分からなかったが、スッとメイスを引いて盾を構えて私の攻撃を受け止めようとした。
が、次の瞬間に姉の盾を大きく吹き飛ばす。姉はあまりの衝撃に驚いた表情を浮かべつつも、キチンと勢いを殺す為に派手に後方へ飛んだ。
「っと、驚いたわね。見た目の動きと威力の差がありすぎて驚いちゃったわ」
彼女は臆することなく笑顔で言った。
「いいね、私ももう一段気分を上げて行くわね!」
そう言うと姉はさらに魔力濃度を上げ、ボロボロになった盾を捨ててメイスを握り直しにこやかに微笑んだ。
私とは質が違うけれど、魔力量を随分と偽って見せる技術に長けているようで前世でもみた事がある上位騎士達特有の密度の濃い戦う事に特化した魔力の使い方だ。
少しドキドキした思いを隠しつつ、私もそれに合わせるように魔力をさらに解放しようとしたところで、父からの制止が入る。
「そこまでだ、二人とも。これ以上は外に魔力が漏れる恐れがあるから止めなさい」
そう父が言うと姉は面白くなさそうに「ちぇ~」と、口を尖らせつつも魔力を抑えて戦闘態勢を解除した。私も同様にゆっくりと呼吸を整えながら、魔力を隠蔽した。
「もう少し楽しみたいところでしたが、仕方ありませんね」
と、姉は楽しそうにそう言ったが、私は戦いを楽しむタイプでは無いので特に楽しいとかそういうのは無い。ま、確かに姉くらいの戦闘力があれば、よい鍛錬にはなりそうではある。
「それから、次からは魔力を使った身体強化も無しだよ。私の読み違いだ、君達は兄弟姉妹の中で突出していると言えるだろう。まったく……アンネローズもいつの間にそこまで強くなっていたとは想定外だよ――と、いうかアイツ等と鍛錬しているのは知っているが、私に敢えて報告していなかったようだね」
父は後半ブツブツと文句を言いながら深い溜息を吐くのだった。たぶん、アイツ等というのは我が家の騎士団の人達だろう。護衛でいる騎士の中にも結構な強さを醸し出している人が複数いるので、我が家の騎士団というのはかなりの強さを持っているのだろう。
「アンネローズは外でもそこまでの魔力を出して戦ってはいないだろうね?」
「――まぁ、それは当然です。正直、本気であれば兄様達にも負ける気はしまわせんわ。お爺様とは一度鍛錬したいとは思いますが、お父様の許可が出そうにありませんわね……」
と、姉が言うと「あの方は喜ぶだろうが、今は認めれぬな」と、父は再び深い溜息を吐く。お爺様と言えば辺境騎士団の団長であったキーンベルク男爵――既に引退されているという話だから、前男爵のことか。
前世の記憶でいえば周辺諸国さえも恐れる辺境の怪物だとか、様々な二つ名を持っていた暑苦しい男であり、魔王軍との決戦でも前線までの維持に尽力してくれた人だ。現世ではまだ会った事が無いのは幼い時から病弱であった所為で王都に来ていなかった為だけど、私にも会いたいという話を幾度か母から聞かされている。
「はぁ、力を持っていても誰にも見せてはいけないというのは問題がありますわね」
姉はどこか面白く無さそうにそう言ったが、私としては別に誰にも見せる気は無いので特に問題は無い。が、姉は私に比べて、少し目立ちたがりな部分があるのだろう。
「今の情勢を考えるとアンネローズのように目立つ必要は無い――ともかくだ、色々と君も理解しただろう?」
「――まぁ、そうですわね」
「で、あれば学園内では君が上手い事考えてやってくれ。イリーナはアンネローズがいる2年間は上手く彼女を利用して立場や仲間を作りたまえ、わかったかい?」
と、言われて私は静かに「わかりました」と、答えた。
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