第26話 姉の気付き
エリアーナを送り返してから気が付いたが、姉が紹介してくれるという者は自治組織の仲間なのだろう。にしても、学園のことはあまりよく分からない――いや、知らねば色々とマズいような気もしなくない。
そんな事を思いつつも夕食の時間が近い事をメルビーに伝えられ私は急いで食堂へ向かう。いつもであればマリーを迎えに行ってから母と共に食堂へ向かっていたのだが、既に皆食堂へ着いていると聞かされ、私はしくじったと思いながら食堂の扉を開ける。
「遅くなりました」
と、そう言って食堂に入ると、どこか不機嫌そうな父と楽し気な笑みを浮かべている姉、そして、いつもと変わらないおっとりした雰囲気の母と楽しそうな大天使の姿を目に映る。
おや? 次兄がいないのはどういうことか不思議だけれど、あの人はどこか自由なところがあるので、今日はどこかへ出かけているのかもしれない。
「遅かったな。学園で友人が出来たようだが、上手くやっていけそうかい?」
と、父は小さく息を吐いた後にそう言った。不機嫌そうな原因は私ではないようで私は一安心しつつ、席に着いてから笑顔で父に応える。
「はい、よい友人になれるかはまだ分かりませんが、問題無く過ごせればと思っております」
そう言うと姉の口角が小さく上がるのが見える。表情を上手く隠せていない――と、いうよりワザとかもしれない。なんとも意地悪な姉だ。けれども、悪い気はしないところが姉の良いところと言えるだろう。
「――まぁ、出来るだけ目立ち過ぎないように気を付けなさい」
と、父が言った。この言葉には私の魔力量や技術に関しての含みがある言葉だ。それに私の力に関しては家族の中でも父と母しかしらない話だが、姉は色々と察しているかもしれない。
「でも、イリーナのことだから妙に悪目立ちする未来が見えるのは私だけでしょうか?」
姉がそう言ったのを両親も確かにと言わんばかりの表情を見せた。少しその辺りは納得出来ない。
「アンネローズも学園にいる間はイリーナのことを気にかけやってくれ」
「可愛い妹ですもの当然です。ここで話すのは少しとは思いますが、お父様。学内でイリーナと模擬戦をすることをお許し頂きたいの――」
「それはダメだ」
と、姉の言葉を遮って父は否定する。さすがに早すぎるけど、理由を聞かされないと姉も納得しないのでは無いだろうか。因みに我が家でも私の教育だけ兄達や姉を一切介入させないようにしていたのは私の所為ではある。
「――今は食事が先だ。後で話をしようかアンネローズ。いや、イリーナも来なさい。いいね?」
父は少し困った顔をした後にそう言って優しく微笑んだ。姉は仕方ないという雰囲気で小さく息を吐いて「わかりました」と、言うと可愛らしい声がさらに追撃する。
「マリーもおはなしききたいです!」
大天使の良い笑顔に私達家族はほんわかした表情になりつつ、父は本当に困ったという顔をして母に視線を向ける。
「マリー、我儘を言ってはダメよ。当然、皆もマリーともお話したくて仕方ないでしょうけど、それにマリーの寝る時間が遅くなってしまうかもしれないでしょう?」
母がそう言うとマリーは困った顔をする。寝る時間が遅くなると体調を崩す事がある事を大天使は自身理解しているとても偉い子なのだ。が、私もマリーに隠し事はしたくない気持ちはあるが、中々に難しいだろう。
「ここ最近は体調を崩してはいませんが、いつお熱が出るか分からないでしょう? そうなれば、治るまでお姉様達とは遊べません。マリーは偉い子でしょ?」
「はい、マリーはエライこなのでおかあさまの言うとおりにします」
うん、本当に偉い子だ。因みに後ろに控えているメイド達もマリーにメロメロだ。食堂にいる者達全員がほんわかした表情を隠しきれずにフワフワした空気が広がっているのに私は少し面白くて笑いそうになるが、息をゆっくりと吐いて笑いを耐えるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さぁ、お父様。さっさと話をしてくださいませ」
食事の後、すぐに父の執務室にやって来て姉の第一声がこれだ。意外とせっかちなところがあるのだな。と、私は少し姉の意外な一面を知れ、なるほど。と、思っていると父が困ったように溜息を吐いた。
「まずはアンネローズはどこまで気付いているんだい?」
と、父は姉を試すような視線を向ける。姉も試されているというのに気が付いたのかどこか楽し気な瞳を輝かせつつ小さく息を吐く。
「病弱だったころと比べて、とても元気そうで私の大切な妹のひとりです。イリーナの魔力量は元から多いのは知っていましたが、現在のイリーナからは魔力が全く感じられない――と、いうことは魔力を秘める方法かもしくはそういった魔道具を常に身に着けているか――」
そう言ってチラリと私を見てウィンクをする。なんとも曲者な姉だ。
「キチンと話をした方がよさそうだね。いいかい?」
父は私に視線を向け、私は小さく頷いた。姉に隠していてもいつかは気付くだろうし、学園内に協力者として身内がいた方が安全性もあがるだろう。
「イリーナはそうだな、古い言い方で言えば聖女だ。魔力量の多さもさることながら、聖女特有の魔力を持っている――」
「故に上位貴族――いえ、王家に近しい者にバレるとマズいというわけですか?」
「その通りだ。君達は知らないだろうが、現王が王位に就いた後の魔女狩りという名の聖女狩りは本当に凄惨だった。教会の上層部は腐敗し、現王にすり寄り一部の教会会派は上手く聖女を隠すことに成功はしたが、現在でも聖女特有の魔力を持つ娘が見つかれば大変な事になる。当然、我が家は古くから聖騎士を輩出する騎士の家だ。その中でも聖女の血脈が繋がっている故に聖女が生まれる事もあるとは思っていた――」
そう言った父の表情はどこか苦々しいモノを感じる。たった20年で聖女という存在が禁忌のような扱いになった経緯はアイシャからも聞いているが、正直言ってアイツの行動は意味が分からない。
「しかし、模擬戦など含めイリーナは特別な教育を受けていると聞いていたのですが、それさえも外に漏れるとマズい――と、いうことですか?」
姉の言葉に父は静かに頷いた。
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