第22話 面倒は絶対に起こる
馬車は王都にあるシルフィンフォード邸に到着し、私はエリアーナを連れて彼女を客間へ待たせてから、家の者にマヒューズ子爵令嬢と客間で少し話をする旨を伝え、さらにマヒューズ子爵家の御者に伝言を伝えて旨を伝え、出来る事ならば使いを出して欲しいと伝えておく。
そして、私は客間に戻り不安そうに座る彼女の正面に座る。
「馬車の中で話したことの続きなのだけれど、貴女の望みを先ずは聞かせて貰えないかしら?」
私の言葉にエリアーナは緊張した面持ちで小さく俯き、しばしの沈黙の後にスッと顔を上げる。まぁ、不安そうなのは変わらないけれど、決断したような瞳に力強い色合いを見せる。
「上位貴族との関わりというのは外せないものです。ただ、私では力不足なのは今回の親睦会にてよく分かりました。そこで、イリーナ様とは出来るだけ協力したいと思うのです」
ま、至極真っ当な話ではある――が、そもそも私は出来るだけ人と関わらずに過ごしたいと思っているのだが、まぁ、無理に突き放すのも自分的には出来ない話だ。
「かと言って、先程も言いましたがあのクラスは王族や大公、公候と上位の貴族令息令嬢しかいないわけです。私も家格で言えば伯爵家の人間ということを考えれば協力と言っても出来る事は限られるでしょう?」
「――はい、それは当然分かっていますが、出来るだけあの娘に関わらずに人間関係を構築した方が……そ、その良いと思うのです」
あの頭のイカレタ娘と出来るだけ関わらない方向なのは当然として、そういった人間関係を構築するのは間違いでは無いだろう――が、それくらいで簡単に止めれるタイプでは無い。
しかし、一番の問題はあの王子がイカレタ娘と和やかに話をしていた件だ。彼がもし男爵令嬢である彼女と学園で親しくしたとしても、よほどの事がなければ良き関係というモノにはなり得ない。
まぁ、彼女の場合はそれが分かるかどうかさえ怪しいが、周囲は確実に排除したいと思う可能性が高い――が、現状、この国では王族が今の王であるアレとあの王妃、そして、その三人の子供しかいない。なぜ、そうなっているかは私には分からないが、アレが王になるまでに何かあったことは間違いない。
王位継承権だけを考えれば大公家もいるわけだが、現状は勇者であるアレの権力が非常に強く、簡単に王家の者に対して物言える者達が居ないことだ。
当然、その子供達とて同じこと。
簡単に王子に対して多少の注意は出来たとしても諫言出来るほどの者はいない可能性も高い。それを考えると多少は上位貴族を巻き込んだ上で協力体制を作り上げる必要性はあるだろう。
と、私は考えながら小さく息を吐いた。
「貴女はあの娘がこれからさらにやらかすと思っているのね?」
「――はい。正直言って貴族の常識を知らなさすぎる感じがありますし、彼女自身がその常識自体がいらない物だと思っている節があります。確かに下位貴族の中では実利主義の者も多く、階級など意味を成さないと言っている方々も居る事を知っています」
「だからと言って、貴族派の貴女が中立派貴族で且つ、伯爵程度の家格の人間に何か出来ると思っているのかしら?」
これは彼女が我が家であるシルフィンフォードだからという理由を言っていたが、私はそれを理解することが出来ないし、する気も無い――が、彼女等他家の者達が我が家をどういう風に見ているのか知りたいところではある。
「かの魔王軍との戦いで最後の戦いではシルフィンフォード家に連なる者達の多くが活躍したと聞いております。それに新たな勇者を王に迎え、今の貴族社会において辺境伯家と並びシルフィンフォードはどの派閥にもどの階級であろうとも意見できる権限をお持ちだと聞いた事があります……」
これは初耳の情報だ。確かに前世でもシルフィンフォードの人間や古くから敵対する国境の守り手として位置するティバレス辺境伯などは多くの騎士達を持っていた。特にシルフィンフォード領は魔王軍の勢力圏と接し、私達が魔王を倒しに向かう時も多くの騎士達を率いて前線で戦っていた。
しかし、父の姿を見てきたが中央には基本的に関わらないようにしていたようだし、そこまで他の上位貴族達が我が家の者達に一目置いているようには感じなかった――が、彼女がそう言うのだから何かあるのだろう。
「残念ながら、私は聞いた事がありません。それにシルフィンフォード家の家格は伯爵家と言っても最上位というほどではありませんし、ここ何年も引き籠り貴族だとか、僻地の田舎貴族など、どちらかと言えば下に見られている貴族筆頭ともいえると思っています」
と、私がいうとエリアーナはポカンとした表情となる。
「ですが……」
「貴女の言う言葉も分かります。あの娘がとても危険な存在だという認識もしています。ただし、あのクラスの中で私と貴女が協力関係にあったとしても、上位貴族達との諍いに巻き込まれるのは必須です」
私の言葉にエリアーナはしょんぼりと俯く。難しい話ではあるが、現実を見据えて動かねばなんとも面倒なのだ。力でゴリ押ししていう事を聞かせれるのであれば、そこまでは難しくは無いとは思うけれど。
「では、どうすれば……どうすれば協力して頂けるのでしょうか……」
と、彼女は呟くように言った。どうやら少し勘違いをしているようなので私は小さく息を吐いてから彼女の視線が私に向くように誘導する。そして、視線が合ってから小さく微笑む。
「貴女と協力することは当然です。しかし、それだけではダメだと言っているのです。クラスの中はとても複雑な上位貴族の人間関係があります。そして、そこに確実に嵐が来るでしょう――その時に頼れる相手が必要になります。ただし……」
そこまで言って私は再び息を吐く。そうなのだ――問題は上位貴族の中で協力を仰げそうな人間が全くもって私には想像もつかない。なぜならば、その為の情報を持ち合わせていないからだ。
そこをクリアしなければ、この話は成り立たない。なんとも面倒この上なしである。
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